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未来の経営者予備軍!?SaaS企業で急増するプロダクトマネジャーという職業

2022年4月23日
出典:Unsplash

グーグルCEO サンダー・ピチャイ
アマゾン創業者 ジェフ・ベゾス
マイクロソフトCEO サティア・ナデラ
セールスフォース 共同CEO ブレッド・テイラー...

彼らに共通することは何でしょうか?

答えは、全員プロダクトマネージャーという職業の出身者ということです。この他にも、元ヤフーCEO マリッサ・メイヤーやインスタグラム創業者 ケビン・サイストロムなども同じくプロダクトマネージャー出身の経営者です。日本のSaaSスタートアップでは、ここ数年プロダクトマネージャーという職業が一般化し、採用ニーズが急増しています。(プロダクトマネージャーは省略してPM、PdMとも呼ばれます。以降ではPMとします。)

PMとはどういう仕事でしょうか?

よく「ミニCEO」とも言われますが、ざっくり言うと「プロダクトを通してビジョンを実現し、顧客や自社の事業を成功へ導く仕事」です。この成功のためには、エンジニア組織のみならず、マーケティングや営業、カスタマーサクセスのような事業部門、経営陣、顧客と言った幅広いステークホルダーと協働する必要があります。組織横断的な職業で、米国ではスター的な職業として認知されています。

PM?エンジニアと何が違うの?

テクノロジー産業に不慣れな方の中には、そう思う方もいらっしゃるかもしれません。そこで今回は、PMという職業の実態をデータを通して伝えつつ、なぜ日本のSaaS企業でPMのニーズが増えているかを考察してみたいと思います。(PMの仕事についての詳細な解説は多方面の記事で書かれているので、ここでは省きます。)

8つのデータで見るPMの実態

ここではアメリカを中心としたグローバルのデータから、PMという職業がどんなものかを解説します。

1)米国PMの平均年収は「$147,680(約1,890万円)」
テクノロジー業界で高給として知られるエンジニアの平均年収が$89,600(約1,147万円)と比較しても圧倒的に高給です。米国労働統計局の「年収の高い職業リスト」によると、全体でも23位と高給職として認知されています。  

  出典:Insights from Amplitude's 2021 Product Manager Hiring Report(Amplitude)  

2)PMの男女比はだいたい「6:4」
PMは全体から比べると女性比率が高い職業としても知られています。PM育成機関Product Schoolの最新のレポートによると、男性 59.9%に対して女性は37.9%です。(ジェンダーバイアスは良くありませんが)後述する、ソフトスキルの高さが求められることも関係しているかも知れません。

3)PMの一番多い大学の出身学部は「ビジネス系
PMは理系というイメージを持たれるかもしれませんが、実際はビジネス系学部(日本で言うと経営学部や商学部あたり)が最も多いという結果です。次いで情報科学/工学系、社会科学系と続き、幅広い学術分野の方が実際にPMをされています。

  出典:Insights from Amplitude's 2021 Product Manager Hiring Report(Amplitude)  

4)PMにプログラミングスキルは「必ずしも必要はない
こちらの記事によると、PMのたった30%しかプログラミングができないと伝えています。ただし、PMはかなり高給職なので、当然人気の職業です。技術的な基礎があることは、採用にも実務にも有利なことは間違いないです。

5)PMになる前の職業はかなり「多種多様」 
少し古いデータですが、2017年のレポートによると、PMになる前の前職は、戦略コンサルなどのビジネス系の分析職がトップで、次いでエンジニア、マーケティングと続きます。かなり幅広い職種でPMになれることがお分かりいただけると思います。  

出典:2017 Product Management Insights(Alpha)

6)PMに求められる「5つのコアスキル」
プログラミングスキルが必要じゃないとすると、何が必要なのか?マッキンゼーによる調査では、優れたPMには以下の5つのコアスキルが要求されると解説しています。 PMにはかなり高度な知識とスキルが要求されることがわかります。特に重要だと挙げられるスキルは「ソフトスキル」です。Product Schoolによる最近の調査によると、「今後10年でPMに求められる最も重要なスキルは?」ではソフトスキルがトップに来ています。

1. ビジネス洞察力(戦略、業績指標、価格設定)
2. 顧客体験への理解(ニーズの把握、デザイン)
3. 市場志向(業界トレンド、競合状況)
4. ソフトスキル(顧客、チーム、ステークホルダーの統率)
5. テクニカルスキル(技術トレンドや技術スタック理解)  

7)PMの責任範囲は...「かなり広い」
PMの仕事の責任範囲は、プロダクトのビジョンや戦略、顧客での活用、ロードマップ、売上目標の達成、プライシングなど多岐に渡ります。ただし、会社によってカバー範囲が違うことがあります。

出典:The State of Product Leadership 2021(Pendo+Product Collective)

8)PMが機能することで「利益が平均+34.2%
PMの育成・認証機関である280 Groupのアンケート調査によると、プロダクトマネジメントが機能している組織では、企業の利益が大幅に上がります。それだけテクノロジー企業で事業インパクトのある仕事であることがわかります。

