#002 付加価値って何だろう?

2024年7月6日
全体に公開

付加価値とその分配を重視していく付加価値経営について考える連載です。今回はそもそも付加価値とは何かを確認していきます。

1. 「経済」と「仕事」の接点

経済統計のマクロ的なデータを扱っていると、ミクロ的な日々の仕事と無関係な単なる数値を見ている感覚に陥りがちです。

個々の企業のミクロな合理的活動の結果、マクロではむしろマイナスな変化が進むといった合成の誤謬という言葉もあります。

経済全体と日々の仕事とはどこで結び付くのでしょうか?
むしろ相反する関係にでもあるのでしょうか。

定義的に言える事は、マクロ的な経済指標の代表であるGDP(国内総生産)は、ミクロ的な経済活動の結果である付加価値の合計だという事実です。
GDPは売上高でも、純利益でもなく、付加価値(≒粗利)の合計値という事になります。

付加価値という指標によって、経済全体と個々の企業活動=仕事が結び付いている事になります。

個々の企業が付加価値を向上させていくと、マクロのGDPが増えていき経済が拡大していく事に繋がりそうです。

それぞれの企業が、純利益の拡大ばかりを目指すと、経済全体としては利益の奪い合いが進むように思います。

一方で、付加価値の高め合いという観点に立つと、経済が拡大しながらも、その分配も増えて、企業も家計もより豊かになるのではないかというのが筆者の仮説です。

この連載を通じて、この仮説も少しずつ検証していければと思います。

2. 付加価値とは

まずは付加価値という言葉を確認していきましょう。

マクロとミクロを繋ぐ大切な言葉であるのはわかりますが、そもそも付加価値とは企業活動においてどういったものを表すのでしょうか?

内閣府の用語の解説から引用してみます。

私たちの経済活動は、1年の周期で見てみ ると、前年の期末ストック(国民資産)である機械設備や土地などの実物資産や現金 などの金融資産からなる資本に労働といっ た生産要素を組み合わせ、原材料を投入し て財貨やサービスを生産することによって 営まれています。
この財貨やサービスの産出額から原材料などの中間投入を差し引い たものが付加価値となります。 
この付加価値分は賃金や企業の利潤などとして分配され、消費されたり新たに投資 されたりします。
内閣府 国民経済計算の見方、使い方

上記からすると、国民経済計算による統計上、付加価値とは次のように計算されるようです。

付加価値 = 産出額 - 中間投入

付加価値とは、産出した総額から、生産に使用した中間投入額を差し引いた金額です。
これが、GDPの計算に用いられる付加価値の定義という事になります。

一方で、私たちの企業活動でも付加価値は計算されます。
中小企業庁方式と呼ばれる控除法では、次のように計算されるようです。

付加価値 = 売上高 - 外部購入価値

これはまさに、GDP計算の際の計算式に対応していますね。
産出額=売上高で、中間投入=外部購入価値という事になります。

つまり、付加価値とは企業活動の中で売上高から仕入の金額を引いた粗利とか、売上総利益に近いものである事がわかります。

3. 付加価値と賃金

労働者の賃金は付加価値の分配という側面があります。

良く知られているように、GDPには生産面、支出面、分配面(所得の発生勘定)の3面があり、それぞれの合計は一致します。
この分配面に労働者への賃金(又は雇用者報酬)が含まれます。

出典:国民経済計算より筆者にて作成

GDP分配面のデータを見ると、日本経済のピークとなった1997年と2022年では総額でわずか20兆円の増加です。

25年間で4%ほどしかGDPが増えていない事になります。
労働者への分配となる賃金・俸給の増分はさらに少なく、4.3兆円(2%弱)しか増えていません。

一方で、企業の業績を集計した法人企業統計調査を見ると、現在日本企業の当期純利益は空前の水準に達していますが、付加価値も労働者への分配である賃金もほとんど増えていない事になります。

これに対してSNS等では、企業の利益が増えているのに、労働者への分配が増えていないのはおかしいといった指摘もあるようです。

前回ご紹介した日本企業の指標をもう一度見てみましょう。

出典:法人企業統計調査より筆者にて作成

日本の企業は当期純利益(緑)は増えているけど、付加価値(橙)が増えていないという状態です。

言い方を変えれば、稼ぎ(付加価値)は増えていないけど、儲け(純利益)が増える主体へと変化しています。
そして、給与(青)も付加価値と同じように停滞が続いています。

付加価値が増えていなければ、その分配である給与が増えないのも道理です。
むしろ、給与が増えないので付加価値が増えないという事でもあるのかもしれません。

逆に、企業の当期純利益が増えても、労働者の賃金が増えるわけではない事も読み取れます。

4. 付加価値の中身

付加価値の計算には加算法という計算方法もあるようです。
(出典:2023年経済産業省企業活動基本調査(2022年度実績)の結果)

