2024/5/25

なぜ、社員の推し活マインドが組織の課題を解決するのか

ライター
ブームとなっている「推し活」。「そのマインドは、組織づくりにも生かせる」と語るのが作家でワークスタイル&組織開発専門家・沢渡あまねさんです。

「推される部署」とはどんな部署なのか、「推される部署」になるために重要なこととはどんなことなのかを解説していただきました。(第5回/全5回)
INDEX
  • この部署と一緒に未来を描きたいと思わせる
  • 「推される部署」になるための3STEP
  • <目的・アップデート・越境>の3つの思考でメタ認知
  • 半径5メートルから仲間を増やす
  • 「推される部署」が多いほど強い企業になれる

この部署と一緒に未来を描きたいと思わせる

──沢渡さんは著書『「推される部署」になろう』で、組織の中で「推される」ことの大切さを指南しています。まずは「推される部署」の定義から教えていただけますか。
沢渡 「推される部署」とは、わかりやすく言うと、周りから「この部署は頼りになる」「この部署と積極的にかかわりたい」「やっていることが面白そう」「困ったことがあったときに相談にのってくれそう」と思われる部署です。
「その部署が好き」というのはもちろんですが、それだけでなく「この部署とつながることで新しい景色を一緒につくっていきたい」と、その一歩先を思わせる。そんな魅力が「推される部署」にはあります。
それが「推し活」のマインドに共通する「(この部署を)ほかの人にも紹介したい」「何か新しいことをするときは巻き込みたい」という感情を生み出していきます。
「推される部署」というと、営業やマーケティングなど派手で目立つ部署をイメージしがちですが、あらゆる部署が「推される部署」となり得ます。その要素を決定づけるのが、どれだけ社内外に接点を持っているか、です。
社内向けの部署でも「推される部署」になることは可能です。経理部門を例に考えてみましょう。経理は社内の人間はもちろん、営業部門などを通して間接的に取引先とも接点があります。
煩雑な手続きで営業担当者や取引先を困らせるのではなく、業務プロセスをデジタル化またはスリム化するなど、スピード感を持って対応することでよい体験を生み出せれば、「この会社の経理、頼りになる!」「この会社の経理を推したい!」という気持ちが社内外に広がっていきます。
あらゆる部署が、「推される部署」になれるともいえます。
──沢渡さんは「推される部署」の対極として「カオナシ部署」を定義していますが、「カオナシ部署」とはどんな部署を指すのでしょう。
沢渡 「推される部署」は、自分たちの仕事や価値を明確に言語化できるし、周りからもそれがよくわかる特徴があります。
一方で、「カオナシ部署」は、文字通り何をやっているのかよくわからない。そもそも部署名が複雑すぎて、本人たちも存在意義や役割を説明できないケースもあります。
例えば、社内的に立場が低く「社内下請け」になりがちだったり、「怖い」「近寄りがたい」と敬遠されている部署、何をすればいいのかわからない新規部署などが、「カオナシ部署」といえるでしょう。
そういう部署では、中にいる人間自身も、大事にすべき価値観や、これから何を生み出したいのかがわかっていません。周りからも「どう絡んでいいのかわからない」し、「あまりかかわりたくない」と思われがちです。

「推される部署」になるための3STEP

──社内外から「この部署とかかわりたい」「ほかの人に知ってもらいたい」というムードが盛り上がるというのは、まさに「推し活」のメンタルと同じですね。では、「推される部署」になるには、具体的にどうすればいいのでしょうか。
沢渡 今までの仕事のやり方に縛られず、「相手との関係性をよりよくするためにどんな仕事のやり方をすればいいのか」という未来志向であることが重要です。そのためのステップは3つあります。
経理を例に挙げるとすると、最初のステップは確実に経理の業務を遂行して、信頼を得ることです。
その次の2つ目のステップは、スピードや効率化です。例えば、クラウドサービスを導入して自社はもちろん取引先の時間や労力を効率化する、といった具合ですね。
3つ目は、業務の効率化で生じた余白時間を活用して、新しい価値を生み出すこと
経理であれば、その専門知識を社内に共有することで他部門を育成したり、戦略的な予算策定を経営に提言したりするなどもいいでしょう。あるいは経理業務を効率化したなどの改革のストーリーを社外に発信するのもよいかもしれません。
その取り組み自体が会社そのもののファンを創り、ブランドバリューを高めることにつながります。
このようなステップを踏むことで、社内外からその企業の経理への「推し」マインドが醸成されていきます。
経理のメンバーの自己肯定感もアップすることになるでしょう。結果的に個人も、部署も大きく成長し、それが社内外のあらゆるステークホルダーを幸せにしていくことにつながっていきます。
実例として、あるオフィス用品販売会社の事例をご紹介しましょう。
その会社では、あるとき総務が手を挙げて自社製品を使ったオフィスのリニューアルを提案。
自社のオフィスをそのままショールーム化することで、営業がお客さんに自社製品および自社製品がもたらす空間やワークスタイルの価値を説明しやすくなり、売り上げアップにつなげることができました。
それまで裏方的な存在だった総務が、一気に社内で注目を浴びて、存在感を発揮するようになったのです。

