自動運転技術の現在地と今後
自動運転技術は、交通安全の向上や運転手不足の解消といった日本が直面する社会的課題への効果的な対策として期待されています。
自動運転の社会実装に向けては、安全性の向上、地域住民による安全性への理解の促進、自動運転車による輸送サービスの経済的採算性の確保などの課題を解決する必要となっています。
一方、米国での無人自動運転タクシーによる人身事故の発生など、自動運転技術にはまだ解決すべき問題が山積しています。
また、地域住民を含む関係者が自動運転の無人化を安心して進めるためには、事故発生時の社会的ルールに関する検討も不可欠です。
さらに、事故発生時の責任所在の明確化、ヒヤリハットや事故に関するデータの収集・分析を通じた事故未然防止策の構築、事業者からのデータ提供を促す制度設計など、事故防止に向けたさまざまな取り組みが必要とされています。
自動運転技術の社会実装を安全かつ効果的に進めるための土台を築くことが、今後の課題として浮き彫りになっています。
こういった背景を受け、デジタル庁は2023年12月25日、「AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ(第1回)」を開催しました。
事故等が発生した場合の責任制度その他の社会的ルールの在り方について、①被害者の十全な救済を確保、及び、②先端技術を用いる自動運転車の責任ある社会実装の推進という観点から、論点(短期的論点、中長期的論点)の整理及び目指すべき方向性について検討を行っています。
この中から、自動運転技術の現在地について取り上げたいと思います。
自動運転技術の現在地
全国各地で、スタートアップ企業が中心となって、自動運転の実証事業が実施され、状況における実走行データの収集などを通じ、自動運転技術の確立を目指しています。
自動車メーカーにおいても、2021年度より栃木県宇都宮市及び芳賀町にて自動運転タクシーサービスの実証事業を実施しています。2026年初頭に東京都一部エリアにて無人自動運転タクシーサービスを開始予定しています。
自動運転の事故や交通トラブルの発生も
米国では、公道での自動運転実証を積み上げているが、事故や交通トラブルも発生しています。
米国での事故や交通トラブルの事例をとりあげます。
【ウーバー・テクノロジーズ社】
• 2018年3月、アリゾナ州テンピにて、自転車を引きながら道路を横断していた女性を、時速約64kmで走行する自動運転車がはねて死亡させる事故が発生。
•当時、安全担保のためのドライバーが着席し、実証実験を実施中。
【GM Cruise社】
• 2023年10月、無人自動運転タクシーの隣を並走していた車に歩行者が衝突。当該歩行者が自動運転タクシーの進路に投げ出され、下敷きとなった。
•その後、歩行者が下敷きになったまま、自動運転タクシーは路肩に移動するため6mほど走行した。(歩行者は重傷)
日本でのでの事故や交通トラブルの事例もみてみましょう。
【永平寺町での接触事故】
• 2023年10月、福井県永平寺町で運行中の自動運転車両が、路上に駐輪してあった無人の自転車と接触。自転車は、押し出されもう一台の自転車に寄りかかり停止。
•原因究明のため、直ちに運行を停止(現在は対策の実装に向けた試験中)。
【大津市自動運転バス事故】
• 2023年1月、大津市で行っていた自動運転バスの実証実験(保安ドライバーあり=レベル2)において、バスが加速したはずみで乗客の女性が転倒し軽傷。
•滋賀県警が当該バスの運転者を過失運転致傷の事実で検察官に送致。
自動運転におけるAIの活用
自動運転におけるAIの活用も進んでいます。自動運転の領域については、従来、物体認識において機械学習やディープラーニングを用い、それ以外の判断や制御においては、ルールベースの条件分岐によるプログラミングが主流でした。
その一方で、設計・開発思想が従来OEMとは異なる新たなプレイヤーの出現や、走行環境の拡張・複雑化に伴い、判断や制御においてもAIの活用が進みつつあります・
特にTeslaは、現状の市販車において、認識・判断・制御すべてにAIを適用させたシステムを構築しています。
TeslaのAI活用の例をみてみましょう。
Teslaのニューラルネットワーク活用
Teslaは、最先端の研究を応用して、認識・判断・制御の問題に対処するため、Autopilot向けに48のディープニューラルネットワークをトレーニング。これらのネットワークは、数百万台の車両からリアルタイムに情報を得て学習。ニューラルネットワークを完全に構築するには、70,000GPU(基/h)の時間が必要とされ、タイムステップごとに1,000個の異なる予測を出力。
Teslaのオートノミーアルゴリズムの活用
Teslaは、車のセンサーから得られる情報を組み合わせ、忠実に再現した地上データをアルゴリズムで作成。最先端技術を駆使して、複雑な現実世界の状況下で動作する強固なプランニングと意志決定システムを構築。
自動運転における物体検出、行動予測、行動決定、運動制御などでそれぞれまとめたものが以下の図です。
今後の展望
日本は、2050年までに、日本の居住地域の約半数で人口が50%以上減少すると予測されています。この人口減少は、近隣の中小店舗の減少や病院、学校の統廃合・移転などを引き起こし、日常生活における「移動」の問題を深刻化させています。共働き世帯の増加に伴い、高齢者の通院や児童の通学・習い事の送迎負担も増大しています。
高齢ドライバーによる自動車事故への関心が高まっており、運転免許の自主返納の動きが進んでいますが、返納後の移動手段に対する不安も存在しています。
コロナの影響を受けて、公共交通事業者の経営環境は悪化し、多くの路線バスや地域鉄道が赤字に陥っています。運転業務の賃金水準の低さも人手不足を招き、路線の休廃止が懸念されています。
そこで、期待が高まっているのが自動運転の推進です。政府では、2025年度に50ヵ所、2027年度に100ヵ所以上の目標で自動運転の社会実装を目指しています。一般道での通年運行事業を全都道府県で展開し、路車協調システムの整備により、自動運転の安全性と普及を目指します。これにより、人口減少や高齢者問題、公共交通の課題に対応していくことを目指しています。
また、自動運転車の安全性向上には、平時の走行データや有事のデータの収集・解析が重要です。ヒヤリハットや事故データの取得と公平な取扱いが必要で、これらのデータを社会全体で共有・解析することが求められています。
その中で、社会的ルールと基準の確立:が求められており、政府では、自動運転車の社会実装に伴う法的、倫理的課題の解決を目指し、新たな交通ルールやガイドラインの策定を進めていく方針です。
これらの取り組みにより、自動運転技術は日本の交通システムを変革し、社会課題の解決に貢献すると期待されています。
高齢化社会や人口減少の影響を受けた地域における移動手段の確保、公共交通の持続可能性の向上、交通事故の減少などが、自動運転技術の進展によって実現されることが望まれます。
また、自動運転技術の普及には、技術的な進歩だけでなく、時間をかけて、試行錯誤をしながら、利用者の信頼と社会的受容性の構築が必要不可欠となっていくでしょう。
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