付加価値=営業利益 給与総額 + 福利厚生費 + 動産・不動産賃借料
       + 減価償却費 + 租税公課

計算結果は控除法とほぼ同じになるはずですが、こちらは付加価値に何が含まれるのかが良くわかりますね。

企業側の営業利益、従業員への人件費と賃借料、税金といった項目です。
これは、先ほどみたGDPの分配面と似た構成になっている事に気付きます。

付加価値 = 雇用者報酬 + 営業余剰・混合所得(純) + 固定資本減耗 + 純間接税
  ※ 純間接税 = 生産品・輸入品に課される税 - 補助金

私たちが普段企業経営で接する項目と、GDPの分配面の項目もまた対応関係にありそうですね。
付加価値には労働者への分配である人件費が含まれているという事も示しています。

筆者にて作成

これまで確認してきた事をまとめてみると上の図のようになります。

企業が顧客から受け取る売上高から、外部購入価値を引いたものが付加価値です。
これは、GDPを計算する国民経済計算においては、産出額から中間投入を引いたものに相当します。

そして、付加価値の中身を見ると、企業会計的な人件費や営業利益を加えた項目(経済産業省の付加価値の計算式)と、GDP分配面での各項目が対応している事が確認できますね。

つまり、人件費と雇用者報酬、営業利益、動産・不動産賃借料と営業余剰・混合所得(純)、減価償却費と固定資本減耗、租税公課と純間接税です。

それぞれ厳密には異なると思いますが、付加価値が主に労働者(青)、企業(赤)、政府(緑)で分配される事も確認できます。

この連載の目的の1つが、マクロ経済統計と、ミクロの企業活動との統合的理解です。

上の図は、結局マクロ統計で扱っている内容と、私たちミクロの企業活動で計上される項目は対応していて、それぞれが付加価値で繋がっている事を物語っています。

5. 企業活動の合理性

企業活動は外部環境に合わせて少しずつ合理化されていくはずです。

企業の合理的活動とは当期純利益と、付加価値のどちらを大きくしていく事でしょうか?

当然ですが、どちらも増えていくに越したことはありませんね。
ただし、前述した通り日本の企業は当期純利益は拡大していますが、付加価値がほとんど増えていません。

現在、企業のほとんどは株式会社ですので、多くの企業ではオーナーである株主への分配(配当金など)を増やす事も大きな使命となっています。

特に大企業では、株主の意向を反映した企業経営が重視され、短期的でも当期純利益を最大化していく事が求められるのではないでしょうか。

最新の企業の統計(法人企業統計調査)を見ると、大企業ほど当期純利益と配当金の伸びが極端に大きい事がわかります。

これは資本主義の社会としては、むしろ当然の企業の在り方と言えるかもしれません。

一方で、国内企業の大多数を占める中小企業はどうでしょうか?

多くの中小企業は、オーナー企業(経営者が株主)である場合も多く、必ずしも当期純利益を最大化する経営が求められているわけではありません。

中小企業は赤字経営の割合が多い事も指摘されているところです。
黒字どころか、赤字経営が常態化している企業が多い事になります。

出典:国税庁 会社標本調査結果より筆者にて作成

上図は日本企業の企業規模別に見た、欠損法人の割合を表しています。

繰越欠損も含みますが、ちょうど資本金1億円の前後で傾向が大きく変わります。
中小企業の過半(約6割)は赤字経営という事になります。

いち当事者として実感する事ですが、中小企業は付加価値を増やし、黒字化(当期純利益がプラス)する事自体が難しいのが現実です。

中小企業は付加価値に占める人件費の割合(労働分配率)が高い事も特徴です。
経費を圧縮したり、経営者の給与も削りながら、できる限り人件費に充てているけれども赤字になるという企業が多いのが実態ではないでしょうか。

つまり、中小企業はそもそも分配の元手となる付加価値を十分に稼げていないという事を物語っています。

中小企業はまず付加価値(≒粗利)を増やし、自社の利益を確保しながらも、従業員への分配を増やしていく課題を持っている事になると思います。

付加価値とその分配の拡大を目指す経営姿勢は、1社1社が実践したところで経済全体への影響は微々たるものだと思います。

一方で、労働者の7割を雇用している中小企業全体が、同じ方向性を指向したらどうでしょうか?