<目的・アップデート・越境>の3つの思考でメタ認知

──いきなり「推される部署」になるというよりは、まずは業務への誠実な仕事ぶりが土台にあるということですね。そのうえでどれだけ未来志向を持てるかということだと思いますが、そのような「推される部署」に変わっていくためのマインドセットとしては何が必要となりますか。
沢渡 大前提として、自分たちの立ち位置を客観的に捉える「メタ思考」を持つことが必要でしょう。
メタ認知は個人のキャリアを伸ばすためにも、組織をアップデートするにも不可欠なプロセスです。自分たちをメタ認知できるようにするために、次の3つの思考を意識してほしいと思います。
1つ目は「目的思考」です。自分たちのあり方を振り返り、業務の目的を改めて捉え直してみてください。これまでの慣習で、目的があやふやなまま踏襲している業務があるはずです。
例えば、手書きの経費申請を本当に紙でやる必要があるのかどうか。二重チェックや三重チェック、今やそこまでやる必要があるのか。「そういうものだ」「今までそうしてきたから」と思考停止せず、そもそもの目的をもう一度考えてみてください。
2つ目が「アップデート思考」。今の時代に合わせた新しい手法やツールを取り入れて、アップデートする必要性を常に意識してほしいですね。
3️つ目は「越境思考」です。仕事は、それをすること自体が目的化しがちですが、中にいるとそれに気づきにくいものです。
そこでメンバーを入れ替えたり、他の部署や外の企業と交流したりして、自分たちのやり方をメタ認知する。そうするとプラスの面も改善すべき部分も、明確に見えてくるようになります。

半径5メートルから仲間を増やす

──「推される部署」になるためのマインドを拡散することも必要になってくると思いますが、その際に大切なポイントはありますか。
沢渡 ポイントは2つあります。ひとつは1️人より2️人、2人より3人で同じ景色を見るようにすること。半径5メートル以内で、同じ考え方や興味を持ってくれそうな人を見つけて、小さく始めることです。
他社との勉強会にチームの仲間と一緒に参加する程度のことからでもいいんです。
もうひとつは、相手の興味・関心のキーワードに結びつけることで仲間を増やす方法です。例えば自分はDXを進めたいと思っていても、DXに関心の薄い上司にいきなりプレゼンしてもなかなか話が通らないでしょう。そういう一方的な押し付けは逆効果です。
そこで少しやり方を変えて、その上司の関心事と掛け合わせてアプローチしてみる。例えば上司の関心事が人の採用だとしたら、採用DXという視点で提案することが、上司の興味を引くことになり、話が進めやすくなります。
相手が興味を持っているキーワードを見つけるためにも、相手をしっかり観察する目も必要です。
「観察といっても、何をすればいいかわからない」という人もいるのですが、最近、会議や社内チャットでよく使われている言葉や、上司が読んでいる本のタイトルなどをチェックするだけでも、相手の関心事、すなわち相手のキーワードが見えてくると思います。

「推される部署」が多いほど強い企業になれる

──ファンが「推し」を応援するような気持ちで、社内の他部署、そして社外の人たちがある部署を応援し、積極的にかかわろうとする。そんな「推される部署」が社内に存在することは、会社全体のパワーをアップしてくれそうですね。
沢渡 縁の下の力持ち的な目立たない部署でも、経営の右腕となるような評価を得て社内で一目おかれる「推される部署」になることができます。会社にとっては、どの部署も大切な存在です。だからこそ、お互い相手の仕事を正しくリスペクトしたいですね。
「推される部署」が多いほど、その存在感が増すほど、その部署と接点を持つ人も増えていきます。それは組織全体の課題解決能力の向上となり、個人の仕事へのやりがいや会社へのエンゲージメント向上にもつながっていくでしょう。
つまり、「推される部署」があればあるほど、組織は強くなれるということです。
「推される部署」になるためにも、いま一度、自分たちの仕事の価値や意義を説明できるかどうかを考えてみてください。そして一歩先の未来をつくっていける部署になることを目指してもらいたいと思います。