グーグルとアップル、モバイル決済でガチンコ勝負
2015/06/02, The New York Times
「なくても困らない」技術だが
携帯電話やタブレット向けソフトウェアの覇権をめぐる戦いは、アップルとグーグルという2つの会社を中心に展開している。そして両社は、モバイル決済サービスでも接戦を繰り広げている。
3人の関係者(計画の詳細は社外秘なので匿名を希望)への取材によれば、グーグルは5月28日の開発者向けカンファレンスで、モバイル決済サービスの刷新プランを発表する。
その1つが「アンドロイド・ペイ」と呼ばれる決済サービスだ。アンドロイド・ペイでは小売業者がアプリ内でクレジットカード決済を行えるほか、利用額に応じてポイントなどの特典を付与する各ショップのロイヤルティープログラムとの統合も可能だ。
従来からあるモバイル決済アプリのグーグル・ウォレットは、ユーザー間でデビットカードの口座から直接、送金を行うためのP2P決済アプリへと刷新される予定だという。
アップルも6月の開発者向けカンファレンスで、モバイル決済サービス「アップル・ペイ」の機能拡大について発表する予定だ。関係者2人の話では、その中にはロイヤルティープログラムも含まれているという。
モバイル決済サービス分野においてはいくつもの企業がしのぎを削っている。スマートフォンで買い物をするのに抵抗感のないユーザーが増える中、各社ともこの分野に参入してトップを狙っているのだ。
ネットオークション大手イーベイ傘下の決済サービス「ペイパル」は、モバイル向けアプリの売り込み攻勢をかけているし、スクエアやストライプといった新興企業は、自社の決済処理ソフトウェアの中小企業での利用を増やしている。
アップルとグーグルはどちらもモバイル決済では先発組とは言えないが、この分野での成否は両社にとって非常に大きな意味を持つ。
アップルにとって、モバイル決済は主要製品であるiPhoneとユーザーの間の直接的な結びつきを強めるものだ。グーグルにとっては、自社が提供するサービス群にユーザーを誘い込むエサであり、消費者の動向に関する理解を深める手段でもある。
2019年までに3倍の急成長?
「両社ともに、小売業界にとってのアマゾン同様、決済サービス業界を大きく動かす存在になりたいと思っている」と、フォレスター・リサーチの小売り・決済アナリストのスチャリタ・ムルプルは言う。「早く参入すればカスタマー・エクスペリエンスや期待の方向性を決めることができる」
グーグルとアップルの広報はどちらもコメントを拒否した。
アップルとグーグル(およびライバル各社)にとって大変なのは、モバイル決済サービスはなければ困るような技術ではないという点だ。現金やクレジットカードは簡単に使えるし、世界中で普及している。つまりモバイル決済サービスは、それらに取って代わるというよりは足りない部分を補うような存在なのだ。
にもかかわらず、モバイル決済サービスは急成長している。フォレスター・リサーチは、米国だけで19年までに14年(510億ドル)のほぼ3倍にあたる1420億ドルに成長すると予測している。
アップルが昨年10月に「アップル・ペイ」を導入したことで、モバイル決済への注目度は大いに高まった。アメリカの銀行数十行と手を組んだことで、アップル・ペイは大手クレジットカードの大半に対応。薬局チェーンのウォルグリーンや自然食品スーパーのホール・フーズなどの小売店では、アップル・ペイのスタート以来、モバイル決済サービスを使った支払いが急増したという。
だがアナリストは、ポイント付与などで加盟店の常連になるよう促す仕組みがアップル・ペイにない点を問題視する。
関係者によれば、アップルは6月に、ユーザーがアップル・ペイを利用して買い物をした場合に特典を与えるプログラムを発表するという。ただし詳細は不明だ。
ジャックドー・リサーチの技術アナリスト、ジャン・ドーソンに言わせれば、アップル・ペイは広く利用されているとは言いがたい。アップルの最新型の端末でしか使えないし、支払い可能なショップも限られている。
「アップル・ペイは確かに起爆剤となったが、まだスタートしたばかりだ」とドーソンは言う。つまりグーグルなど他社が一定のシェアを手にする余地はあるということだ。
対象端末は多いがコントロールに難あり
グーグルのアンドロイド・ペイは、ショッピングアプリ内でのクレジットカード決済に使えるほか、実店舗での支払いにも使えるという。アンドロイド・ペイを使って買い物をしたユーザーには、それぞれの小売店のポイントが自動的に付与される。また、グーグルの携帯端末用OSのアンドロイドだけでなく、アップルのiOS上でも使えるようになるという。