付加価値向上と分配の拡大が、消費や投資を促し、更に付加価値向上の余地が増えていくという、自社の付加価値向上と事業環境の改善が同じ方向で循環していくのではないでしょうか。

このように考えれば、長期的に見れば、企業としても付加価値と分配を増やす事に合理性があるはずです。

特に、国内経済の主役である中小企業こそ、付加価値を重視する経営に積極的に取り組んでいくべきではないでしょうか。

筆者は、この付加価値と分配を重視する経営姿勢を付加価値経営と呼んでいます。

この付加価値経営を、読者の皆様と一緒に考え、実践をしていくヒントを掴んでいくのが本連載のメインテーマです。  

6. 付加価値経営の難しさ

いち零細企業経営者として感じるのは、付加価値経営を実践する難しさです。

先に確認したように、付加価値は売値と外部購入費用の差額です。
当期純利益はそこからさらに人件費などを引いたものに相当すると考えれば良いと思います。

企業経営を黒字化しようとすると、どうしても人件費や仕入費用を圧縮しがちです。
経営者としては常にその誘惑が付きまとう事になりますね。

特に仕入を抑制するのは良く取られる手法です。
仕入先から見れば、多くの場合値引き要請に応じる事になります。
つまり、仕入費用の抑制とは仕入先の付加価値を削る事です。

深く考えなくとも、値引き要請とは、削った付加価値を自社に付け替えただけで、経済全体の付加価値が増えるわけではない事が容易に想像できます。

個社として見ても、このような事業に持続可能性があるでしょうか?

安すぎる仕入費用でギリギリ成立する事業だと、仕入先が廃業したり、受注拒否した時点で詰みになってしまいます。

このようなやり方は一時的には利益を増やす事になるかもしれませんが、長期的に見れば持続可能でないばかりか、自社の成長を妨げる事になりますね。
当然仕入先との信頼関係も毀損します。

実際に、当社周辺ではあまりに安い受け値で仕事をしていた企業の多くが、経営者のリタイアと同時に廃業し、そこに外注していたメーカーが困り果てている事態が多発しています。

当社にも、そのような案件(廃業案件などとも呼ばれます)のお声がけをいただきます。
実績の取引価格を聞くと、とても請けられる金額ではない場合がほとんどです。

売上高を簡単に表現すれば、価格x数量です。

日本の企業で生産性向上というと、数量的な生産性(物的生産性)の向上をイメージする事が多いのではないでしょうか。

実際に生産現場では物的生産性の向上が積極的に図られていますし、そのような活動は日本企業の得意なところでもありますね。

一方で、価格を上げていくという方向性もあるはずなのですが、なかなかこの方向を目指していく企業は無いように思います。

日本企業の特徴として、取引価格は前値通りという感覚が強いのではないでしょうか。

出典:日本銀行 企業物価指数より筆者にて作成

国内企業物価指数(青)を見ると、なんと日本の企業間取引の物価(青)は1980年ころからずっと横ばいが続いてきたことがわかります。

消費者物価指数(黒)が、鈍化しながらも1990年代後半まで上昇した事と比べると、その20年近く前から物価の停滞が始まっていた事になります。

ここには半導体や通信機器などの性能向上が物価下落として加味される面もありますが、日本の企業間取引の特徴が良くわかるグラフではないでしょうか。

日本の企業間取引は実績が重視され、より安く調達する事に重きが置かれてきたように思います。

付加価値経営とは、自社のサービスの価格を、少なくとも適正な範囲で顧客に提示し、認めてもらう事が肝要となります。

日本の場合は、例え非合理な安い仕事でも、そのまま残り続けるという傾向が強いように思います。

他社より安くして仕事を受注するのは、経営者としては簡単です。
その分、仕入費用や賃金を安く抑えれば良いからです。

しかし、そのような仕事をしてしまうと、結局は持続可能な事業にはなりません。
そして、適正範囲を下回る価格で提供してしまえば、顧客の価値まで下げてしまいます。

自社だけでなく、顧客の持続性や成長性まで奪ってしまいかねないのではないでしょうか。
適正な価格を意識し、それを顧客に認めてもらいながら、顧客の価値を上げ、仕入費用も適正に受け入れていく姿勢が大切なのだと思います。

付加価値経営とは、このように当然の事を言っているに過ぎません。
単に、顧客と仕入先と対等なパートナーシップを構築しながら、企業としての本質的な仕事を重視する事が大切だと言っているだけです。
しかし、現実には実践するのがとても難しい経営姿勢です。

それだけチャレンジしがいのある試みでもあります。

企業それぞれで事情が異なりますので、取り組める企業から少しずつトライすれば良いのではないかと思います。

幸いこのような主張にご賛同いただける仲間が増えてきています。

また、世代交代などを機に、30代、40代のアトツギと呼ばれる経営者さんで、実際に実践されている企業も増えており、大変心強く感じています。

一緒に付加価値経営を実践していく仲間が増えていく事を願っています。

このトピックスでは今後、付加価値経営のポイントなども共有していく予定です。

経済統計の詳細なデータにつきましては、是非当社ブログもご参照ください。
小川製作所ブログ: https://ogawa-tech.jp/blog

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