進撃の中国IT

あのスノーデン暴露事件がきっかけ、中国が外資機器を敬遠

HP、サーバー・ストレージ業務売却でさらなる中国浸透狙う

2015/5/26
長らくささやかれてきた米HP(ヒューレット・パッカード)のH3Cテクノロジーズ(杭州華三通信技術)売却がついに決着した。5月21日、中国・清華大学傘下の清華ホールディングス(清華控股)とHPが正式合意に達したことを発表。清華ホールディングスの孫会社、清華紫光股份有限公司(Unisplendour Corporation Limited, UNIS)が、H3Cテクノロジーズ株式の51%を25億ドルで購入し、H3Cテクノロジーズを手中に収める。

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売却はサーバー、ストレージ、技術サービス

HPは、合意に基づき、サーバー、ストレージ、技術サービスなど中国HPの既存事業をH3Cテクノロジーズに委託したうえで、見積もり総額およそ45億ドル(現金、負債を含まず)で清華紫光股份有限公司(以下、「清華紫光グループ」)に売却する見通しだ。

一方、中国での法人向けサービス、ソフトウェア、Helionクラウドサービス、アルバネットワークス製品、そしてプリンターやパーソナルシステム業務については、中国HPが継続する。

H3Cテクノロジーズの買収には、数多くの企業が名乗りを上げており、中でもSASAC(国務院国有資産監督管理委員会)を後ろ盾とする投資会社、中国華信が有力視されていた。しかし、HPが選んだのは清華紫光グループだった。ある業界関係者は、こう分析する。

「システムインテグレータである清華紫光グループと新H3Cテクノロジーズは川上、川下の関係にあり、良い補完関係が築けるだろう。だが、中国華信は中国アルカテル・ルーセント(上海貝爾)の株主であり、事業的に新H3Cテクノロジーズとぶつかる。HPの願いは、パートナーの力を借りて中国に根付くことであって、パートナーの食い物にされることではない」

背景は中国政府の姿勢変更、外資の参入が困難に

この業界関係者によれば、HPが売却を急いだ理由は、2013年にエドワード・スノーデンが暴露した、アメリカ国家安全保障局(NSA)の監視プログラム「PRISM」にあるという。

PRISM暴露事件以降、情報セキュリティをいっそう重視するようになった中国政府は、政府機関や主要産業のIT、ネットワーク関連機器を購買する際、中国本土の企業を選ぶようになっている。

こういったムードが中国HPのサーバー事業に与えた影響は甚大だった。中国発のH3Cテクノロジーズといえども外資系である以上その立場は微妙で、事業拡大にも支障が出る。PRISM事件による障害を乗り越え、中国に根付くことを望むHPには、適切な中国企業との提携が必要となっている。

今回の買収は、清華紫光グループ株主総会での決議、関連政府機関の認可を経て、年内に完了する見込みだ。これにより、「新H3Cテクノロジーズ」は、HPのサーバー、ストレージ、ネットワーク製品、ハードウェアサポートを、中国で独占的に取扱うことになる。

HPのメグ・ホイットマン最高経営責任者(CEO)は言う。「清華とのパートナーシップ構築により、『新H3C』は、中国のためのイノベーション、中国でのイノベーションにさらに力を発揮するだろう。また、HP、H3Cテクノロジーズの全事業の成長は、大幅に加速するだろう」

また、清華紫光グループの趙偉国会長は今回の買収後に清華紫光グループは『新H3C』の支配株主になるが、これは、『新H3C』が中国ICT産業の正規メンバーになることを意味すると語った。

そして、「中国が自身の手で制御可能な情報産業の成長戦略を実行し、国内ネットワークの情報セキュリティを確保するうえで非常に意義深いことであり、『新H3C』は、より多くのビジネスチャンスに恵まれるだろう」としている。

HP側にも変革の需要、切ることができない中国市場の存在

業界筋は、法人向け市場での努力を重ねてきたH3Cテクノロジーズは、IPネットワークとデータセンター事業で、かなりのアドバンテージがあるとみている。

中国HPのサーバー、ストレージ製品受託業務も、法人向け市場の構造を変革する大きな力になり得る。今後インターネットと企業成長との関係が緊密になればなるほど、法人向け市場の成長余地も広がることから、25億ドルで株式の51%を手に入れる清華紫光グループにしてみれば割に合う取引だと、業界は分析する。

HP事業受託後の新H3Cテクノロジーズは、目覚ましい業績を上げてきた。2014年度の売上高は31億ドル(調整後)、営業利益は4億ドル(調整後GAAP利益は3億ドル)。従業員8000人のうち2500人以上がエンジニアで、5700余りの特許を取得済みだ。

一方、HPがH3Cテクノロジーズ売却に至ったのは、自己変革を必要としているという背景がある。市場環境の変化を受け、HPは2014年10月に既存事業の分社化を計画。PC、プリンターなどの個人向け事業とサーバー、基幹システム、ソフトウェアサービスなどの法人向け事業を別々の会社に担当させることにした。

HPでは、企業向け事業を将来的な成長エンジンとして有望視していたが、軌道に乗せることはできず、法人サポート部門の2015年第1四半期売上は49億9300万ドルと、昨年同期の55億9500万ドルを11%下回った。ことここに至り、HPは、中国での法人向け市場をやすやすと切ることができなくなっていた。

ファーウェイとスリーコムをバックグラウンドにもつH3Cの今後

公開情報によると、清華紫光グループは清華大学傘下の資産管理会社、清華ホールディングスの孫会社で、1999年11月に深圳証券取引所に上場。ソフトウェアベンダー、システムインテグレータが主要事業としている。1999年にHPの長期的戦略チャネルパートナーになった。

一方、H3Cテクノロジーズは、ファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)とスリーコム(3Com)が米シスコシステムズに対抗すべく、2003年に合弁で起ち上げた法人向け事業会社だった。

2006年、スリーコムは、ファーウェイ・テクノロジーズが保有するH3Cテクノロジーズの株式49%を18億8000万人民元で取得。H3Cテクノロジーズはスリーコムの完全子会社になる。そして2009年、HPが27億ドルでスリーコムを買収したのに伴い、H3CテクノロジーズはHPの100%子会社になった。

だが、オーナーが幾度かわろうとも、H3Cテクノロジーズは独立系企業であることを貫き、法人向け市場における地位を守り続けてきた。

今年4月、ファーウェイ・テクノロジーズ主催の「アナリストサミット」で、参入可能な市場空間は2018年までに1500億ドルに達するとの予測が行われた。また、2025年までに、グローバルで1000億を超すつながりができ、うち90%が業界間のものだという。

「法人向け市場は確実に巨大なパイになる。ファーウェイ、STAR-NET(星網鋭捷)などの中国企業やデル、IBMなどの外国企業が、こぞってビジネスチャンスを狙いに来ている」と、上述の業界関係者は言う。そして続ける。

「清華紫光グループの力を借りて中国に根付くというHPの願いは、その一歩を踏み出したにすぎない。行く手には数々のライバルが待ち構えているはずだ」

(執筆:覃敏/財新網、翻訳:湯沢尚美、写真:@iStock.com/Jason Doly)

※本連載は毎週火曜日に掲載予定です。

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