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未来の食料生産を支えるのは畑ではなく植物工場で行われる「垂直農業」になるかもしれない


従来の畑で行われる農業に代わって、近年では水をほとんど使用せずに作物を育てることが可能で、狭いスペースを有効活用できる「垂直農業」が注目を集めています。そんな垂直農業の可能性について解説するムービーが、YouTubeで公開されています。

Why Vertical Farming is the Future of Food - YouTube


21世紀に生きる人々は、従来の農業を大きく転換する必要に迫られています。


2050年までに地球の人口は90億人に達すると見られており……


人口増加に伴ってこれまで以上に多くの食料を生産する必要があると指摘されています。


従来の農業は大量の土地と水を必要とするものであり……


記事作成時点で全世界で消費されている淡水の70%が、農業に使用されているとのこと。


そのため、効率の悪い従来式の農業では大幅な人口増加に対応することは困難です。


これまでの歴史で、人類は森林や草原を切り開いて農地を作り出してきましたが、新たに農地として利用可能な土地はあまり残されていません。


既に南アメリカ大陸と同じほどの面積が、農地として使用されているそうです。


また、気候変動や過耕作、土壌の浸食といった要因により、農地として利用可能な土地は次第に減少しています。


人口の増加と農地の減少により、将来の人々が生存に必要な栄養を含んだ食事を摂れなくなってしまう可能性もあるとのこと。


「より多くの食料を、より少ないスペースで生産する」という課題の解決策となり得るのが……


屋内の植物工場で行われる「垂直農業」です。


既にいくつかの企業が垂直農業に参入しており、一定の成功をおさめています。


垂直農業は言葉通り、空間を垂直に利用して植物を栽培するという農業方法です。


従来の畑では地面の面積分しか植物を栽培できませんが……


垂直農業では垂直方向の空間を利用し、狭い面積でも多くの植物を栽培できるというメリットがあります。


この仕組みを利用すれば、街中の高層ビルや……


倉庫などを利用して農業が可能になるとのこと。


垂直農業で重要な要素が、「物理的なレイアウト」「照明」「培地」「持続可能性」の4つです。


物理的なレイアウトは、プランターのような培地を縦方向に積み重ねるか、地面から垂直方向に伸びた培地を使って複数の植物を育てるかで解決されます。いずれの手法でも、平面空間だけで栽培を行う場合と比較して、作物の収穫量が増加することが見込めます。


垂直農業ではほとんどの場合、天然の太陽光を使いません。


そこで、光合成によって生長する植物を育てるため、人工の照明を用いる必要があります。


一般的に、植物工場の照明にはLED照明が用いられますが……


近年ではLED照明のコストが低下して10ドル(約1100円)未満になり、電球の持続時間もおよそ5万時間ほどに伸びているとのこと。


LED照明の発達は、植物工場の運営コストを大幅に下げ、収益を増加させることを可能にします。


また、植物工場の照明は紫色やピンク色のケースがよく見られますが……


これは、光合成に関与する光の波長が青色と赤色であるため。


それ以外の波長は必要ではないそうで、エネルギー効率の観点から植物工場の光は青色と赤色という2色の光が混ざった色合いになっているとのこと。


また、植物工場では一般的に土壌を用いない栽培方法が採用されています。土を使わない栽培方法には大きく分けて3つの形態があり、植物工場によって使用される手法はさまざまだそうです。


1つ目が、「Hydroponics(水耕栽培)」と呼ばれる、植物工場では最も一般的なタイプ。水耕栽培では、栄養を豊富に含んだ水に根を浸し、水と栄養を供給します。


植物工場における水耕栽培では、水を効率的に再利用することで水使用量を削減できるほか、規模の拡大にも対応しやすいという利点があるとのこと。


2つ目の手法が、「Aeroponics(空中栽培/気耕栽培)」と呼ばれるもの。これは土壌も太陽も直接の水供給も必要としないユニークな栽培方法であり、NASAが開発した栽培手法です。


気耕栽培では栄養を含んだ霧を植物に噴霧することで水分と栄養を供給するとのことで、従来の農業と比較して水の使用量が90%も削減できます。また、この手法で栽培された植物は、ミネラルや栄養素をより豊富に含んでいることも示されています。


3つ目の手法が「Aquaponics(アクアポニックス)」と呼ばれる手法。これは魚などの養殖と水耕栽培を組み合わせたシステムです。


まず、養殖場では魚が育てられており、魚の排せつ物に由来する栄養素を含んだ養殖場の水が、植物の水耕栽培に利用されます。そして水耕栽培に利用された水はろ過され、再び養殖場に戻されるという仕組みとなっています。アクアポニックスは生産的でバランスの取れた手法ですが、養殖と植物栽培を組み合わせた複雑さから、それほど多く用いられていません。


これらの手法を用いることで、植物工場は持続可能性が高い農業として、世界中の食糧供給を支えることができます。


植物工場の運営には多くのエネルギーや水が必要となりますが、雨水を貯めるタンクや再生可能エネルギーと組み合わせ、これらの問題を解決することができるとのこと。


食料生産の中心を従来の農業から植物工場へ転換することには、作物の収穫量を増加させること以上の利点があります。


たとえば、一般的な畑では1平方メートル当たり3.9kgのレタスが収穫できる一方で、250リットルの水を使用し、レストランやスーパーなどの小売店に出荷するため2000マイル(約3200km)もの距離を運搬しなければなりません。


一方、都市部に作られた植物工場では、1平方メートル当たり80~120kgのレタスを生産可能でありながら、使用する水はわずか1リットル。郊外の畑で作られたわけではないため、レストランや小売店への運搬距離もわずか43マイル(約70km)ほどで済むとのこと。


土地や気候の条件に左右されない植物工場はどこにでも建造可能であり、1年中食物を生産することが可能です。


既に世界中で植物工場が建設されていますが、中でもアメリカ・ニュージャージー州に本拠を置くAeroFarmsは、ニューアークに7万平方フィート(約6500平方メートル)もの巨大な植物工場を建設しています。


この農場では200万ポンド(約900トン)もの栄養豊富な野菜が収穫できるそうで……


アメリカ北東部のスーパーマーケットで、パック詰めの状態で販売されています。


また、シンガポール航空などの機内食にも、AeroFarmsが生産した野菜が使われているとのこと。


AeroFarmsのケースは、あくまでも一例に過ぎません。


世界中の企業が植物工場に着目しているため、植物工場で作られた野菜が一般的になる日もそう遠くないかもしれないと述べて、ムービーは締めくくられました。

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in サイエンス,   動画,   , Posted by log1h_ik

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