進撃の中国IT

アリババが1970年代生まれ3代目CEO人事を発表

ジャック・マー、アリババ社員に向けて「これからは若者の時代」

2015/5/12
中国のeコマース最大手、アリババ(阿里巴巴集団)のジャック・マー(馬雲)会長が、全社員にあてた社内メールで役員人事を通達した。3代目CEO(最高経営責任者)にはダニエル・チャン(張勇)が就任し、現CEOのジョナサン・ルー(陸兆禧)は同グループ副会長に就任する。今後は、1970年代生まれの人材に経営第一線のかじ取りを任せるという。

管理職の45%が1970年代生まれ、スタッフ3000人が1990年代生まれ

それを通達するメールのテーマは実はCEO人事ではなく「これからは若者の時代」という件名にあった。

マー会長はそこでこう書いている。

「数年来の努力の結果、アリババの管理職のうち、45%が1970年代生まれに、52%が1980年代生まれになり、すでに1960年代生まれはわずか3%になっています。そしてありがたいことに、1990年以後に生まれた優秀な若手社員が3000人もいるのです」

Alibaba founder and chairman Jack Ma poses for media while touring the CeBIT trade fair in Hanover

<ジャック・マー会長よりアリババ職員宛メール>

アリババ人の諸君へ、そして若手のアリババ人諸君へ

16年前、西湖のそばのアパートで創業した頃のアリババは、人材募集にも事欠くありさまでした。しかし、「弓馬殷実、猛将如雲」(今にきっと多士済々の大企業にしてみせる)と息巻いていました。

その夢をかなえるために、そして3世紀にわたって栄える「102年企業」[訳注1]のビジョンを達成するために、他社を上回る時間と労力を傾け、人材育成、組織づくり、企業文化の確立に努めてきました。

[訳注1:「102年企業」とは、1999年創業のアリババが100年続けば1世紀、101年続けば2世紀入りし、そして102年続けば1999年から2101年続いたことになり、3世紀にまたがる企業になるという、マーが掲げた理想のこと]

2003年、アリババは各部門で業務引継ぎ制度を導入し、企業文化、価値観、チームワークといった項目を人事評価基準に取り入れました。創立10周年にあたる2009年には、企業文化存続のためにパートナーシップを導入。

2012年からは、管理職の若返りに向けた世代交代の準備に入りました。同時に、グループ戦略の継続性、安定性の均衡を図るために、また迅速な進捗チェックとイノベーションのために、戦略決定委員会(議長は会長が兼任)、執行管理委員会(議長はCEOが兼任)を設置しました。

「勢いは人に勝り、勢いは人を強くする」と言います。これまで、アリババは、インターネットがくれたビジネスチャンスを上手くつかみ、手さぐりながらも揺るぎない信念のもと、IT時代からDT(データテクノロジー)時代に向かう企業マネジメントシステムへのビジョンを固め、理解を深めました。

DT時代においては、あらゆるビジネス上の刷新や変革が、企業文化に基づく刷新や変革と同時に行われなければなりません。幸運なことに、その下準備のためにアリババは16年間頑張ってきたのだと今言えるようになりました。

「指揮権」を1970年代生まれに全面委譲

2年前、「CEOを降りる」とメールで皆さんに伝えた時のことは、今でもはっきり覚えています。これからもアリババはCEOの交代や組織変更を限りなく繰り返していきます。だから、元気に頑張れているうちに経営の引継ぎを経験し、ルールづくりをしておこうと考えたうえでの決断でした。

未来は絶えず変化し、とらえがたいこと、このうえありません。未来を知る最良の方法は、過去にとどまることでも現在にこだわることでもなく、未来を切り開くことです。そして、私は、未来を切り開く役割を果たすのは私ではなく、若い人たちだと信じて疑いません。私にとって若者こそが未来だから、若者への投資は自分の未来への投資なのです。

そして、長きにわたる努力の結果、アリババは経営権を1970年代生まれに引き継ぐことにしました──こう発表できることを、私とルーCEOは、今とても誇らしく感じています。

2015年5月10日付けで、ジョナサン・ルーはCEOを退き、副会長に就任。同時に、経営権を王堅、邵暁鋒、曾鳴、王帥ら、これまで育てあげた1970年代生まれのマネジメントチームに委譲します。

委譲後は、新マネジメントチームが企業発展を目指すグループ戦略決定委員会を構成し、企業戦略、人材育成、企業文化づくりとその継承に専念することになります。つまり、アリババの全指揮権を1970年代生まれの人材が握るということです。

1960年代生まれの管理職はわずか3%に

ジョナサン・ルーの後任となるアリババの3代目CEOは1972年生まれ、入社9年目の「逍遥子」[訳注2]ことダニエル・チャンです。今から考えればお恥ずかしいのですが、私はこれまでよく「私に怖いものはないが、CFO(最高財務責任者)がCEOをやるのだけは怖い」などと言ってきました。が、「逍遥子」はCFO出身です(ものごとに誤算はつきものです。ですが、これはうれしい誤算でした、アハハ)。

[訳注2:「逍遥子」とは人気武侠作家、金庸の小説「天龍八部」に出てくる人物で、逍遥派の開祖で武芸の達人。アリババ経営陣はそれぞれに武侠小説に基づいたニックネームがある。以下、人物紹介のあだ名も同様]

