日本人に足りないのは、「知識」ではなく「知識を使う力」である
先日、採用をテーマとした講演を行った際、聴講者からこんな質問をもらいました。
「転職を考えたときに『自分の強みをつくりなさい』と言われ、いろいろ勉強しているのですが、強みにつながっている実感がありません。どうしたらよいですか?」
たしかに転職サイトや書籍には、「強みをつくりましょう」とよく書いてあります。ですが、強みとはいったいどうやって作るものなのでしょうか。
もちろん、一部の希少性のある資格などもいくつかありますが、絶対的な強みというのはビジネスの世界にはほとんどありません。強みとは相対的なもので、知識は皆が知るようになったり、環境が変わってニーズがなくなったりすれば、価値そのものがなくなってしまいます。
実際、キャリアで成功している人のほとんどは、知識を増やすことよりも、もっと違う方法で価値をつくっています。
そこで今回は、グローバル企業で実践している「自分の価値を効率的に高める方法」を解説します。
◇ハードスキル(知識)の獲得に偏重する日本
これまで日本企業では、「人の価値=知識の量」という捉え方をされていました。「勉強する」=「知識・情報を得る」=「能力・価値が高い」。これは決して間違ってはいませんし、知識や情報があることで、できる仕事が増えていくことは事実です。こういった能力を「ハードスキル」と言います。
たとえば、エンジニアや技術者なら、技術やツール、機械の知識がまさにハードスキルです。人事の場合、労働法や給与計算の知識、採用手法の知識がハードスキルになります。営業職ではアポイントの取り方や商品説明の仕方を覚えることなど、どんな仕事をしていても、その業務に必要なハードスキルはたくさんあります。
知識は身につけるのに時間がかかりますが、一度覚えれば、業務の内容やルール、仕事の環境が同じであればずっと使えます。そしてこれまで多くの日本企業では、社員は同じ会社でずっと働き、事業内容もあまり変わらないままで長い時間を過ごしてきたので、ハードスキルは非常に有用なスキルでした。
◇知識で価値を上げることには限界がある
いまでも多くの企業では、何か新たなことに取り組むときに、とにかく「知識をつける」ことから始めます。しかし、新たなハードスキルは獲得するのにとにかく時間がかかります。
一方、日本の経済環境は昔と異なり、変化のスピードが上がり、せっかく時間をかけて学んだ知識も、あっという間に過去のものとなったり、いざ仕事で使おうと思っても、本に書いてある通りの状況ではなかったりすることが少なくありません。
つまり、仕事において価値を高めるには、時間をかけてハードスキルを蓄積することでは難しい時代になってしまったわけです。
アメリカでは20年ほど前に多くの企業でこの問題が取り上げられ、持続的に人の価値を高めるには、「ハードスキルを得る」こと以外のスキルが必要だと考えられました。
それが、「ソフトスキル」です。
◇知識を使う力「ソフトスキル」
ソフトスキルはさまざま意味で語られていますが、「知識」そのものではなく「知識を使う」ためのスキルを指します。
ハードスキルは仕事においてゼロでは困りますが、ある時点からはハードスキルの量とパフォーマンスは比例しなくなります。また、これだけインターネットとAIが発達してしまうと、情報や知識そのものの価値は今後もどんどん薄れていきます。
それよりも、「得た知識を仕事の現場でどう応用して使えるか?」という能力によってパフォーマンスに大きな差が生まれるのです。
そのためグローバル企業では、社員のパフォーマンスを効率的に上げるために、ハードスキルよりもソフトスキルの向上に重きを置いて育成を行っています。
とはいえ実際にソフトスキルを鍛えようといっても、「どうしていいのかわからない」という方も多いのではないでしょうか。
そこで、ソフトスキルが表出しやすい例を見てみましょう。同じような知識(ハードスキル)を持つ人が、他の人にその知識について説明する場合、説明の仕方によって相手に与える影響や相手の理解度は大きく異なります。
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Aさん
「今から〇〇について説明します。とても大事なことなのでよく聞いておいてください」
「〇〇について説明する前に、過去からここまでの流れについて振り返っておきますが、まず〇〇というのは、昔は~で、そのときこういうことがあって今に至るわけですが、~や~といった特徴があり、結果として〇〇が重要であるということです」
「何か質問ありますか? なければ以上です」
Bさん
「今から〇〇について説明しますが、それは~という背景、理由があるからです。今後皆さんに実行してもらうことになるので、この機会によく聞いておいてください。」
「〇〇の大事なポイントは3つです。必ずメモして復習できるようにしてください」
「①~、②~、③~。わかりにくいところがあれば質問してください」
「来週もう一度時間をとるので、今週実践してみて、気づいたことを教えてください」
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このように、知っている知識を長々と説明して要点がわからないAさんと、相手にとっての重要性や、理由を最初に提示し、ポイントを絞って実践を促すBさんでは、知識の量は同じでも、その知識を相手に伝えるスキルに大きく差があるのがわかると思います。
◇日本人が鍛えるべきなのは「ソフトスキル」
日本では学校教育がハードスキルに偏っているため、ソフトスキルを習得する機会がほとんどありません。また社会人になっても、特に若手の間は、業務に必要なハードスキルの習得に追われてしまい、結局得た知識を仕事で使わないまま忘れてしまうことも多くあります。
ソフトスキルの中でも特に、海外の人材に比べて日本人が顕著に弱いと感じるソフトスキルは、「説明力」 (難しい内容や複雑な事象を短く・わかりやすく伝えるスキル)です。
同質性の高い日本では、「言わなくてもわかるだろう」(あ・うんの呼吸)で説明を省いて効率化したり、以心伝心して伝わることが褒めたたえられてきた長い歴史があるからですが、いまの日本のように価値観や文化が多様化しているなかでは、これが致命的な説明力の欠落につながっています。
話している内容は同じにもかかわらず、「プレゼンテーションや会議で、要点をまとめて説明する」という能力で、世界と日本では本当に大きな差がついてしまう場面をこれまで多く見てきました。
グローバル企業のリーダーたちは、「相手が求めることを話す」という手法を徹底的に訓練されています。しかし、日本人はどうしても「自分が話したいことを伝える」という話し方になってしまいます。
つまり、「話す」という非常に基礎的なソフトスキルに関しても、きちんとしたメソッドを教わらないままになっています。
この「説明力」を簡単に改善するために、一番良い方法は、「話し方」を練習するのではなく、「相手が何を求めているか」を理解する能力、つまり「想像力」を鍛えることです。
次回、簡単に想像力を鍛える方法もご紹介しますので、ぜひお楽しみにして頂ければと思います!
Top画像@Linustock
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