Billboard JAPANの2020年総合ソング・チャート「Billboard JAPAN HOT100」で年間1位を獲得し、名実ともに「2020年最もヒットした曲」となったのが、YOASOBIの「夜に駆ける」だ。
YOASOBIは、コンポーザーAyaseとボーカリストikuraによる二人組。ソニー・ミュージックエンタテインメントが運営する小説・イラスト投稿サイト「monogatary.com」から誕生したクリエイターユニットだ。
同サイトの試みから生まれた「夜に駆ける」は、なぜ、異例のヒットとなったのか。
仕掛け人であるソニー・ミュージックエンタテインメントの屋代陽平氏、山本秀哉氏へのインタビュー。YOASOBI誕生秘話を聞いた前編に続き、後編では「夜に駆ける」1曲だけでは終わらないその後の施策の数々、そして「物語から音楽を生み出す」YOASOBIのクリエイティブの持つ大きな可能性について語ってもらった。
(取材・文:柴那典、写真:林直幸)
「夜に駆ける」の大ヒットとその後
――「夜に駆ける」は2020年6月1日付の「Billboard JAPAN Hot 100」と「オリコン週間合算シングルランキング」で共に1位を獲得しました。楽曲がヒットしたことで当初とは状況が変わってくると思うんですが、どうでしたか?
山本:大きく変わりましたね。まず、僕としては純粋に曲をどう組み立てていくかということをすごく考えてました。「夜に駆ける」で知ってくれた人が、どういう導線を辿ってYOASOBIというものを好きになってくれるか。そこが一番大事なことだと思っていたので。その意味では、1月にリリースした2作目の「あの夢をなぞって」という曲が、大事な位置を占めているんです。
「夜に駆ける」は最近のトレンドや空気感も含めて、10代が好んでくれそうなものをイメージして作っていった曲なんですね。ちょっと暗めなものが流行っていることも踏まえているし、踊りやすい四つ打ちの感じもある。
それに対して「あの夢をなぞって」は、20代や30代の方々を意識しました。10代より上の世代は流行っているものを「10代が好きなものだよね」と片付けちゃうことがある。特にTikTokの流行について「私たちに関係ない」と思ってしまう傾向がある。それは避けたかったんです。20代や30代が「私に関係ある人たちかもしれない」と思って聴いてくれないと、その先に進めない。
それで「あの夢をなぞって」は20代から30代が好いてくれそうなメロディとバンドサウンドに寄せた。その一方で、5月に出した「ハルジオン」はもう一度10代に好きになってもらえるイメージで作っていきました。