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アングル:IS最高指導者、バグダディ容疑者の転落の軌跡
髙岡 豊公益財団法人中東調査会 主席研究員
バグダーディー、結局のところ「イスラーム国」を効果的に演出するための「カリフ」に起用された俳優さんみたいな役回りでした。バグダーディーことイブラーヒーム・バドリーの個性や人格とは別の「カリフ」という人格が合成されていたのでしょう。「イスラーム国」に運動としての力量がまだあるならば、速やかに発表を否定するなり代わりを立てるなりするはずです。最初のバグダーディー(=アブー・ウマル・バグダーディー)が殺害されて、今回殺害が発表されたアブー・バクル・バグダーディーが擁立されるまでに大体1カ月くらいかかりました。それは10年くらい前のできごとで、現在のファンや支持者がそこまで待つ根気があるかこころもとありません。
トランプ大統領、「イスラム国」指導者が死亡と発表-米軍の急襲作戦
髙岡 豊公益財団法人中東調査会 主席研究員
「イスラーム国」から見ると、バグダーディーの死亡(=「殉教」)を速やかに発表し、後継(たぶん「アブー・ウスマーン」か「アブー・アリー」)を擁立しないと何とも困ったことになります。過去に死亡説は何度も出ましたが、この種の動きが全くでなかったので放っておきました。観察のポイントはここです。もう一つのポイントは、バグダーディーが実はトルコの庇護下にある他のイスラーム過激派(通常シリアの「反体制派」と呼ばれる)が占拠していたイドリブ県で殺害されたことになっている点です。死亡したということと殺害場所が事実ならば、イドリブ県を占拠しているイスラーム過激派、これを「反体制派」として支援してきた欧米諸国、そしてイスラーム過激派によるイドリブ県占拠を支援しているトルコ、サウジ、カタルと「イスラーム国」との間にとんでもない馴れ合いがあったことになります。
米軍、シリア北部から撤収へ シリアはトルコ国境に進軍
髙岡 豊公益財団法人中東調査会 主席研究員
まだ映像・動画のようなもので裏付けられていませんが、シリア軍は「24時間でマンビジュ、48時間でアイン・アル=アラブに進駐」と公式に表明しています。現地のクルド民族主義勢力の民兵は、シリア政府傘下の「国防軍」に再編されるとのことです。トルコ軍と戦ってかなうわけない、というのはシリア軍自身がよく知っているので、彼らの側から大規模な交戦に向かうようなことはないでしょう。トルコから見ると、自分が侵攻・占領するよりもよその誰か(=シリア政府・軍)がクルド民族主義勢力を管理(=最終的には少なくとも軍事部門は解体)してくれればその方が楽なので、シリア軍が進駐したところに無理に侵攻して占領しても成果は乏しいです。
シリア政府とクルド民族主義勢力との関係では、「紛争勃発前の統治体制・権益配分の再建」(政府側の利益)と「自治という名の下で領域占拠という既得権を維持。シリア政府の復帰は国旗の掲揚程度の名目的なものに止める」(クルド民族主義勢力の利益)とのせめぎあいでしたが、現時点でのクルド民族主義勢力の立場が著しく弱いので、マンビジュとアイン・アル=アラブへの進駐が実現するなら、かなり前者に寄った形の決着と言えます。
クルド人司令官、米高官に「我々を見殺しにしている」 CNN EXCLUSIVE
髙岡 豊公益財団法人中東調査会 主席研究員
2018年末にトランプ大統領が唐突に「シリアからの早期全面撤退」を表明した際も、アメリカの官庁や「シンクタンク」がいろいろ懸念事項を挙げてこれを翻意させようとしました。つまり、アメリカには中東なんかの紛争に自国の資源を費やすのはもういや、という世論・政策の傾向と並んで、何とか中東に軍事拠点や政治的影響力を維持・拡大したいという世論・政策の傾向があるのです。アメリカの中東政策、或いはシリア紛争への政策をちょっと振り返れば、同国が今までクルド人をはじめ、シリアや中東の人民の利益やその保護にまじめに取り組んだためしがないのは明白です。そのあたりに無自覚にも「見捨てた」とか「道徳的」という言辞を弄するのは、何とかトルコのシリア侵攻に対する政策を変更させようとする試みの一環である、との位置付けです。
