DeNA_守安

まずはZMPと手を組みロボットタクシー事業を立ち上げ

DeNA守安功「“失敗したら死ぬ”覚悟で自動車事業に参入します」

2015/5/13
5月12日、ディー・エヌ・エー(DeNA)の2014年度(2015年3月期)通期決算発表の席上で、新たな動きが明らかになった。それが「オートモーティブ事業への挑戦」。ゲームメーカーであるDeNAが自動車産業へ参入する。日本からモータリゼーション2.0を実現しようとするプレーヤーがついに現れた。果たしてその動機は? どのような事業が展開されるのか? 勝算は? NewsPicks編集部は、決算会見終了後の守安功社長を直撃。思いつく限りの「?」をぶつけた。

──自動車領域への参入。具体的に何を手がけますか。

それが昨日(5月12日)発表したZMPとの合弁会社の立ち上げです。「Robocar」など次世代自動車やセンシング技術に強いZMPと組み、ロボットタクシー事業をきっかけに自動車領域へ参入します。

──どういった経緯で合弁会社を立ち上げることにしたのですか。

オートモーティブ事業の統括である中島(宏・執行役員新規事業推進室長)が、3月下旬にZMPの谷口恒社長と会い、その際に谷口さんが数年前から考えていたロボットタクシー事業の構想を聞きました。

そしてその場で、両社の強みを生かして実現しよう、と盛り上がり、すさまじいスピードで進め、彼らと一緒にロボットタクシー事業に本格的に参入することを決めました。

過疎が進む地方では、お年寄りや子ども達の移動手段がとても不便なのでそういった方々のサポートにもなりうる新たな交通手段を実現させられればと思います。

──「Uber」のような配車サービスを完全自動で運営するということでしょうか。

まだ具体的なビジネスモデルを決める段階ではないです。ただアプローチの仕方は決まっている。それは私たちはネット企業であるということ。今回の自動運転分野に限らず、テクノロジーを生かして自動車に関わるすべての領域を見据えています。

今や、インターネットの力はあらゆる産業に染み込んでいます。あらゆる産業にネットの力を掛け合わせることで大きな変革が生まれる。それは自動車業界も同じです。

ただ、自動車産業は、参入障壁が極めて高い。単独でやっていくつもりはまったくありません。どこかと提携することが一番現実的です。

提携の実績を自動車でも生かす

──まずはベンチャー企業と手を組みました。これからどこかの自動車メーカーと手を組むという話はありますか。

メーカーとの話は、まだありません。自動車領域で何の実績もない私たちがいきなりやってきて「提携しましょう」とラブコールを送っても、そう簡単にできるはずがありません。

ですが、DeNAは多くのパートナーと提携関係を築いてきた実績があります。ゲームにおける任天堂と、ヘルスケア事業の「KenCoM(ケンコム)」における住友商事が代表例です。今まで、なぜ提携を結ぶことができたか。

それは私たちがサービスを運営してきた実績や大規模な利用者をスピーディにさばく力、そして利用者の動向を分析力を認めてもらったからです。そして、私たちの方から「こういうことができますよ」と先行事例や成功事例を提示してきたからです。

今回も同じです。現在、メーカーは自動車販売によって大部分のビジネスが成り立っています。だから、インターネットが絡むような革新的な新規事業に大規模な研究開発投資を行わないのは当たり前です。「だったらそのR&D、DeNAが先にやっておきます!」くらいのスタンスです。

リスクを取るのは、われわれベンチャーがやればいい。その後、メーカーから見て、手を組んでもいいと思えるほどの結果が出たら何かかたちをつくっていく。

守安功(もりやす・いさお) 1998年、東京大学大学院(工学系研究科航空宇宙工学)修了後、日本オラクルに入社。1999年、システムエンジニアとしてディー・エヌ・エーに入社。2006年6月、取締役。2011年6月、代表取締役社長に就任。2013年4月に代表取締役社長兼CEOに就く

守安功(もりやす・いさお)
1998年、東京大学大学院(工学系研究科航空宇宙工学)修了後、日本オラクルに入社。1999年、システムエンジニアとしてディー・エヌ・エーに入社。2006年6月、取締役。2011年6月、代表取締役社長に就任。2013年4月に代表取締役社長兼CEOに就く

──そもそも、なぜ自動車産業なのでしょうか。

前提として、自動車業界は産業規模が大きいということがあります。それに特に自動運転とエネルギー、何年後になるかわかりませんが、この2つのトピックで確実に大きな変化が起きることは明らかです。

なぜか。これほどまでにIoT(Internet of Things)が叫ばれているのに自動車産業にはほとんど浸透していないからです。自動車のIoTを、携帯電話の歴史に置き換えて言えば、「ようやくメールが打てるようになった」という程度。

スマホのようなゲームチェンジャーは登場していないし、もっと言えば、iモードも登場していない段階でしょう。だったら、これほど挑戦しがいのある業界はないと思っています。

それに、すでに海外に目を向ければグーグル、アップルなどの海外プレーヤーが莫大な研究開発投資をこの分野に投入し始めている。自動運転が当たり前になった将来、もしかしたら、自動車産業の技術面のグローバルスタンダードは、グーグルになっているかもしれない。

それって腹立たしいし悔しいじゃないですか。自動車産業で負けたら本当に日本の産業が壊れちゃう。大げさかもしれませんがそういう意識もありますね。

──確かに技術では海外勢が先行しています。日本勢の強みとは。

自動車はネット産業とは違います。ゲームやSNSをつくるようにはいきません。法律や道路の整備だけでなく、都市計画や国家のレベルまで俯瞰(ふかん)して考えなければいけない。

グーグルもUberも、単体でイノベーションを起こしてきましたが、ここまでハイレベルな話になると、ひとつの社会システムをつくり上げることになる。そうなると産官学のすり合わせが必要になります。こういう分野は日本のお家芸です。

僕は運転が苦手

──どれくらいの規模で自動運転は普及していくのでしょうか。

大規模なスケールで確実に押し寄せてくると思います。たとえば、馬車に代わって、自動車がここまで当たり前のように広がった現代、一部の人は趣味で馬に乗りますよね。それと同じくらい、自動運転は当たり前になると思います。

つまり、大半の人が無人運転を使って、有人運転はよほど自分でハンドルを握ることに思い入れのある人のためのものになると思っています。

──守安さん自身は、車に興味はありますか。

もともと理工学系、特に航空宇宙の出身ということもあって、エンジンやメカニック系には興味があります。

でも僕、運転自体は苦手なんですよ(笑)。仕事中はまったく眠くならないんだけど、運転中と髪を切ってもらっている最中は眠くなっちゃう。だからこそ、自動運転が必要ですね。

──12日の決算発表と同時に参入を公表された自動車の分野。事業としてはどれくらいの規模になるのでしょうか。また、今後の展望を聞かせてください。

当該事業を進めるオートモーティブ事業部は、すでにDeNAの社員だけで20人強が関わっています。外部関係者を含めば、さらに多くの人材が関わって取り組んでいると言えるでしょう。

ですから、ちょっと首を突っ込んで、うまくいかなかったらやめる、ということはしません。

オートモーティブ事業の統括である中島をはじめ、「失敗したら死ぬ」覚悟はありますよ(笑)。それくらいリスクを取るつもりで市場に参入しました。10年以上かかるかもしれませんが、ゲームと同じ規模に育てようと本気で思っています。
 5K4A1088

(撮影:福田 俊介)