対話型AIのようなメガトレンドにプロダクト・シンカーはいかに備えるか

2023年3月6日
全体に公開

こんにちは。今週は、ChatGPTを提供するOpenAIから、ChatGPTの機能を利用できるAPIが公開されました。驚きを持って迎えられたのが、利用料がこれまで提供されていたGPT-3のモデルの1/10(100万トークンの入力で2ドル)と劇的に下げられたことです。入力はChatGPTの振る舞い方を指定したりするためにも使えます。また、音声認識モデルのWisperも同時に公開されました。筆者も触っていますが、プロンプトのテキストを渡すことでChatGPTの応答を得ることができます。

わずか数日の間に、すでにAPI を活用した多数のデモが公開されています。その中でも目を見張ったのが、以前からバーチャルキャラクター召喚装置を販売していたGatebox社の開発による下のデモです。あれこれいうより動画をみていただいた方が早いと思います。

完全に未来が訪れています。

近づいてきた2030年の予測

テクノロジーの仕事に関わっている醍醐味は、今のように大きなトレンドが発生して、業界全体が大きく変わってしまうダイナミズムにあります。対話型AIは、PC、ウェブ、スマートフォンに続く大きな革命となってきました。

筆者は、2016年に、「人工知能は私たちを滅ぼすのか」という本を出版しました。筆者はそれまでAIの専門家というわけではなかったのですが、2012年から始まったディープ・ラーニングのブームで、AIによる音声認識や画像内容のラベリングなどが人間のパフォーマンスを超えるようになり、これは大きなトレンドが始まったと感じていました。2014年に、友人で現NewsPicksの古屋荘太さんから話をもらい、ダイヤモンド社さんからITの歴史の本を書くことになりました。これもたまたまなのですが、同じ頃にベネディクト・カンバーバッチがコンピューターとAIの父として知られるアラン・チューリングを演じた「イミテーション・ゲーム」という映画を観たことにも刺激を受け、コンピューターの歴史をAIの歴史として捉え直すことに取り組みました。

人工知能は私たちを滅ぼすのか

とはいえ技術の開発史をそのまま書くだけでは、正直広く届く本になるとは思えませんでした。少し前にベストセラーとなった「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」や「ソフィーの世界」などを参考に、AIが普及した2030年の女子大生の主人公が、卒論のためにAIの歴史を書くという物語の体裁を取りました。2030年の世界の生活の中心として、今日のスマホに対話型AIが融合したAssistant Intelligent Device(A.I.D)というデバイスを設定しました。主人公は自分のA.I.Dと対話しながら、AIの歴史を学んでいきます。

AIは社会を大きく変えるテクノロジーなのは間違いないと思っていましたが、筆者がこの時考えていたのは、AIのシステムと人間がどのようにインタラクトするか、という問題です。過去のSFなどを考えても、スタートレックのエンタープライズ号のコンピューターや、「2001年宇宙の旅」のHAL9000、ドラえもんなど、結局人工知能やロボットとは言語で対話するというのが最も一般的なイメージでした。人間がこれまで付き合ってきた知的なエージェントは人間しかなく、人間どうしのインタラクションの大部分は言語ですから、これは自然な発想でした。結果的には、2030年くらいになると、ChatGPTなどの延長上に、同書で描いたのに近い対話型AIが実現できそうだと思っています。

テクノロジーの未来は「みんな」の手の中にある

このように今起こっている変化は、2010年代前半頃から見通しは立っていたと言えます。しかし、今のように広くその変化が受け入れられるには10年程度の時間がかかりました。これは一体なぜなのでしょうか。また、プロダクト・シンカーとして、このような大きな変化にどのようにアプローチすれば良いのでしょうか。

上で述べたこれまでの大きなパラダイムシフトを考える上で大きなカギとなるのが、「十分なユーザー体験が広く行き渡る」ことです。

コンピューター、特に現代につながるマイクロコンピューターに絞っても、70年代にはその原型がありました。しかし、それが広く普通の人が使えるようになったのは、MacintoshやWindowsなどのグラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)が普及した80年代移行です。

インターネットは原型のARPANETから考えると1960年代から存在していました。当初は商用利用ができなかったものの、1988年に商用利用が開始された後、1993年にPC向けのGUIを用いたWebブラウザMosaicがリリースされると爆発的な人気を博し、インターネット産業が興りました。

iPhone以前にも、日本のiモードなどを含め、インターネットに接続したりアプリを動かすことができる携帯電話は存在しました。スマートフォンという言葉もありました。しかし、PCのWebやアプリとは開きがありました。スマートフォン、モバイルインターネットが劇的に普及したのは、やはり高い操作性のマルチタッチUIを備えたiPhoneと、その影響を受けたAndroidによるものです。

ChatGPTも同じです。ディープ・ラーニング、Transformerとそれに基づく言語モデルなどの技術開発は着実に進んできました。しかし、ChatGPTは対話型AIの「iPhoneモーメント」です。技術が、誰もが納得できるユーザー体験で、誰でも利用できる形で提供されたことで、ブレイクスルーが起こりました。これから様々な応用が花開くことでしょう。

プロダクト・シンカーは新しい価値提供の機会を常に探す

プロダクト開発者としては、このようなトレンドが起これば、プロダクトにどのように取り入れるかという対応を迫られます。しかし、対話型AIを含む生成AIが大きな技術トレンドとなってきたことは、前述のように少し業界の動向を追っていればわかることでした。

技術トレンドがブレイクしてからキャッチアップするのでは、常に新しいトレンドを追いかけることになって、疲弊するでしょう。そうではなくて、自分が面白いと思う技術トレンドがあれば、目の前の利益にならなくても触ってみたりその可能性を考えることが大事なのです。そのトレンドが世の中に受け入れられる体験価値のしきい値を超えたタイミングでは、先行することができます。

これを図示してみたのが下の図です:

もちろん、しきい値を超えるiPhoneやChatGPTのような製品を自ら作り出せれば最高でしょうし、プロダクト開発者としてはそういうことを目指したいものです。

「ニューロマンサー」などのSF小説でサイバースペースの未来を予見したとして知られているウィリアム・ギブスンの下記の言葉で、本記事の締めとしたいと思いまます。

未来はすでにここにある。ただ十分に行き渡っていないだけだ。
ウィリアム・ギブスン

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
岩田 雄一朗さん、他827人がフォローしています