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アプリ決済の強制禁止=韓国が法改正、世界初
羽深 宏樹京都大学法学研究科 特任教授/日本・NY州弁護士
今回可決された法律では、アプリマーケットが「自己の取引上の地位を不当に利用して…特定の支払方法を強制する行為」が禁止されるということですが、具体的に何が禁じられるのかはまだ分かりません。
というのも、AppleもGoogleも以前からアプリ外決済は認めているので(AmazonやNetflixはアプリ外決済の代表例です)、そもそも「特定の支払方法を強制」などされていないともいえるからです。
ただし、アプリ内から外部決済に誘導することが禁止されていることから、多くのアプリでは外部決済の利用をユーザーに促すことが事実上困難なので、これをもって「特定の支払方法を強制」と解釈するのかも知れません。
また、仮にそのような理解だとしても、それが「自己の取引上の地位を不当に利用して」といえるかは別問題です。というのも、アプリの決済手数料にはアプリの運営コスト(審査、サイバーセキュリティ、レコメンドなど)が含まれており、その経費を一般の決済手数料に上乗せしてユーザーから徴取するのは必ずしも不当といえないからです。(スーパーマーケットが、卸売価格に一定のコストを上乗せして販売するのと似ています。)
もっとも、アプリ内の決済手数料がマーケットの運営コストを考えても高すぎる場合や、外部決済を用意するとアプリ審査が通りにくくなるといった慣行があるとすれば、不当な強制といえるかも知れません。
いずれにせよ、詳細は今後下位法令で決めるようなので、引き続き動向に注視が必要かと思います。
アップル、他社決済も容認 米アプリ開発者と合意
羽深 宏樹京都大学法学研究科 特任教授/日本・NY州弁護士
App Storeでは、もともとアプリ外決済が認められているので(Netflix、Amazon、Soptifyなど多くのアプリが、アプリ外決済を行っています)、この記事の見出しはミスリーディングだと思われます。本文にもあるように、今回のポイントは、アプリ外決済について、メール等によってアプリ開発者がユーザーと直接コミュニケーションできるようにするというものです。但し、アプリ内から外部決済へ誘導することは引き続きNGのようです。
今回の発表を受け、米国のアプリ開発者業界団体からは、これを「ごまかしの和解」(sham settlement)とする声明が出されています。アプリ内で外部決済を選択したり、アプリ内から直接外部決済に飛べたりすることができないので、結局問題は解決されないということのようです。
https://appfairness.org/coalition-for-app-fairness-statement-on-apples-sham-settlement-offer/
他方、現在のアプリストアの手数料(15-30%)には、決済だけではなくアプリストアの運営にかかるコストも含まれているので、決済サービスだけを提供する外部のサービス(手数料3%前後)にユーザーが流れてしまうと、アプリストアの運営コストについて開発者またはユーザーのフリーライドを許すことになってしまいます。どこでどのようにアプリストア、アプリ開発者、ユーザーの利益のバランスをとるかは、数年前から議論が続いている難しい問題です。
アマゾンに制裁金970億円=EUのデータ保護規則違反で
羽深 宏樹京都大学法学研究科 特任教授/日本・NY州弁護士
2018年に施行されたGDPRですが、これまで同法に基づくビッグテックへの制裁は、フランス当局による5000万€(約65億円)が最高額でした。そのため、ルクセンブルク当局による今回の7億4600万€(約970億円)という数字は突出しています。アイルランドやルクセンブルクといった低税率国は、ビッグテックの欧州拠点となっており(Amazonの欧州本部はルクセンブルク)、そのためビッグテックに強硬的な制裁を科さないとみられてきたので、今回の報道は世界的にも意外性を持って受け止められているようです。事案の詳細はわかりませんが、ターゲット広告に関するユーザーの同意の取り方が問題とされているとの報道もあります。バイデン政権がビッグテック規制に大きく舵を切ったことの影響もあってか、欧州でも巨大企業への規制や制裁の動きが加速しています。
グーグル制裁金650億円 記事使用料交渉巡り仏当局
羽深 宏樹京都大学法学研究科 特任教授/日本・NY州弁護士
GoogleやFacebookなどのプラットフォームがニュースのリンクや見出しを表示する際に、ニュース提供者に使用料を支払うべきという議論が、世界中で行われています。EUの2019年改正著作権指令では、加盟国による法整備が求められました。
ただ、実際の対価交渉は容易ではありません。オーストラリアが今年2月に同様の使用料支払法案を可決しようとしたところ、Googleがサービス停止を警告したり、Facebookがオーストラリアメディアの記事へのアクセスを遮断する措置をとったりすることもありました(その後、法案修正を受けて当該措置は撤回)。
