【対談 #3】人がくるメタバース、一度きりで終わらないために 2/3

2023年4月21日
全体に公開

脳科学者でXRコンソーシアム。ブレインテックコンソーシアムの代表理事の藤井直敬と、メタバースエバンジェリストの角田拓志による連載対談。

第三回目となる今回は、「めちゃ簡単、めちゃ沢山入れる」メタバース技術であるめちゃバースを手がけている株式会社ハシラス(以下、ハシラス)の代表取締役社長、安藤晃弘さんをゲストにお呼びして、3人でメタバースについて語っています(全3パート / Part1

メタバースでのイベントにおける最適人数

藤井:ハシラスさんは去年、めちゃバースを中小規模のイベント向けにカスタマイズしたパッケージを数時間だけレンタルできる「めちゃイベントmini」を始めましたよね。これはめちゃバースを多くの人に使ってもらいたいからですか?

安藤:それも理由の一つですが、「充分に安く借りられて、100人程度集まれる場所」にはそこそこの需要があるのではないかという仮説を持っていました。ただ提供開始から数ヶ月を経て、100人という規模は需要から少しずれているのかもと思い始めています。

株式会社ハシラス 代表取締役社長 安藤晃弘さん

そうした思いもあって、現在は「めちゃバース ミニマムプラン」というサービスを改めて展開しています。仮説については、このサービス運用を通じてさらに検証を進めていくつもりです。

藤井:100人規模のイベントの開催は、まだ現実の方が優勢なんですかね?「何人規模のメタバースが刺さるのか」という問題の答えは、まだ誰も知らないから面白いですね。

角田:音楽関係のライブイベントをメタバースでやりたいという相談を受ける時、よく「その空間に同時に5万人が入れるようにしてください」という要望が挙がるのですが、僕はこれに対してやや懐疑的です。300人ぐらいで充分な場合も多いような気がしていて。5万体のアバターが同時に表示されても、一人一人の顔のディティールなんて見えませんよね。

「一緒にいる感じ(ソーシャルプレゼンス)」というのはライブイベントの満足感において重要ですが、それは何人いれば満たされるのか、それ以上増やしても効果がなくなるラインがあるのかは非常に気になります。

安藤:実際、5万体のアバターが並んでいるメタバースを現行のデバイスで体験したとしても、遠くのアバターは1ピクセルにもならなかったりして、正確に識別することはできません。「5万人と一緒にいる感覚」を作り出すのは、5万人分のアバターを全て丁寧に描画することではないように思います。

角田:その通り。メタバースでの最適なイベント規模はこれから検証が進むところで、非常に楽しみな領域です。

そのメタバースは、どれくらい先の未来を見通しているのか?

藤井:メタバースというと、「オープンワールド」っていうイメージが強いですよね。それに対して、ハシラスのめちゃバースも、ハコスコのメタストアも「会場」というか、「点」に近い。

僕は、点と点がダイレクトに繋がっていくのもメタバースの利点だと思っているんです。無限に続く世界ももちろんいいのですが、歩くのが面倒だったり、ある体験において必要十分な範囲を考えるとそんなに広いスペースは要らなかったりもして。

安藤:そうかもしれません。もっと言えば現在、高性能なXRデバイスはまだまだ一般的ではないし、メタバースの真価を体感できる人は限られています。デバイスやプラットフォームが発展途上にあるという背景を踏まえると、「2023年に価値があるメタバース」、「来年価値があるメタバース」、「5年後に価値があるメタバース」……はそれぞれ違うと思っていて。

ハシラスとしては、2023年現在において広く体験できるメタバースの価値として「大勢が集う賑わい」に注目していて、めちゃバースはそれを突き詰めることから始めています。

角田:いろんな方と話してると「どれくらい先の未来を見据えて取り組んでいるか」は本当にまばらで、そのギャップが齟齬を生んでいるように思います。

例えばメタバースに詳しくない人が、現在の技術レベルでは到底実現できない遠い未来の話をしてくることがよくあります。それに対して僕が、現在実現できるレベルの具体的な話に落とし込んでいくと、がっかりしてしまうことも。

「美麗で素晴らしい空間をメタバースに制作したけど、誰も来ない」というよくある失敗例は、現在の話と未来の話を混同してしまった結果とも言えるかもしれません。「HMDが全家庭に普及して、誰もが毎日ゴーグルを被るような状況だったら大成功したかもな」と思うような企画も多くあります。しかし、残念ながら現在はまだそのような状況ではない。

藤井:メタバースで一番最初に空間を作って過疎った(失敗した)人はまだ仕方ないと思うんです。でも、「メタバースでXXを再現しました」「でも全然人が来ませんでした」といった事例は、一つや二つじゃないですよね。なぜ人が来なかったのかを先行事例から学んで、全く同じことをするのではなく、新しいチャレンジをしていって欲しいです。

特に、実在する特定のスポットをメタバースに再現するミラーワールド的な試みは、箱を用意するだけでなく、そこに人が集まる仕組みを導入しないと上手くいかないというのが、ここ数年で明らかになったことだと思います。

安藤:VRChatやcluster、Robloxのような「ユーザーが常にたむろしている場づくり」に成功しているプラットフォームを見ていると、単に主催者がイベントを開催できるようになっているだけでなく、個々のユーザーがそこで遊べるようになっているかというか、ユーザー自らその世界をどれだけ作れるかという点が重要であるようにも思います。

3/3へ続く。

過去の対談

【対談 #1】なぜメタバースをやるのか?脳科学者に聞いてみた

https://newspicks.com/topics/metanext/posts/47

【対談 #2】「日常的」で「実用的」なメタバースってどんなの?

https://newspicks.com/topics/metanext/posts/58

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