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日本のスポーツ団体のガバナンスを問う

バスケ問題が映す、日本のスポーツ団体の老朽化

2015/5/21
東京五輪に向けて、日本スポーツ界が抱える課題のひとつがガバナンスの欠如だ。しがらみと利権に縛られ、国際基準を満たさない団体が多く、問題が表面化しつつある。日本のスポーツ団体はどう変わるべきなのか? (文・スポーツライター 増島みどり)
東京五輪に向けて、日本スポーツ界のガバナンス力が問われている(写真:鳥飼祥恵)

東京五輪に向けて、日本スポーツ界のガバナンス力が問われている(写真:鳥飼祥恵)

老朽化の激しい「体育館」

渋谷から喧騒(けんそう)を抜け、JR山手線の線路に沿って原宿方面に「ファイヤー通り」を10分ほど歩くと、日本アマチュアスポーツ界の総本山「岸記念体育会館」、通称キシタイが現れる。1964年に竣工したこの建物を、初めて訪れる人はきっと驚くに違いない。

オリンピックへの選手派遣など、五輪に関するすべてを統括する「日本オリンピック委員会」(JOC、竹田恒和会長)は3階にオフィスを置き、トヨタ自動車名誉会長・張富士夫氏が会長を務める日本体育協会(日体協)は1964年からずっと2階にある。

そして、冬季五輪の花形フィギュアスケートを抱える日本スケート連盟も、ソチ五輪では日本中を沸かせたジャンプを含むすべてのスキー競技を束ねる全日本スキー連盟も、躍進が続く日本水泳連盟や日本バドミントン協会もこの建物の半世紀にわたる「店子」である。日本サッカー協会が、Jリーグ開幕後の1994年まで3階の小部屋にいた昔話など、もはやサッカー関係者さえ知らないのかもしれない。

〇〇ビルや、〇〇センター、あるいは会議や記者会見が毎日開かれる日本スポーツの最前線基地、といったイメージで浮かぶ建物とはかけ離れた古く、老朽化の激しい「体育館」だ。「どこに体育館があって、どこに目指す連盟があるのか」と、不思議そうな顔で、ロビーの案内板を凝視する人々をよく見かける。

日体協の第二代会長、岸清一の遺言と寄付により当初は神田駿河台に建設され、1964年の東京五輪を機に移転。体育館は実際に地下2階にあり、大人気の子ども体操教室は今も行われている。

時代に乗り遅れた組織形態

しかしいくつかの団体は、収入の変化と同時に、「耐震対策に不安があり、地震があった場合職員の安全を確保できない」との嘘のような、しかし本当の理由で独自のオフィスを構えて退館。日体協100周年となった2011年から移転が検討され、2020年東京五輪開催が決定して以降、現在は新国立競技場近辺への移転を青写真とする。

階段を使ったほうが早いと言われるのんびりしたエレベーターに、日差しは一切入らない暗い廊下や、とんでもない「お宝」が埋まっているのでは? とまで揶揄(やゆ)される地階の不気味な静けさやカビの匂い。

建物の老朽化を改めて見直すと、あちこちがまるで50年を超え健康を害した人間の身体のようだ。

半世紀が経過するうち、気が付けば時代に乗り遅れてしまった独自の組織形態や運営、世間や外部への活動の不透明さ、手の施しようがなくなった問題の先送りと、老朽化したアマチュアスポーツの総本山そのものが、アマスポーツ界の率直な問題点を浮き彫りにしているかのように重なる。

日本バスケ界に突きつけられた停止処分

昨秋、FIBA(国際バスケットボール連盟)から無期限の国際試合出場停止という、選手たちを犠牲にする異例の重い処分を受けた日本バスケットボール協会は、耐震設計の不安を一因に、すでに岸記念体育会館を退館し東京・品川区に移転している。

しかし問題は建物ではなく、内部にあった。

加盟国に対し、一時介入を行わなくてはならない非常事態に、FIBA財務部長で、ドイツバスケットボール協会会長のインゴ・ヴァイス氏は、川淵三郎チェアマンを中心とする10人から成る「タスクフォース」=TF(特別作業部会)を結成し問題解決に力を注いだ。

タスクフォースとして日本バスケ界の改革に奮闘したインゴ・ヴァイス氏(左)と川淵三郎チェアマン(右)。(C) JAPAN 2024 TASKFORCE

タスクフォースとして日本バスケ界の改革に奮闘したインゴ・ヴァイス氏(左)と川淵三郎チェアマン(右)。(C) JAPAN 2024 TASKFORCE

リオデジャネイロ五輪に向け、選手を予選に出場させるため限られたわずかな時間、半世紀も真っ暗な地階で埋もれていた問題点と、それを何とかしようにも、糸口さえ見つからないしがらみ、内部に渦巻く互いへの非難や不満、そして、日本人とのミッション遂行と、困難が立ちはだかっていると思われた。

しかし5回のTFを終えた5月、激しく対立していた男子の2つのリーグは1リーグに統一され、3部から成る新リーグの発足にめどが立ち、協会内のガバナンス(統治のための体制や方法)確立を徹底するための新役員も決まった。63万人とされる協会登録者、バスケ愛好家もそのスピードとイメージの回復ぶりに「一体、今までは何だったのか」と驚いているはずだ。

改革はいまだ終わってはいないが、6月中旬には、日本協会への制裁処分がFIBAの理事会(スイス)で解かれる見通しとなった。

ヴァイス氏に、日本バスケットボール界の問題と可能性、そして、さまざまな点で老朽化に直面する日本のスポーツ界が、時代に合わせどう組織を立て直し、ビジョンを持てばいいのかを独占インタビューで聞いた。ビジネスシーンで生きる助言でもある。
 図3箇条

※明日、5月22日にインゴ・ヴァイス氏のインタビュー前編を掲載する予定です。