[東京 20日 ロイター] - 安倍晋三政権が7月末に公表予定の中長期経済財政試算では、国債の加重平均金利を将来にわたり名目成長率以下に抑制する方針を織り込む。

また、日銀が量的・質的金融緩和政策(QQE)の出口政策を検討している可能性がある16年度以降は、物価・金利の上昇傾向がある程度強まることを織り込むものの、国債金利の一定の制御に日銀の協力も必要とのスタンスで臨む。複数の政府筋が明らかにした。

こうした方針は、基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の2020年度黒字化と同時に、債務残高の対国内総生産(GDP)比率を安定的に低下させるという2つの目標を達成するため、不可欠の要素であると位置づけられている。

政府が今夏に公表する中長期試算では、基礎的財政収支の20年度黒字化に加えて、財政再建の最終的な目標である債務残高GDP比率の持続的な低下も、並行して掲げる見通し。

政府筋の1人は「すでに2月の試算でこの指標は23年度まで低下傾向となっている。これを目標として取り入れても不自然ではない」と指摘。財政再建が進行中との意味を強調すると同時に、GDPを意識した財政目標との意味合いをにじませる。

しかし、この指標が低下しているのは、日銀による国債の大規模買入により、長期金利が非常に低い水準に維持されているからにほかならない。

日銀自ら16年度前半には2%の物価目標を達成するとしており、政府の試算でもそれ以降は、物価・金利水準ともにそれに沿った上昇を織り込んでいる。

このため、国債加重平均金利も次第に上昇していき、試算を担当する内閣府内部からは、25年度ごろには国債加重平均金利が名目成長率とほぼ同程度に上がることになりそうだとの声も漏れる。

諮問会議の民間議員は、24年度以降の試算も新たに公表したい考え。ただ、これまで通りの試算条件では、債務残高GDP比率の上昇は避けられない見通しだ。

経済学者や財政に詳しい専門家からは「経済が正常化していけば、国債金利が名目成長率を上回るのが普通の姿。基礎的財政収支が黒字化していても巨額の公債残高を抱える日本では、少しでも金利が成長率を上回れば、債務残高GDP比率は悪化していく」(慶応大学・大学院・池尾和人教授)として、高い成長率を前提にした楽観的な財政再建のプランに疑問の声が相次いでいる。

この点について、政府では新たに試算を作成するにあたり「将来的に名目成長率を超えるような長期金利にはならない前提が必要」(複数の政府筋)だとしている。

経済財政諮問会議の関係者によると、すでに会議参加者の間では「国債加重平均金利が上昇しても、名目成長率は超えることはない」とのコンセンサスがあるという。

「名目成長率と金利の関係は、これまで相当議論してきた。財政再建計画を策定するにあたり、債務残高GDP比率の低下は、金利が成長より高くなれば、財政への信認が低下して難しくなってしまう。金利は上昇してもせいぜい成長率程度という結論に至った」という。

また、新試算で債務残高GDP比率の低下を実現させる要因として、1)現在は金利に上乗せされている国債のリスクプレミアムを「骨太方針」で示される財政再建計画を踏まえ抑制できる余地がある、2)日銀の国債買入れ効果で足元の金利が想定より低めに抑えらる──との見方も、政府部内の一部に浮上している。

こうした長期金利の動向は、日銀の2%物価目標に向けた国債の買入動向とも密接に関わる。

政府内には「日銀が物価目標達成後に、現行政策からの出口に向かうな、とまでは言わない」としながらも「日銀としても、長期金利を無視することはできまい」「長期金利を制御することは必要」などとの指摘も出ている。財政再建シナリオを政府が進める上で、日銀が政府と一体となった行動を求められる展開も否定できない。

このほかにも、17年度の消費税率10%への引上げ時期と日銀の「出口政策」が重なることへの配慮を日銀に求める声も一部に浮上している。

ある政府筋は「増税と日銀の出口戦略が重なれば、経済にどういう下押しがあるのかを考えて、経済運営していかないといけない」と指摘。「日銀が急いで追加的にこれ以上(の緩和強化に)動く必要はないと思うが、今の路線を修正する必要あるかどうかは別問題」だとも語る。

だが、こうした意見には「消費税対応として日銀の出口政策を封印するつもりはない」「物価目標達成後も国債を買い続けるような事態となれば、それこそ財政ファイナンスと見なされかねない」などの反対意見もある。

(中川泉 編集:田巻一彦)