トルコ、シリア新作戦開始 クルド人勢力に空爆
髙岡 豊公益財団法人中東調査会 主席研究員
「アメリカがクルドを見捨てた/裏切った」との論評や記事が多いことに驚いています。アメリカのニュースもそういうのが多かったです。実際のところは、2014年に「他に使えるコマがなくなったから」というだけの理由で「イスラーム国」と地上で戦わせる提携勢力としてYPGが起用されたわけで、その時点で、「見捨てるか否か」ではなく「いつ、どのように切り捨てるか」が焦点だっただけです。YPGとしては、トルコ軍がアフリーンを侵略・占領した時点でもうちょっとましな分析や論評、対処ができたはずです。その一方で、トルコ軍の動きに合わせてクルド民族主義勢力が紛争を通じて獲得した権益を剥奪しようとするシリア政府の動きも出てくるはずです。アメリカ軍が「撤退」したのは「シリア全域」ではなく、「トルコの軍事作戦のコナがかかりそうなところ」だけなので、アメリカにはシリア政府による統治や権益の回復の動きを邪魔して「クルド人を保護した」格好をつけることができます。トルコによる「安全地域」構想は、住民追放・土地収奪・新住民の入植が既に行われたところに、新たな住民追放・土地収奪・新住民の入植を積み重ねる、ものすごく筋の悪い行為です。また、アメリカのシリア紛争への対処も、2011年以来中途半端で無責任なもので状況を悪化させる要因以外の何かではありません。これはトランプ大統領の個人的資質云々ではなく、2011年以来ずっと続いていることです。シリア紛争の推移や結果に対する個人的な好悪はともかく、シリアと周辺地域の安定(注:どんな安定かは敢えて問いません)にまるで役に立たない、という点ではアメリカもトルコも一緒です。
サウジ原油生産、向こう3週間で完全に回復=関係筋
髙岡 豊公益財団法人中東調査会 主席研究員
石油をはじめとする天然資源が紛争や緊張や不安定の本質的原因と信じるのならば、一番の責任は天然資源の消費者にあります。つまり、これを口実に紛争や緊張や不安定が起こる危険性を低減したいのならば、そのような天然資源を買わない、少なくとも紛争や緊張や不安定を起こす生産者からは買わない、という選択肢をとることが一番有効な方策になるのです。昨年のハーショグジー(カショギ)事件の時もそうですが、日本にとっての石油の供給者とは「そういう」生産者が多いので、日本における天然資源の価格や供給だけでなく世界の安寧のためにも「そういう」生産者を回避することや石油の消費そのものを見直すことが重要になります。石油や天然資源の価格と供給にうんちくをたれて「仕事おしまい」にならないよう気を付けたいです。
「イスラム国」で戦闘計画=容疑で元北大生ら書類送検-警視庁:時事ドットコム
髙岡 豊公益財団法人中東調査会 主席研究員
「イスラーム国」がかつてあれほどの流行現象となった大きな理由の一つに、世界中で彼らを礼賛・正当化し、その活動に協力・合流するよう教唆(直接勧誘というわけではない)した「拡散者」と呼ぶべきアクターが野放しになっていたことがあります。「拡散者」自身も、直接「イスラーム国」の構成員である必要も、「イスラーム国」の構成員と人的なつながりを持っている必要もなく活動できる存在です。「拡散者」の働きのおかげで、「イスラーム国」のプロパガンダや「戦果」があたかも事実であるかのように世界中に伝えられ、それを見て何かの誤解をした人々が、合流希望者や共鳴犯・模倣犯へと「成長」していったようです。特に先進国においては、通信の自由や言論の自由など諸般の権利との兼ね合いで「拡散者」を適切に処罰・抑制する方法がありません。「拡散者」の役回りを演じた人々は、そのあたりもよく心得た上で振る舞っていて各国当局の頭痛の種でした。今後、「イスラーム国」や類似の現象を二度と流行させないためにはこの「拡散者」をどうするかがカギとなるように思われます。無自覚に「拡散者」をの機能を担っていた人々に自覚を促し、確信犯としての「拡散者」を確実に抑制しないと、通常のネットやSNSの利用にまで過剰な監視や規制をかけられることにもなりかねません。
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