デジタル庁「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)」解説

2024年6月3日
全体に公開

デジタル庁は2024年5月30日、「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)」を発表しました。

本ガイドブックは、テキスト生成AIを活用する際のリスクとその対策について詳しく解説しています。

行政サービスや職員業務の改善を目指す中で、テキスト生成AIの適切な利活用が求められている一方、その利用には多様なリスクが伴います。本ガイドブックはこれらのリスクを特定し、軽減策を示すことで、安全かつ効果的なテキスト生成AIの活用を支援することを目的としています。

テキスト生成AIはその提供形態やユースケースに応じて特有のリスクが存在するため、具体的なリスク軽減策を紹介しています。現段階では実践的なフレームワークやチェックリストによるガイドブックを作成するまでの知見が蓄積されていないため、留意点の紹介にとどめています。

テキスト生成AIの利活用方法

ガイドブックでは、テキスト生成AIの利活用方法を以下の4つのユースケースに分類しています。

チャットインターフェース:
サービス利用者とインタラクティブに対話する機能としてのオンライン処理

バッチ処理:
大量の文章に対してラベル付けやテキストデータ変換などの自然言語処理を行う機能

情報検索:
検索エンジンの補助としてのオンライン処理

自然言語からのプログラム作成:
 ダッシュボードやソースコードなどを自然言語で記述可能にする機能

生成AI利用時の留意点

生成AIの活用や企画する際には、テキスト生成AIの利活用が不適切なケース効果的なケースを見極めることが重要です。

<不適切なケース>

以下のような場合、テキスト生成AIの利活用は不適切とされます。

期待品質が高すぎる: ユーザーの期待を満たせない可能性が高い
  例: チャットインターフェース型サービスが、特定のドメインに限定しない質問に対して不適切な回答をするリスク

人間が行うべき作業: AIによる代替が不適切
  例: パブリックコメントの返答をAIが全自動化することは不適切

特定の資格が必要: 法令に定められた資格保有者が行うべき作業
  例: 医師の代わりにAIが薬の処方箋を発行することは違法

知識不足: テキスト生成AIの学習データにない情報を要求する場合
  例: テキスト生成AIが学習データにない情報に対して根拠のない回答をするリスク

費用対効果が低い: コストが高すぎる場合
  例: オンライン処理におけるリクエストごとの運用費用が高くなる場合

規範に違反: AI事業者ガイドラインの「共通指針」に違反する場合
  例: AIが生成するアイデアが特定のバイアスに影響されるリスク

<効果的なケース>

効果的な利活用例として以下のようなユースケースを挙げています。

情報検索サービス: 旧来のチャットボット型サービスを改善し、利便性の高い情報検索サービスを提供
  例: 国民向けに高品質な情報検索サービスを提供し、ユーザビリティを向上

パブリックコメントの返答作成: 大量のパブリックコメントを効率的に処理
  例: コメントを内容単位で分割し、テキスト生成AIを用いてラベル付けを行い、職員が確認

資格保有者の支援: 資格保有者をサポートする形でAIを活用
  例: 医師が処方箋の原案をAIに提案させ、最適なものを選ぶことで業務を支援

信頼できるデータベースとの連携: 正確なデータベースへの問い合わせを自動化
  例: データベースに適切なクエリ文を発行することで正確な情報を取得

提供形態とリスク

テキスト生成AIの提供形態を大きく3つに分けています。

組み込んだサービス: SaaS形式で提供されるケース
  例: 既存のサービスを利用するため開発コストが少なく、運用コストも低い
  <リスク>カスタマイズ性が低い場合がある

Web APIとしてのクラウドサービス: クラウド上で利用されるケース
  例: 大規模言語モデルを利用するため、カスタマイズ性が高く、運用コストはトークン数や文字数に比例する
  <リスク>クラウドサービスを利用することで、柔軟にスケーリングが可能であるが、コスト管理が難しい場合がある

機械学習モデルの直接提供: オンプレミスやクラウド上でモデルを直接実行するケース
  例: 最も高い開発コストと運用コストがかかるが、セキュリティやカスタマイズ性が高い
  <リスク>初期投資と運用管理の負担が大きくなる

