日銀政策は「正常化すべき時」、財政への忖度不要-吉川東大名誉教授
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さすがは吉川先生、と感じました。
非伝統緩和、とりわけ長期金利への介入の副作用として、わかりやすい事象として市場機能や中銀財務の問題が挙げられることが多いですが、これらは(決して重要でないとは言いませんが)副次的な問題です。本質的に考えるべきは、財政規律への影響などを通じた資源配分への影響であり、不確実性に対処する手段としてのマクロ政策の柔軟性への影響です。このような、短期的には見えにくいが本質的な問題をズバリと指摘しておられることに感服しました。
また、「賃金と物価の好循環」という掛け声に対する冷静な見方も、さすがと思いました。
注目のコメント
「元々格差が大きい中でエンゲル係数が上がった。分配上の悪い影響がはっきりとあった」とありますが、インフレの弊害は分配を歪めることで、だからこそ、物価はゼロパーセント近傍で安定しているのが一番良いとされ続けて来たのです。2%というインフレ目標にしても、たとえば家電製品の機能が2倍になれば値段が同じでも価格が半分に下がったと見做されるなど、統計の性格からインフレ率は低く出るので2%くらいが実態的にゼロ、といった主張があったほど。その家電製品すら価格が大きく値上がりし、エンゲル係数に直接響く食料はいまなお前年比5%以上も上がり続けているのです。日本が定義上インフレ状態にあるのは確かでしょう。
賃金と物価の好循環と言いますが、生産性が上がらぬ中でインフレが続いたら、賃金と物価の綾で一時的に実質賃金銀が上がる局面はあるにせよ、実質賃金は中長期的に見て良くて横這い、悪くすれば下がり続けることになりそうに思います。インフレが続いて分配が更に歪めば「格差が大きい中でエンゲル係数が上がる」、つまり所得の低い人ほど生活が苦しくなる現象も続きます。そういう意味で「日銀が目指す賃金と物価の好循環に関しては、言わんとすることは理解するが、われわれにとって幸福なのかは分からない」というのもその通りだろう感じます。
長く続いた金融緩和と財政拡張の結果、日本政府は1200兆円に上る巨額の借金を抱え、日銀自身も600兆円の低利国債を抱え、低利の変動金利ローンでバブル的に高騰した住宅を買った家計や短期の転がし貸金で長期運転資金と設備投資を賄う企業が巷に溢れています。「金融政策が財政に与える影響を考慮したり、忖度すべきではない」とありますが、仮に財政に与える影響への忖度はせぬにせよ、金利の上昇がこうした『灰色のサイ』を暴れ出せる可能性には配慮せざるを得ないはず。
記事等々で拝見する限り、吉川先生はこうしたリスクを招く異次元緩和に当初から批判の目を向けられていらっしゃったように思います。たとえ灰色のサイが暴れだすことがあるにせよ、これ以上大きく育たぬ前に暴れさせる方が良いといったところでしょうか・・・ (・・;ウーン