2017年最大のIPO 、「飛脚」の佐川が上場 —— ヤマト、日通、郵便の3強を追う”脚力”

佐川急便を傘下に収めるSGホールディングスが12月13日、東証1部に上場した。時価総額は6000億円を上回り、2017年で最大の新規株式公開(IPO=Initial Public Offering)となる。SG株の初値は1株1900円で、売り出し価格の1620円を17%上回った。日中の最高値は1945円、終値は1906円だった。

同社株式に対する投資家需要の強さを示すのが、その売り出し価格だ。仮条件の価格レンジである1540円〜1620円の上限に決まったことが証左といえる。「クロネコ」のヤマトホールディングスや日本通運、日本郵便の3強を追い掛ける、「飛脚」の佐川の戦略は?

東京証券取引所

SGホールディングスの新規上場は、2017年最大のIPOとして注目が集まる。

REUTERS/Thomas Peter

国内の陸運業界は、世界的なeコマースの拡大による物流量の著しい増加や、日本の労働者人口減少に伴う配送トラックドライバーなどの人手不足といった、成長への期待と直面する課題が混在する。そんな環境下で上場したSGホールディングスの株式は今後、市場で注目される銘柄の一つだ。

SGは創業者の佐川清氏が1957年に始めた京都ー大阪間を主体とする運送業に端を発し、2016年度の連結営業収益(売上高に相当)は約9300億円に上る。

ただ、事業規模ではヤマトホールディングス(連結営業収益1兆4700億円、2016年度。以下同じ)や日本通運(連結売上高1兆9000億円)、日本郵便(郵便・物流事業のみの営業収益1兆9300億円)の後じんを拝している。そのため、SGは2016年春、B to Bに強い日立物流(連結営業収益6654億円)と資本提携を締結。2019年4月以降に経営統合を目指し、今後は宅配サービスの「デリバリー事業」における効率化を図りながら、国内外における「ロジスティクス事業」を拡大させていく方針だ。

日立物流の強みはB to Bビジネス

佐川急便

SGは創業者の佐川清氏が1957年に始めた京都ー大阪間を主体とする運送業に端を発し、2016年度の連結営業収益(売上高に相当)は約9300億円に上る。

Business Insider Japan

その意味で、SGが日立物流に期待を寄せるのが後者のロジスティクス事業だ。

というのも、SGのコアビジネスは宅配便を中心としたデリバリー事業で、全体の収益の8割を占めている。2016年度の同事業の連結営業利益は、日立物流と車両を共同活用するなどして効率化を強化した結果、前年度比3.2%増え、396億円を計上している。対照的に、ロジスティクス事業は苦戦を強いられており、特に海外事業で円高による為替変動の影響を受けるなど連結営業利益は3割近くも減少した。

一方の日立物流は「3PL(Third Party Logistics)」と呼ばれるB to Bビジネスを展開している。荷主(企業)に対して包括的な物流サービスを提供するもので、荷主の特性を理解した上で、ロジスティクスの企画から設計、運営を行う事業である。

同社は1950年に日立製作所の物流業務を担う子会社として設立、メーカー物流の分野での経験を培ってきた。収益の6割を占める国内物流事業は、物流システムの構築から在庫管理、物流センターの運営、3PLなどを幅広く行う。海外事業も800を超える海外拠点網を誇る。

SMBC日興証券で運輸・倉庫セクターを担当する長谷川浩史アナリストは、日立物流の決算後のレポートの中で、「(当初)期待していた以上に、(2社の)現場での協業が展開されている......両社の親和性が高いことは前向きに評価したい」と述べる。SGにとっての今後の課題は、この親和性の高さを生かしてロジスティクス事業の拡大と安定を図ることにある。

激化するグローバル網構築合戦

現にSGは2018年度までの3カ年経営計画の中で、「海外事業基盤を強化して、アジアを中心とするグローバル物流ネットワークを確立させること」を戦略の柱の一つに据えている。

もちろん、国内の競合企業も海外の物流ネットワークを手中に収めようと躍起だ。そして、その厳しさもよく知る。

日本郵便

2017年4月、日本郵政はトール社の業績不振などの影響を受け、「のれん代」など合計4000億円以上の減損損失を計上すると発表。

REUTERS/Kim Kyung Hoon

2015年2月、日本郵政はオーストラリアの物流会社トール・ホールディングスを約6000億円で買収することに合意した。その年の終わりに、民営化を進めて上場を計画していた日本郵政にとって、トール社の買収は世界的な物流網をつくる上で最重要と目され、市場の注目を集めた

しかし、2017年4月、日本郵政はトール社の業績不振などの影響を受け、「のれん代」(注:企業を買収する際に支払った金額と、 買収先の純資産の差額。将来の収益力やブランド力、技術力などを考慮して、純資産を上回る値段で買うケースも多い)など合計4000億円以上の減損損失を計上すると発表。買収時におけるリスクの把握の甘さが、海外の大型M&A(合併・買収)の副作用として現れる結果となった。

ヤマトはアジアに熱い視線

ヤマトホールディングス

ヤマトは、全体の営業収益の79%を宅急便を軸とするデリバリー事業で稼ぎ、「Bizロジ事業」と呼ぶB-to-Bビジネスの収益は全体の約7%。

REUTERS/Thomas Peter

ヤマトホールディングスの収益構造も、デリバリー事業がかなりのウェイトを占めている。2016年度は全体の営業収益の79%を宅急便を軸とするデリバリー事業で稼いでおり、「Bizロジ事業」と呼ぶB to Bビジネスの収益は全体の約7%にすぎない。

直面する労働力不足に対して、ヤマトは宅配ロッカーの設置を加速させるなどして、効率化と生産性を高める構えだが、その一方で当然、海外事業基盤も強化している。沖縄の物流拠点を軸として、アジア地域での物流網を広げていく方針だ。

eコマースの急激な普及で物流量が増加する一方、利幅が比較的に低い小口配送の増加と人件費の上昇は、デリバリー事業の利益幅をさらに圧迫させる可能性がある。国内の宅配便を中心に業容を拡大してきた国内の物流企業にとって、B to B事業の強化と海外の物流網の拡大は、共通のかつ喫緊の課題である。SGの上場によって、競争条件がますます厳しくなることは明らかだ。

(文・佐藤茂)

(編集部より:この記事は株価に関する情報を加え、更新しました)

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