いかがでしたでしょうか?PMはテクノロジー企業では責任が重く、仕事が多岐に渡るため、学歴、職歴、性別などもとても多様性に富んだ職業であることがおわかり頂けたのではないでしょうか。

日本のSaaSでPMのニーズが高まった3つの理由

ここからは日本に話を戻します。なぜ日本のSaaSスタートアップでいま、PMが求められるようになったのでしょうか?私の考える主要な3つの理由を述べたいと思います。

1. 高い売上規模と成長率を目指すSaaS企業が増えたから

日本のSaaSスタートアップの多くは、5年以上前はマザーズ市場に上場する売上規模である、単一プロダクトで売上10億円前後を目指すことが多かったです。しかし、SaaSは売上規模とその成長率が企業価値に大きく反映されます。近年のスタートアップの資金調達環境も格段に良くなったことや、米国でのSaaSの評価方法が日本に浸透したことで、高成長で売上100億円を超えるユニコーン企業を目指すSaaSスタートアップの数が飛躍的に多くなりました。

では、高い売上規模と成長率を実現するにはどうしたらよいでしょうか?

方法としては大きく3つあります。

➊ 営業などのビジネスオペレーションを改善する
➋ 他のSaaS企業をM&Aする
➌ プロダクトの数や価値を上げる

まず➊はどうでしょうか?

当然ながら➊は従来もやられていました。しかし、日本市場はデジタル化の遅れと高齢社会から、キャズムでいうアーリーアダプター層は残念ながら多くありません。レートマジョリティ層に売るには、リーチや教育のコストも高いため、経済合理性を合わせることはより難しくなります。そのため1つのプロダクトで急スピードで100億円規模の売上を作ることは、現実的に難しいケースが大半です。

➋はどうでしょうか?

欧米ではSaaS企業同士のM&Aはとても活発でよくあります。実際にマネーフォワードのように、M&Aで非連続な成長をすることはもちろん可能です。しかしスタートアップの場合、M&Aを実行するだけの多額の資金調達をすることは現実的に難しいですし、起業がまだレアな日本では買収先の候補も多くありません。しかも結婚と同じで必ずしもM&Aは成立するとは限りません。

そのため、自社でコントロール可能かつ非連続な成長を可能にする現実解が➌です。実際に日本の多くのARR 100億円規模のSaaS企業は、複数のマーケットに対して、複数のプロダクトを提供しているケースがほとんどです。そのため、複数のプロダクトを創出したり、プロダクト単体の顧客への価値を上げたりする「プロダクトマネジメント」が非常に重要になります。その中心的な役割を担うPMへのニーズが高まったと考えられます。

2. プロダクトマネジメントという概念がSaaS界隈で普及したから

プロダクトマネジメントという概念は、米国では古くからありましたが、日本のテクノロジー業界、特にSaaSのようなB2Bではあまり一般的に知られていませんでした。私がVCを始めた2016年頃は、PMという職業を聞くことはほぼありませんでした。

しかし、米国のメソッドやB2Cのテクノロジー企業のPM経験者のSaaS企業への流入もあり、少しずつ知られるようになりました。また、freeeでVP of Product Managementを務められる宮田善孝氏の著書『ALL for SaaS -SaaS立ち上げのすべて』のようなPM本がリリースされたり、SaaSのプロダクトリーダーを中心に構成された日本CPO協会の設立などにより、この2年間でプロダクトマネジメントへの啓蒙が進んだことも大きいです。

3. 経営者からの権限移譲が必要になったから

1の話ともつながりますが、SaaSスタートアップの資金調達環境が良くなった影響で、スタートアップ経営者は成長のために大きく投資できるようになりました。SaaSスタートアップの一番大きい投資とは何でしょうか?ズバリ「人」です。SaaS企業の最も大きいコストは人件費です。従って、成長を加速させる=採用を加速させることが重要になります。

では、採用を成功させるためには何をすればよいでしょうか?結論から言うと、経営者が採用を中心に組織作りに集中することです。これには権限移譲が必要不可欠です。

創業初期のスタートアップ経営者にとって、一番大きい役割はざっくり言うと、売れるプロダクトと市場のマッチを見つけるPMF(Product-Market Fit)やその後のプロダクトのグロースです。これはプロダクトマネジメントそのものです。そのため、経営者の権限移譲する業務において、この役割を担うPMを早期で雇うケースが増えています。

またPMFには2-3年という時間がかかるため、最近ではアーリーステージでもマルチプロダクト戦略を早期に検討するケースも増えています。特に市場規模が制限されやすい業界特化型のバーティカルSaaSと言われる分野でこの傾向は顕著です。このことも、外部からPM経験者やPM適正の高い人材を多く雇用したいというニーズが高いことに影響している可能性はあります。

今回の記事を通して、少しでも多くの方にPMという仕事の魅力やSaaSでPMキャリアに興味を持って頂ければ何よりです。私のあくまで一意見ですので、色んな方々からこの記事へのコメントやフィードバックを頂けると嬉しいです!