それぞれの提供形態には、ライセンス、調達容易性、機密性、アップデート対応、ベンダーロックイン、コストマネジメントの観点からリスクと軽減策が存在します。提供形態ごとのリスクを理解し、適切な形態を選択することが重要としています。

テキスト生成AIの提供形態による違い出典:デジタル庁 テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版) 2024.5.20

生成AI利用時の具体的な対策

生成AIの利用の企画する際には、以下の具体的な対策を推奨しています。

情報検索サービスの改善:
旧来のチャットボット型サービスが抱える課題を解消するために、情報検索システムをテキスト生成AIで強化する。ユーザーの検索意図をより正確に理解し、関連性の高い情報の提供により、ユーザーの検索体験が大幅に向上させる

パブリックコメントの処理効率化:
パブリックコメントの処理を効率化するために、テキスト生成AIを活用する。まず、コメントを内容単位で分割し、その後、AIによってラベル付けを行う。最終的に、職員がラベル付けの妥当性を確認し、不適切なラベル付けがあれば修正する。このプロセスにより、膨大なコメントを効率的に処理し、職員の負担を軽減する

資格保有者の業務支援:
医師などの資格保有者を支援するために、テキスト生成AIを活用する。例えば、医師が処方箋の作成にテキスト生成AIを利用する場合、AIが複数の処方箋の提案を行い、医師がその中から最適なものを選ぶことで、業務効率を向上させる

データベースとの連携強化:
テキスト生成AIを用いて信頼できるデータベースへの問い合わせを自動化する。例えば、データベースに対して適切なクエリ文を発行し、正確な情報を取得するシステムを構築する。これにより、手作業でのデータ検索を効率化し、正確性を高める

技術的実現可能性の検討:
テキスト生成AIの利活用が技術的に実現可能かどうかを検討するために、事前にプロンプトを試行する。これにより、実際にどの程度の精度で目的のタスクが実行できるかを評価する。例えば、情報検索システムにおいて、ユーザーの意図を正確に推定できるかどうかを確認するために、具体的なプロンプトを用いて試行錯誤を行う

リスク軽減のための具体的な対策

テキスト生成AIを利活用する際の具体的な対策として、以下のポイントを挙げています。

プロンプト設計の工夫:
テキスト生成AIの精度を向上させるためには、プロンプト設計が重要。適切なプロンプトを設計することで、目的のタスクに対して高い精度での回答を得ることができる。例えば、特定の質問に対して期待する回答フォーマットを指定することが有効

リクエストの集約:
複数のリクエストを一つに集約することで、コスト削減が可能。例えば、同様のリクエストを一度に処理することで、効率的な運用が可能に

過去の生成物の再利用:
過去に生成されたテキストを再利用することで、新たなリクエストに対する処理コストを削減する。例えば、同様の質問に対して過去の回答を利用することで、テキスト生成AIへの負荷を軽減する

品質評価と品質保証:
テキスト生成AIの生成物の品質を評価し、品質保証を行うことが重要。具体的には、生成物の品質評価基準を明確にし、テストケースを充実させることで、期待品質を満たすかを確認する

今後の展望

デジタル庁が公表した「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)」は、行政サービスや業務改善におけるテキスト生成AIの潜在的な活用法とリスク軽減策を整理しています。

今後、テキスト生成AIの利活用は広がれば、行政だけでなく、民間企業や教育機関などでも活用が進む可能性もあるでしょう。

生成AIは、データ解析や情報検索の自動化、パーソナライズされたユーザーインターフェースの開発などのさまざまな領域において活用が期待されます。企業においては、効率化と革新の大きな推進力が期待されます。

その一方で、リスク管理の重要性も増しています。AIが生成するコンテンツの品質や信頼性、プライバシー保護、倫理的な問題も多く、適切な対応が求められます。

今後は、ガイドラインや規制の整備が進み、生成AIの利用における適切な処理ができるような仕組みが整備されることが期待されます。

生成AIの先進的かつリスクに対応した活用事例が公開されているケースは必ずしも多くはなく、政府と民間の連携を強化し、ベストプラクティスの共有や技術の透明性確保を図ることで、安心して利用できる環境整備が求められます。

【参考文献】

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