野嶋 剛

野崎氏は日本での議員経験もありながら、台湾での飲食店チェーン（ラーメン）を起業・成功させた異色の経歴の持ち主。頼清徳総統が台南市長時代から台南市の顧問を務め、頼氏のもとで日台交流の強化に協力し、頼氏の信頼を得てきた。加えて、知日派立法委員の代表格で、台南市の選挙区選出の郭国文議員との個人的な信頼関係もある。そういう流れで、対日重視を掲げる頼政権の期待を込めて任命されたと見られる。外国人の政務顧問への起用は異例だが、こうした経緯を考えれば違和感はない人事だ。

必然と偶然の絡み合った結果、という理解がいいのではないかと思います。今回の件、領空侵犯を仮に意図的に実施したというならばそこで得られる情報の重要性と、中国という国家のクレディビリティの失墜が、費用対効果で見合わないからです。ですからパイロットあるいは飛行計画のミスという可能性のほうが高い。一方で、東シナ海、南シナ海でわかるように中国軍のアグレッシブな行動、影響領域の拡大への長期的な取り組みは確かに進んでおり、そのなかで、領海への侵入は日常的にあり、領空というさらにセンシティブな冒険行為も結果としておきやすくなっていると考えられます。

記事の内容については、そのように見れば見えないことはないが、そのように見なければ見えない、というところでしょうか。中国の権力闘争を、官製メディアから読み解くことはアナリストにとって職人芸的な作業ですが、一般に理解しがたい中国語を、さらに深掘りする内容なので、逆に言えば「そうだ」と言い切った者勝ちなところがあり、当たればすごいと自分で言えるが、外れればまあ誰も覚えていないよな、という世界です。李強の仕事ぶりに習近平がそこまで満足していない、という点は確かにその可能性はあるかと思いますが、李強が習近平に反旗を翻すというのは、２人の力関係的に無理があるような気もします。

伝統的に日本政府および日本財団はミャンマー政治に強い影響力を持っていて、過去に日本企業や日本人がらみのトラブルがあったときも素早く解決に導き、欧米各国などからは羨ましがられた時代があった。現在の丸山市郎駐ミャンマー大使はビルマ語を操る日本外務省きってのミャンマー通で、クーデターの起きる前から着任し、政権とのパイプを存分に活用できるはずだった。しかしクーデター以後、この状況下では、日本サイドの対ミャンマー神通力もなかなか通じにくくなっている。早期釈放はあるいは恩赦によって実現するかもしれないが、大企業の現地幹部が有罪判決に至った事実はやはりほかの企業に与える心理的インパクトは大きいはずで、ますます脱ミャンマーが進むことが予想される。

鄭氏が桃園市長時代に収賄したとされるのは500万台湾ドル（2500万円）。かなりの金額です。有罪になれば鄭氏の政治生命は終わるでしょう。鄭氏は、民進党のなかでは次の総統候補の一人です。ですが頼新政権のもとでは内閣などの要職から外れました。頼総統とは同じ新潮流という派閥出身ですが、両人の関係は良好とは言えません。頼新政権にとってダメージになりますが、一方で、頼総統が鄭氏の影響力を削ぐために立件にゴーサインを出したとの観測も流れています。

個別の事案としては中国人のスタッフが母子を庇って怪我を負ったことも含めて一個人の犯罪行為として受け止めるべき。一方で、反外国情緒の高まりがあり、先日の米国人への襲撃も含めて、愛国排外主義からの暴力への連鎖という事態に対して一定の警戒感を在中国日本人社会が持たなければならないことも事実。この両者を切り分けながら論じていくことがまずは重要ではないか。

現在の民進党政権は頼総統も蕭副総統も含めて大抵は「台湾独立派」と認定されますが、一方で、もし民進党の中から「中国と統一すべきだ」と言い出す人物が出てきたら、それは英雄と位置付けられるはずです。つまり独立派の認定は常に流動的で、中国の主観によるものです。これは法律ではなく、規範のようなものであり、法適用をどんな時にどんな形にするかは中国の共産党政権の匙加減ということになります。香港の国安法も同様ですが、本指針も域外適用も認めるものなので、海外で台湾の統一に向けて中国へ厳しい意見を開示することもまた「死刑」の対象となり得るということで、海外での台湾問題をめぐる言論・研究活動も萎縮させようという狙いもあるかと考えられますね。

EV車に代表される多額の補助金をつけて製造した割安の製品を国外に大量に輸出し、各国のライバルを圧倒して市場を支配するというステイトキャピタリズム的な中国の手法に対して、欧州ではここ数年急激に警戒感を強めている。今回の声明にこの内容が盛り込まれたのは欧州国主導の議論がサミットで行われた成果のように考えられる。

台湾について、日本政府の公式的立場は「基本的価値観を共有する極めて重要なパートナーで、大切な友人」であり、非公式の実務関係のさらなる深化をはかっていく、というもの。その台湾で民主的に選出された新総統の就任に祝意を表するということは、日中関係の精神に何ら反さない、ということ。ただ、日本政治をここまで台湾へ友好的にさせたのは、この10年の中国の変貌（日本として好ましくない方への）が大きく影響している、ということを中国側に認識してもらいたい、ということを公式非公式に中国には伝えていくしかない。

中国の駐日大使は赴任前に「日本の親台湾派をなんとかしろ」というミッションを授けられてから来日します。今回、台湾問題について呉大使はいつもより強いプレッシャーを習近平指導部から受けているそうです。言いたくはないけれど、言わざるを得ない、ということでしょう。ですが、それはあくまで中国国内での「受け」を狙ったもので、対日工作では「受け」は悪く、逆効果しか生みません。仕事が今後日本でやりにくくなる呉大使には同情もしたくなります。

「国会のねじれ現象」によって独立志向を封印した、という解釈はちょっと違うような気がします。「すでに独立していて、独立をあえて論じる必要はない」というロジックを蔡英文政権が唱えて国際社会でも評判がよく、それを受け継いでいる形ではないかと思う。現状維持路線は台湾の政権与党ならば選択肢なくそこに落ちつく主張で、特段そこにポイントはないと思います。

中国外交部の報道局長時代にも記者会見でよく見かけた人だが、その後順調に習近平政権下でキャリアを積み、次の外務大臣候補とも目されている。中国は党が政府の上にある国。党対外連絡部のトップは重いポストでこの人が来るということはそれなりに中国が対日関係を再構築したいとのシグナルではある。ただ、全面的に日本と組む、ということはない。米国への牽制も含めて、どこまで岸田政権と関係改善に取り組めるかの見極めに来たのだろう。