グーグルのモバイル決済サービスはこれまで、なかなかユーザーの支持を集められなかった。11年にグーグルは、アンドロイド搭載のスマートフォンでショッピングする際の支払い手段としてグーグル・ウォレットを導入。だがグーグル・ウォレットはさまざまな問題に見舞われた。銀行や大手クレジットカード会社と手を組むことができず、携帯電話会社も普及に協力しようとはしなかった。
今回のアンドロイド・ペイの立ち上げでは、グーグルはクレジットカード会社や銀行、決済処理会社などと緊密に協力したと関係者は言う。小売業者も、それぞれのロイヤルティープログラムと組み合わせて利用できるアンドロイド・ペイに積極的に対応している。顧客の購買行動を理解するうえで役立つからだ。
グーグルはアンドロイド・ペイをさまざまなメーカーの端末に提供できるが、アップル・ペイを使えるのはアップル製の端末の持ち主に限られる。その一方でグーグルは、アップルほどきっちりと決済システムをコントロールすることはできない。ドーソンに言わせれば、それがアンドロイド・ペイの弱点だ。
もうひとつ、グーグルの頭痛の種になりそうなのが世界最大の携帯電話メーカーにして、アンドロイド端末の最大の売り手でもあるサムスンだ。サムスンは今年、モバイル決済のループペイを買収。これにより、サムスンのスマホユーザーは今後、アンドロイド・ペイかループペイのどちらかを選ぶことを余儀なくされるかもしれない。
それでもグーグルとアップルには他の企業にはないものがある。それはハードウェアとソフトウェア、それに勝利へのあくなき欲求だ。
「グーグルとアップルは資金も潤沢だし、投資への意欲もある」と、フォレスター・リサーチのムルプルは言う。「激動の時代が長期間にわたって続くかもしれない」
(文中敬称略)
(執筆:Mike Isaac記者、Brian X. Chen記者、撮影:Jim Wilson/The New York Times、翻訳:村井裕美)
(c) 2015 New York Times News Service
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コメント
注目のコメント
両社は日本でいうとDCMXみたいなサービス。クレジットカードを登録して、アプリ起動無しでNFCかざしてピッとやる。
日本ではオートチャージのSuicaなど含めもはやおなじみの決済手段ですが、やはり彼らがやることの存在感は大きい。
ユーザー目線での彼らの優位性はポイント加算の仕組み位か。
・日本勢はポイントカードは各社ばらばらにNFC対応している
・Android payは払えばそのままポイント加算
・Appleは現状Passbookの上でポイントカードやチケットを管理可能(別途かざす必要あり)→今後Android同様の仕組みへ?
Passbookまでは、たとえば既にローソンが対応したりしてます。(相変わらずこういうの早い)
http://camp.lawson.jp/passbook_pass/index.html
うーん。彼らが日本市場を席巻するのも時間の問題かもしれません。現時点での差分は、
①ロイヤリティプログラムをApple payが持たない
(6月に導入を発表予定とのこと)
②端末範囲の広さでAndroid payが優っていること
(範囲といっても、iPhoneのシェアを考えると、そこまで大きな優位性とはいえないか?)
課題は、いずれも店舗に端末導入コストが発生する点
(ランニングの決済手数料については、Apple payは加盟店から手数料を徴収しないモデル(イシュアーから徴収)なので、他の決済手段と比較して高いということはない。Androidのビジネスモデルは不明)
この2社に割って入る可能性があるのは以下2社が有力。
Paypal : NFC対応したPaypal HEREの加盟店開拓と、Paydiant買収によるユーザーサイドのNFC導入を進める
サムスン(Loop pay) : 既存の磁気カードリーダ(米国の90%の小売店が導入)を利用可能
•••••••
どこが電子決済の覇権を握るか?熱い戦いが続きそう。(しばらく仕事ありそう。よかった)無くてもいいもの、という文は少しチープ。
現代社会にはなきゃいけないもの、なんてそうそうないさ。あったらより便利、よりスマートだから使う。
グーグルの購入ボタン設置からこの流れは予想できる。
サムスンのペイント方法も気になるけれど、ブラウザとかでも先行してるGoogleは強そう。
Googleとappleの名前ばかりだね。
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