今回は、650億円の制裁金だけでなく、2ヶ月以内に交渉をまとめなければ1日あたり1億円以上の追加制裁が科されるということですが、もしそれがまとまらなければGoogleや Facebookはフランスメディアへのアクセス遮断措置をとる可能性もありえます。メディア側としては、そのワーストシナリオを念頭に置いた上での対価交渉を迫られるため、依然として強い立場にあるとはいえないと思われます。
追記: 平先生のこちらの記事に、これまでの経緯が大変わかりやすくまとめられています。
https://news.yahoo.co.jp/byline/kazuhirotaira/20210714-00247828/?fbclid=IwAR0BttxvdHZ7uZ-Aw6breuVCZEMMjIXApB5mkXKQ24eWMoW3ENo6hQGba2Y
「ユニクロ」は捜査に発展。日本企業に人権対策を義務づけるべきか、自民党と経団連に温度差
羽深 宏樹京都大学法学研究科 特任教授/日本・NY州弁護士
「人権DDや情報開示を画一的に義務化すると、多岐にわたるリスクが実際にあるにもかかわらず、画一的でチェックボックス的な取り組みしか行われなくなる恐れがあ(る)」とのことですが、これはまさにそうならないように義務の内容を設計すればよいという話であり、ルール作りが不要という根拠にはならないように思われます。何をもって人権侵害というのか、それをどこまで管理することが企業の責任かといったことについて、企業や業界団体と政府が協力してルールを作り、それを世界に発信していかなければ、環境などの分野でもみられるように、他国の作った土俵で不利な勝負を強いられることになりかねません。
メガバンクもAI面接選考を試行 新卒採用支援、導入へ検証
羽深 宏樹京都大学法学研究科 特任教授/日本・NY州弁護士
どのような判断のためにAIを使うのかをしっかりと定義し、透明化することが重要だと思います。たとえば、正解のある問いを受け答えするというのであればAIによる効率化は可能かと思います。また、最近の音声認識はかなり精度が高いので、AIに聞き取れるはっきりとした発音で意味の通る文章を口頭で述べることができるか?といった用途では意味がありそうです。他方、発想の独自性やリーダーシップ、人柄などは、基準の数値化が難しく、それを無理やり数値化するといずれマニュアルによって攻略されるでしょう。もちろん、性別や肌の色によって採否に影響が出るようなシステムは受け入れられません。
なお、EUが4月に公開したAI規制案では、雇用の判断にAIを使うのはハイリスクであるとされており、人間による監視が義務づけられています。しかし、人間の判断自体にバイアスが含まれることも多々あり、必ずしも人間の方が良い判断を下せるとは限りません。
本記事にも実証実験とあるように、こうした取組はまずパイロットとして運用してみることが重要です。その上で、人間による評価との差異も踏まえ、AIを使うことが有効かつ適切な範囲をきちんと検証し、その結果を公開して透明性を確保することが必要だと思います。
ネット企業、香港でサービス停止も データ保護巡り業界団体が警告
羽深 宏樹京都大学法学研究科 特任教授/日本・NY州弁護士
ドクシング(doxing)とは、ネット上で個人の情報を公開する、いわゆる「晒し」です。日本でも晒しは問題になっていますが、香港では、2019年のデモの際に、警察官やデモ参加者の氏名住所等の暴露合戦があったようで、こうした行為を取り締まるというのが今回の香港データ保護法改正案の目的です。
業界団体が提出した書簡によれば、この改正案は、内容が漠然としているために、ユーザーの晒し行為によって、プラットフォーム企業の従業員が刑事捜査の対象になったり訴追されたりする可能性があるとのことです。また、そもそもどこまでが晒しにあたるかも明確でないため、例えば公道で撮影した写真にたまたま警察官が映り込んだ場合であっても、悪意や害意をもって投稿された場合には投稿者やプラットフォームが処罰されるといったこともあり得るとのこと。そうだとすれば、香港当局にとってはかなり恣意的な運用が可能な法律案ともいえるでしょう。
ネット上の悪意ある晒しを防止するという目的には一定の合理性があるとしても、これを法で取締る際には、政府による言論統制や特定企業の攻撃のために恣意的に運用されないよう、明確な定義、透明性をもった手続、実効性ある救済手段の確保等が本来であれば必要とされる場面です。
中国、配車のディディ処分 「個人情報違法に収集」
羽深 宏樹京都大学法学研究科 特任教授/日本・NY州弁護士
土曜日に、ディディのVice Presidentが、「当社の国内ユーザーのデータは全て中国内で保管されており、米国にデータを移転することは絶対にあり得ない」と投稿しており、おそらくこうしたユーザーデータの国外移転の点が問題となっているものと思われます。そうだとすれば、今年3月に発覚した、LINE社のユーザーデータが明確な説明なく韓国のサーバーに保管されていたのと類似の論点であるといえそうです。なお、表面上は個人情報保護の問題ですが、背景には、米中の覇権争いによるデータ安全保障が絡んでいることも想定されます。
現時点での処分は新規ユーザーの登録停止とのことですが、既に80%以上のマーケットシェアを有するディディにとって、この処分自体はそこまで深刻でないとの指摘もあり、今後の中国政府の動向が注目されます。
人工知能の権威が語る「データの質」の重要性
羽深 宏樹京都大学法学研究科 特任教授/日本・NY州弁護士
