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ソーシャルゲーム業界の栄枯盛衰、勝者はどこか

2015/5/13
企業・業界分析プラットフォームの「SPEEDA」では、その膨大なデータと分析知見を活用して、アナリストが業界レポートを提供している。SPEEDA総研では、マーケットに大きな影響を与えるトレンドやニュースをアナリストがピックアップし、定量・定性的な視点で詳説する。今回は、主要なソーシャルゲーム企業の最新決算含めた業績トレンドを比較・分析する。

売上500億円の壁?

図1_売上高推移

ミクシィとディー・エヌ・エー(DeNA)が5月12日に決算発表し、ソーシャルゲーム主要企業の2015年1~3月の四半期決算が出揃った。変化が激しい業界なので、四半期ベースで推移を見てみる。

売上のランキングは、サイバーエージェント、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、ミクシィ、DeNA、グリーの順。しかし、極めて高い成長率のミクシィを除く4社は、図で示した期間内に売上順位でトップに立った時期が一度はある。目まぐるしく順位が変わっている表れで、栄枯盛衰が激しい業界であることがわかる。なお、ミクシィはこれまで一度もトップにはなっていないものの、2015年1~3月期では「モンスターストライク」のみで売上が400億円を突破。大ヒットしている状況が伺える。

サイバーエージェントは、売上の過半をインターネット広告事業(広告代理店業など)が占める。それを加味して考えると、ソーシャルゲーム企業には「四半期で売上高500億円の壁」があるように見える。

市場は飽和したのか?

図2_売上高推移_積み上げ

「500億円の壁」は存在するのだろうか。存在するとすればなぜ存在するのか。その明確な答えはないが、「市場の飽和」が考えられる。

5社の売上を積み上げて市場規模全体のトレンドを見てみると、2013年3月頃までは成長が著しかったが、それ以降は鈍化している。足元はミクシィやサイバーエージェントの成長で再度成長はしているものの、一方で他社の減少や成長鈍化もあり、過去に比べて成長の減速感は否めない。

矢野経済研究所の「携帯電話の国内市場に関する調査結果2014」によると、国内の携帯電話の2014年度の出荷台数は、前年度比0.8%減の3327万台で、そのうち約90%はスマートフォンが占めている。今後に関しては、3000万台半ばで緩やかな成長が予想されている。

総務省の「平成26年版 情報通信白書」によると、2013年(平成25年)末時点でスマートフォンの普及率は62.6%。加えて、携帯電話の回線数は、2014年12月末時点で1億4500万回線となっている(電気通信事業者協会調べ)。

これらのデータをみると、年齢や性別を問わず大多数が携帯電話を保有し、スマートフォンはゲームの対象となる年齢層中心に十分に普及している可能性が高い。すでにデバイスが普及している中、可処分時間やお財布が拡大している状況ではなく、他社とシェアの奪い合っているように見える。各社は拡大のために海外展開を進めているが、現時点では国内売上が大部分を占め、日本での成功方程式がそのまま通じるわけではない状況も見受けられる。

ミクシィの直近の成長を見ると、市場は飽和はしておらず、課金ユーザー層の拡大などによって再度市場全体が成長する可能性もある。一方、もし現状で飽和しているとすれば、消耗戦を続けるのか、それとも先日DeNAが任天堂と業務・資本提携したように、新たな施策によって新規市場を形成し再び拡大期に入るのか。注目される。

求められる次の手は?

図3_営業利益推移

営業利益のランキングは、ガンホー、ミクシィ、サイバーエージェント、グリー、DeNAの順。前述の「売上500億円の壁」もあり、売上がピークに達した後は、営業利益は縮小傾向にある。

また、売上が増加していくフェーズでは、スタッフの人件費など固定費が軽い状況なので利益を出しやすい。売上がピークを超えると、その過程で人員も増加しているため、過去の同水準の売上時より利益は出にくくなる。
図4_株主資本等合計額推移

主要各社の株主資本等合計金額の推移をみると、ランキングはDeNA、ガンホー、グリー、サイバーエージェント、ミクシィの順。サイバーエージェントとミクシィを除く各社は、いずれも株主資本比率が70%を超えており、過去の利益の蓄積が十分にあることが伺える。

売上はピークをすでに超え縮小傾向にあるDeNAとグリーでも、四半期ベースで依然50億円程度の営業利益を稼いでいるのは注目に値する。両社とも、近年では買収や新規事業開発に注力。海外展開や強いIP(知的財産権)を活用するなど、国内ソーシャルゲーム事業で施策を打つのと併せて、蓄積した利益でビジネスの新たな芽を育てようとしている。そのための時間を2社は手にしたと言えるだろう。

また、他社も、500億の壁を越えられるか、超えられなかった際の利益の動向と次の芽を育てられるかというのは、論点となってくるはずだ。

冒頭にも書いたが、サイバーエージェントはゲームだけでなく広告代理店事業やメディア事業も手がける。多くの事業を行う中で、売上も利益もコンスタントに成長し、現在では営業利益の実額でDeNAやグリーを超えるまでに大きくなったことは、筆者の新しい発見だった。ゲームを中心とした成長だけでなく、複数のネット事業をコングロマリット的に手がけて安定的に成長していくのも、ひとつの姿かもしれない。