Vol.1 『進化思考』/イントロダクション

2022年2月21日
全体に公開

本をベースにした連載がスタート

荒木:こんにちは。荒木と申します。普段はスタートアップのアドバイザーとか、大学での教員活動、そして執筆活動などをしています。これからトピックスで連載を始めることになりました。

いぬ山:どうぞよろしくお願いします。しかし、トピックスって連載ですし、それなりの頻度の更新が必要ですよね?荒木さん、大丈夫ですか?

荒木:まあ正直やってみないとわからないです。でも、新しいメディアって楽しそうじゃないですか。さらに、連載で大事なのは「テーマ」と「型」なんで。それさえ作ってしまえばVoicyのチャンネルのように続くんじゃないかなと。

ーVoicyも毎日更新で1000日以上連続で続いていますもんね。

荒木:はい。それこそ、「テーマ」と「型」が定まれば、あとは転がるように何とか書けるかなと思っています。

ーで、肝心なその「テーマ」と「型」というのはどうするんですか?

荒木:テーマはやはり「本」ですね。その中でも、いわゆるビジネス書の王道ではない領域の書籍を取り上げてみたいと思っています。例えば哲学とか歴史とか。人文科学系全般にスコープを広げたいですね。

ーまあ、本だということはわかりますが、なぜ王道以外の領域になるのですか?王道にこそNewsPicks読者のニーズはありそうですが。

荒木:ニーズはそうだと思います。しかし、これからのビジネスを真剣に考えるならば、視野の拡張は必須だと個人的には思っています。

ーはい…、どういうことでしょう?

ビジネスを考えるために、ビジネスを抜け出る

荒木:先日、『進化思考』の著者である太刀川英輔さんと対談する機会がありまして。あの本を読んだ方はわかると思うのですが、あのセオリーの魅力はそのベースに生物学があることなんです。

ではなぜ生物学かと言えば、イノベーションの本質を問うていくと、「生物の誕生」に行き着いたと。つまり、ビジネス的な観点だけで語るイノベーションは、歴史が浅すぎて説得力に欠けるということなんだと理解しました。

ーなるほど、わかるような気がします。人類、もしくは生物の歴史から考えれば、ビジネスの歴史は赤ん坊のようなものですよね。

荒木:そうなんです。あまりにも変化の激しい時代に流されないようにするためには、時代という名の杭を深く打ち込まなくてはならない。そのための歴史的な視野が必要です。

ーわかります。さらに、歴史的な「深み」に加えて、「広さ」も必要ですよね?

荒木:まさに。この『進化思考』の最終章では、こんな印象的な一節があります。

私たちは、創造によって失ってしまった自然との適応関係を、もう一度、創造できるのだろうか。この問いは、人の生息できる惑星環境が持続可能なのかという根源的な問いと表裏一体を成している。もはや創造の課題は人間中心のデザインではなく、未来や自然の生態系との共生のデザインに変わってしまったのだ

つまり、ビジネスとして考えている課題であっても、もはやビジネスの狭い範囲だけで片付けられる課題ではなくなっているものが多いのではないかということです。

『進化思考--生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』太刀川英輔著/海士の風

ー全てのことが有機的に繋がっていると。

荒木:そうなんです。この一節は本書のメインテーマではないように思いますが、しかし重要なメッセージであることに変わりはありません。物事を狭い範囲で考えていたら、どこで足元をすくわれるかわからない。だからこそ、私たちが日常的に見ている「ビジネス」というレンズの視野は浅くて狭いのだ、という自覚を持つことが必要なのではないかと思うのです。

ーなるほど。ビジネスは浅くて狭い……。そして、いずれにしても、王道のビジネス書は、トピックスでなくても読むでしょうしね。

荒木:そうそう。だからこの連載では、あまり読まれそうにない書籍を選んで、その意味を考えることで視野を広げる場にしたいなと。

対話を通じて考察を深める

ーわかりました。では、テーマは「ビジネス書からはみ出た本」ということとして、連載の「型」はどうしますか?

荒木:一つは、対話形式にしようと思っています。

ーまさに今回のような形ですね。

荒木:対話形式にする理由はいくつかあるんですが、ある程度のユルさがあるので読みやすいということと、書き手としてもやりやすいということがあります。自分の脳内の対話をそのまま言葉にするだけですから。

ーそうですよね。対話と言いつつ、いぬ山くんも架空の人物ですし、一人の中の脳内対話ですからね。そういえば、プラトンの対話篇も、ソクラテスが誰かと対話する形式をとっていますが、実際には本当の対話録だったのか怪しいところがありますし。後期作品なんかは特にそうですが、プラトンの脳内対話だったのではないかとすら…笑。

荒木:まあ、実際のところはわかりませんがね。ただ、プラトンの作品も「対話」という形式によって読者は救われていますよね。2500年経った今でも、十分にエンタメとして楽しめますから。

イラスト by 荒木博行

ーはい、そうですね。

荒木:そして、今後は読み手の方のリアクションも対話の中に盛り込んでいきたいと思っています。つまり、トピックスのコメント欄をベースに、本編の対話を進めていくイメージです。

ーなるほど、それは新しそうですね。読者との対話そのものがコンテンツとなっていく仕立ては。

本の「一節だけ」を見つめる

荒木:はい、どこまでできるかは未知数ですが。あと「型」という点でもう一つ。ここでは書籍の話をするのですが、本の全てを紹介するのではなく、本の中のとある一文、一節を深く掘り下げてみようと思っていまして。

ーなるほど、それはどんな狙いなんでしょう?

荒木:本の楽しみ方っていくつかあると思うのですが、一節だけを徹底的に味わう読書もありだと思います。「あ、自分はこの一文に出会うためにこの本を読んでいたんだ」という嬉しい瞬間、ありませんか?

ーあ、わかる気がします。私も先日キェルケゴールの『不安の概念』を読んでみて、「子供は眠っているときが一番美しい」という一文に出会ったとき、「そうそう、それそれ」と膝を打ちましたもん。

『不安の概念』キェルケゴール著/岩波文庫

荒木:その言葉、別にキェルケゴールじゃなくてもいいような気もするし、『不安の概念』を読んでその一文を引っ張り出すのもどうかと思いますけど…(笑)。まあでもそんなもんです。

いずれにせよ、結局500ページの大作を読んでも、記憶に残るのはわずか一節だけだったりするんです。だったら、ひたすらその一節の意味を考えるという読書もいいんじゃないかと。

ーちょっと読書のハードルが下がっていいですね。なるほど、連載の型は理解しました。ちなみに、次回の予告などはありますか?

荒木:次回はメアリアン・ウルフの『プルーストとイカ』を取り上げたいと思います。

ーおお、さすが。読書ということを考える上で欠かせない一冊ですね。

荒木:はい。ということで、これからトピックス連載スタートします。皆さんコメントなどよろしくお願いします。

今回の一節:『進化思考』太刀川英輔/海士の風

私たちは、創造によって失ってしまった自然との適応関係を、もう一度、創造できるのだろうか。この問いは、人の生息できる惑星環境が持続可能なのかという根源的な問いと表裏一体を成している。もはや創造の課題は人間中心のデザインではなく、未来や自然の生態系との共生のデザインに変わってしまったのだ
終章 創造性の進化 P.475
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