本記事で紹介されているように、AIシステムの性能には品質の良いデータが不可欠です。品質のよいデータを作るには相当のコスト(本記事によればAI開発の約80%の時間)がかかります。他方、データはゼロコストで複製できるので、品質のよいデータを多くのプレイヤーで利活用することが、社会の発展にとって重要な鍵となります。そのため、社会制度のデザインの観点からは、いかに多くの主体が品質の良いデータを作り、かつそれを第三者とシェアするインセンティブを生み出すかという点がポイントになります。
データには所有権が発生せず、また著作権などの知的財産権も発生しないことが多いため、どのようにデータ作成者の権利を保護するかは重要な課題です。実は日本は、データ利活用について、既に様々な制度整備を行っています。
データををやりとりする場合には、契約によってデータ提供者とデータ利用者の権利や義務をデザインする必要がありますが、その契約のスタンダードモデルを国が提供しています(※1)。また、商品として提供されるビッグデータなどを「限定提供データ」として保護する法改正を行っています(※2)。さらに、AIに学習させる目的で著作物をコピーしたり加工したりすることが、著作権者の許諾なく行えるという著作権法改正も行われています(※3)。これらはいずれも、世界的に先駆けて行われた先進的な取組です。
もっとも、こうした制度整備だけでデータ保護や利活用が達成されるわけではなく、暗号技術やブロックチェーン、モニタリング用のAPIなどの技術的な方法を使って、契約や法律で定められたとおりのデータ利用が行われることを確実にすることも重要です。また、データにどのような価格をつけるかというのも難しい論点です。データガバナンスは、技術、市場、そして制度の総合格闘技なのです。
※1 https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191209001/20191209001.html
※2 https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/guideline/h31pd.pdf
※3 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/
「サラリーマン人生見えた」50代から奮起 63歳元新聞記者の司法試験合格記
羽深 宏樹京都大学法学研究科 特任教授/日本・NY州弁護士
お仕事の傍らここまでの努力をされ、最終的に司法試験に合格されたことに心より敬意を表します。記者としてのご経験から、学生上がりでは得難いような広い視野に基づく弁護活動でご活躍されるものと存じます。
他方で、司法試験制度がここまでコストのかかるものでよいのか、という点は議論が必要かと思います。社会人にとって、現在のような負担の重い試験では、超人的な努力と人生を賭ける覚悟がある方でなければ挑戦できません。法曹の質の確保のためには難しい試験が必要との見解もありますが、試験で測定できるのは、ある程度数値化できる画一的な事務処理能力にすぎません(しかも、それらの多くはITシステムで代替できるようになっていきます)。弁護士の職域が多様化する昨今、試験自体の負担は軽くして、その先の専門分野を伸ばしたり他分野の専門性を修得したりするための時間を確保するような制度の方が、受験者や社会にとってのメリットが大きいのではないでしょうか。
グルメサイトで飲食店の感染対策を〝採点〟 政府、7月にも導入
羽深 宏樹京都大学法学研究科 特任教授/日本・NY州弁護士
タイトルには「採点」とありますが、記事を読む限り、グルメサイトにその評価が掲載されるものではないようです。自治体の情報収集能力にも限界があるので、社会全体でモニタリングを行い、その結果を「参考」にしながら認証審査を効率化するというのは、適切な措置を行っている飲食店にはプラスとなるとも考えられます。もちろん、嫌がらせ目的などの悪質な投稿が含まれる可能性があるので、最終的な認証の決定は、ユーザーの投稿によるのではなく行政側で責任をもって行われるべきでしょう。また、何をもって適切な対策と評価するかの基準は、継続的に見直しを行いアップデートしていくことが重要だと考えられます。
(本記事の内容のみに基づく個人の見解です)
米政府、秘密指令乱用し国民データを収集=マイクロソフト幹部
羽深 宏樹京都大学法学研究科 特任教授/日本・NY州弁護士
捜査機関が文書や通話の内容を収集するためには、事前に対象者に裁判所の令状を示して、公正性や透明性を確保することが大原則です。しかし、データが多くのクラウドに保存されることに伴い、情報収集の通知はクラウド事業者のみに行い、捜査対象者(ユーザー)には秘密にする手続(secrecy order)が濫発されていることが問題とされています。
本来、こうした手続の濫発を防ぐのは裁判所ですが、その裁判所での審査が形骸化しているとのこと。たしかにテロ対策等において捜査対象者にデータ収集通知をすべきでない場面もありますが、政治的対立者やジャーナリスト等のメールや通話を、政府が本人の知らないところで傍受できるとすれば、政府のアカウンタビリティや透明性を著しく欠くものであり、民主主義への脅威ともなり得ます。
NORMAL
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