「逍遥子」が卓越した指揮官であることが喜ばしいのはもちろんですが、その背後に控える1970年代生まれの猛者たちが、またなんとも頼もしい連中なのです。B2B担当の呉敏芝、タオバオ(淘宝)の「行癲」こと張建鋒、アリババクラウドコンピューティングの「孫権」こと胡暁明、菜鳥ネットワークの童文紅、モバイルの兪永福、それから百戦錬磨のつわものである「三豊」こと姜鵬、「蘇荃」こと戴珊、「東邪」こと呉泳銘、そして蒋芳と続きます。

アリババでは、数年来の努力の結果、管理職のうち45%が1970年代生まれに、52%が1980年代生まれになり、1960年代生まれはわずか3%になりました。そしてありがたいことに、1990年以後に生まれた優秀な若手社員が3000人もいるのです。

この場を借りて、私は、特にジョナサン・ルーにありがとうと言いたい。大ボラ吹きとまでやゆされるジャック・マーの後任として、急成長を続けるややこしい大所帯を引継いでくれた2代目CEOは、2年の間、巨大なプレッシャーに耐えながら、身を粉にして働いてくれました。おかげさまでこの2年間というもの、アリババは快進撃を続けることができましたし、私は企業戦略、企業文化、人材育成の仕事に専念することができました。

今後、ルーCEOは副会長に就任し、ジョセフ・ツァイ(蔡崇信)副会長とともに私を助け、若手の育成や今後何度も繰り返されるCEO交代の制度づくりに専念することになります。

目指すは「公正で、自由で、オープンで、平等なグローバル取引」

アリババ人には、世代ごとに輝かしい栄誉があり、世代ごとにそれぞれの使命と役割があります。これまでの15年間、アリババ人は、その頑張りと行動によって、eコマースが人々の暮らしに変化を起こし、影響をもたらすことを証明し、独自のビジネスモデルを生み出してきました。しかし、今の業績に満足するばかりではいけませんし、称賛の言葉をうのみにし、成功のうえにあぐらをかいていてはダメなのです。

世間が取り沙汰する四半期ごとの売上予測を気にしながら仕事するなど、もってのほかです。アリババ人なら、これまでの16年間にしてきたように、アリババの理念のために働き、お客様と市場の期待にこたえるために働かなければなりません。

そのため、今後10年間、1970年代生まれの管理職たちは、アリババを率い、政府が提唱する「インターネット+」時代[訳注3]のビジネスチャンスをとらえ、クラウドコンピューティングとビッグデータの時代へと全力で突き進むことになるでしょう。

[訳注3:「インターネット+」は今年3月に李克強首相が、伝統業界とインターネット企業を結びつけ、新たな活力を生み出していくことを目標に打ち出した、経済方針]

私は、アリババが5年以内に、つまり2019年(アリババの創業20周年です)までに、世界で初めて1兆ドルを売り上げるプラットフォームサービス企業になることを確信しています。

もちろん、アリババが目指すのは、世界一モノを売る会社になることではありません。eコマース、金融、物流、データ、国際取引などわれわれが提供するプラットフォームとサービスを通じて、真の意味でオープンで透明、エネルギッシュなビジネス生態系を構築し、無数の企業に使い勝手のいいビジネス環境を提供できる会社になることです。

2019年から2024年にかけての5年間に、アリババのビジネスエコシステムがさらにグローバル化されるだろうと考えています。われわれのクラウドコンピューティングやビッグデータテクノロジーを通じ、世界中の中小企業が、新しいアイデアや創意工夫を武器に、公正で、自由で、オープンで、平等なグローバル取引に真の意味で参加できるようなプラットフォームが出来上がる。そしてそのビジネス生態プラットホームでは、グローバル規模の20億人の消費者と数千万社の企業が「世界をまたに買い、世界をまたに売る」ことができるようになると確信しています。

この先の30年は、真の意味でインターネットテクノロジーが世の中のあれやこれやを変える時代となります。クラウドコンピューティング、ビッグデータ、AI(人工知能)、スマートシティ、バイオテクノロジーなどが、数々の夢をかなえる時代になっていくはずです。そしてそれはアリババの時代であり、若者の時代なのです。

「この世にやりにくい商売はない」、それがスタート

今後、アリババはアップル、ベンツ、サムスンなどの、人々が憧れる象徴的な企業と同じように、世界から期待される企業になっていくでしょう。

アリババ人は世間への批判をしたり、不平をこぼすのはやめましょう。アリババ人なら、世の中に恩返しをし、お客さまの期待に応え、そのニーズをかなえることを考えるべきです。未来を見据えて頑張ることと、今を捨てることはイコールではありません。しかし、未来のために今を変える努力をしないのであれば、やがて来る未来を、われわれの未来と呼ぶことはできないでしょう。

この世には万能な企業、万能な経営者などいません。人材を発掘し、価値を創造し、企業文化と組織の存続メカニズムに基づいた、たゆまぬ進歩とブレークスルーを続けてこそ、市場競争の中で万能の企業、万能の経営者を生むのです。時代がいかに移り変わろうとも、世の中がいかに人を惑わそうとも、アリババ人のあなたは、私たちの最初のスタート地点を──「この世にやりにくい商売はない」ことを、どうか忘れないでください。

アリババよ、Let’s Open The Future!

アリババ会長 ジャック・マー
2015年5月7日

(執筆:劉学文/ifanr.com 翻訳:湯沢尚美 写真:ロイター/アフロ)

※本連載は毎週火曜日に掲載予定です。

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The copyright of this article belongs to ifanr.com. This article is experpted from the original aricle in Chinese.