役にたたないデジタル人民元、使い方は今考えてます

2023年3月27日
全体に公開

上記のSCMP(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト)の記事が話題です(と、ニューズピックスの中の人から連絡があり、さぼっているトピックスを今すぐ書けと圧力をかけられました)。

デジタル人民元について、最近、以下2本の記事を書いています。

【雑誌】「デジタル人民元 その狙いとは?」『世界』岩波書店、2023年2月号
【無料ウェブ記事】「加速する「デジタルドル」と「デジタル人民元」の開発、その狙いとは」|ゴールドオンライン 

以下、『世界』の一部を引用します。

中国ではモバイル決済が普及しており、お店での買い物も友人への送金にも対応している。デジタル人民元にしかできないことは現時点では存在しないと言っていい。普及率を高める要因も現時点では想定しがたい。日本ではチェーン店や大型店はクレジットカードやモバイル決済への対応が進んでいるが、個人商店などの小規模事業者での普及率が低い。大きなハードルとなっているが決済手数料だ。小規模店舗の場合、平均で決済額の4~5%もの手数料を支払う必要がある。一方、中国では0・6%前後と低水準に抑えられている。それでも、まだ高額ではないか、サービス運営企業が暴利をむさぼっているのではないかとの批判があり、日本とはまったく状況が異なる。現金の同等物と規定されているデジタル人民元は決済だけでは手数料は発生しないとはいえ、モバイル決済では売上や顧客、在庫の管理、あるいは割引きクーポンを発行して再来客を促す仕組みなどの関連サービスが充実していることを考えると、小規模事業者が積極的に乗り換える動機は少ないだろう。
中国人民銀行も正式サービス開始のタイムスケジュールは白紙であると言明しており、焦って広めるムードはない。

デジタル人民元はまだほとんど使われていないし、使える場所も限定的です。何より問題なのは「何のために使うのか」という目的がいまいち見えていないのです。

想定されるユースケース、目的について、中国人民銀行デジタル人民元研究開発業務グループの報告書「中国デジタル人民元研究開発進展白書」(2021年7月)は四点を指摘しています。

1・現金コストの削減:モバイルマネーと違いデジタル人民元は公式な通貨なので、正式リリースすればすべての取引はこれに対応しなければならない。現金をやめることができれば、ATMとか現金発行といったコストセクターを減らせる。中国に限らず、全世界的に「キャッシュレスが進んでるのに現金の市中流通残高が増えまくってて辛い。コストかかるわ~」という課題が共有されている。現金やめたい。やめるのは無理にしても減らしたいという課題はある。デジタル人民元でそれが達成できたら嬉しい(でも、反発すごいだろうからすぐには無理)。

2・暗号通貨対策、特にステーブルコイン:あまりにも便利すぎるツールであるステーブルコインが支配的地位に立たないよう、国が対策手段を持つ必要性。米国のデジタルドルもステーブルコイン対策が第一の目的とされる。

3・他の国がやってるから遅れないように。

4・デジタルデバイドの解消:デジタル人民元はネットがない環境でも少額決済は可能。電波がないところでもキャッシュレスできるので辺境や田舎に強い。

「中国、デジタル人民元でドル覇権の打破を狙う」
こうしたニュースは大量に報じられている一方で、なぜデジタル人民元を使えばドル覇権をひっくり返すことができるのか、納得いく説明はほとんどない。

これは『世界』の記事の冒頭です。デジタル人民元というと、なんかおどろおどろしいというか、中国の陰謀という話で語る人が多いですが、実際には使い勝手がわからないけど、うまく使えば(中国に限らず世界共通の)課題を解決できる……かも……というところをぼんやりただよっている技術だという理解が必要です。

*冒頭の写真は中国アリババグループのスーパー「HEMA Fresh」。最初はキャッシュレススーパーとしてデビューしましたが、「現金で買えないのは違法」と政府に怒られたので、対応するようになりました。デジタル人民元が公式デビューすれば完全キャッシュレスにいけますね。

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