「からだほわっと」編 第1回
足の指をしっかりと解放していますか?
2015/5/11
西本直は施術を行うとき、ほぼ必ず行う操体がある。仰向けに寝た人の両足の土踏まずにそっと手を置き、繊細にからだを揺らして全身をほぐす「からだほわっと」だ。全身の血流が促進され、さらに骨が本来あるべき位置に収まり、表現しようのない心地良さを得られる。その極意を伝授する。
足の指は負担を強いられている
今回から「からだほわっと」と呼ぶ施術を、紹介していきたいと思います。
元々、操体法においては「足指もみ」と呼ばれていたのですが、その施術によって感じられる効果をよりわかりやすく伝えるために、ここでは「からだほわっと」という名前で表すことにします。
私たち人間は、元はといえば四足歩行の動物でした。
4本の足で歩くときに骨格は地面と水平ですから、背骨も適度にたわみ、「股関節」と肩甲骨を含めた「肩関節」の4つの関節が連動して、ゆったりとした動きが可能でした。
内臓もぶら下がった状態ですから、おなかの筋肉に無理に締め付けられることもなく、柔軟にそれぞれの働きを全うできたのだと思います。
それがいつからか2本足で立ち、歩くようになりました。
4本の足に分散していた体重の負荷を2本で支え、背骨の直立を維持するため、常に筋肉を収縮させ続け、内臓はそれぞれの居場所を奪われ、引力で骨盤内に押し込められることになってしまいました。
2本の手が自由になったことで脳が発達し、文明を進化させてきたことと引き換えに、われわれのからだは大きな負担を強いられることになってしまいました。
その中でも最も大変なのが、からだを支え、地面を踏みしめている足の裏ではないでしょうか。
それでも太古の時代には、靴などあるはずもなく、自分の足の裏で地面を感じながら生活していたと思います。
当然、足の裏の筋肉も発達し、10本の指の1本1本にも繊細な感覚があったはずです。
ところが今の生活はどうでしょう。靴を履き、足は狭い場所の中で自由を失い、それぞれの指も単独で働くこともなく、それもかなり長時間にわたってその状態が続くのです。
当然汗もかきますが、それを蒸散させることもできず、衛生的にも好ましからざる状態のままです。
その結果、外反母趾(ぼし)や爪の変形といった異常をきたし、なにより人間の足としての自然な運動ができなくなりました。
靴を脱いだ瞬間、ほっとした気持ちになるのは人間の本能として当然の感覚だと思います。
足の指を解放しましょう
残念ながら現代の生活の中で、靴を履かずに素足でというわけにはいきません。
それでもランニングは靴を履かずに素足で走ることこそ、人間本来の正しいからだの使い方ができるという考えのもとに、普及活動を行っている方もおられます。また、5本指のシューズが開発されています。
いつも靴の中に押し込められ、本来持っているはずの機能を発揮できずにいる足に、もっと自由を与えてあげましょう。
ご自分の足、そしてその指を、じっくり見てあげてください。
隣の指とくっついて変形してしまっていたり、マメやタコはできていませんか。爪のかたちが変わっているかもしれません。
高価なブランド品を身に着け、ハイヒールを履いて颯爽と歩く女性が、実は人には見せられないような足だったというのはよくあることです。
私が「からだほわっと」を行う際にも、5本指の靴下を持参され、履き替えてからという方も実際にいました。
そういう状況に置かれている足先です。やり方はどうあれ、何かをしてあげると、理屈ではなく本当に喜んでくれます。
問題はそのやり方です。「毒を以て毒を制す」ような、強い刺激を加えるやり方もあるでしょう。
現実、そういうやり方をたくさん見聞きします。
はたして身をよじるような痛みを加えられることを、からだは本当に望んでいるのでしょうか。
痛みを感じるどころか、今までに経験したこともない心地よさを感じながら、それ以上の効果を得られる方法があるとしたら、試してみたくありませんか?
それが「からだほわっと」です。
これは操体法の祖である橋本敬三先生(故人)が、70代のはじめの数年間、施術の中で使われていたものだそうですが、私自身は20代後半に、私の師である渡辺栄三先生(故人)から指導していただいたものを踏襲して行っています。
まずは部位を意識して触ることから
人間の手先は本当に器用で、その感覚も実に繊細なものです。
動かすということはもちろんですが、感覚器としても素晴らしい性能を持っています。
足の指も、もともとは手に負けない機能を有していたわけですから、当然と言えば当然なのですが、スポーツや武道の世界でも「足の裏で地面をつかむように」という表現が使われたりします。
そういう感覚を思い出してもらうためにも、まずは足の甲から裏、そして指の1本1本を丁寧にほぐしてあげてみてください。からだが喜ばないはずはありません。
からだ全体から見れば小さな部分ではありますが、さまざまなアプローチの仕方があります。
手の指に比べれば短いですが、足指の付け根から先まで、内側から外側まで、細かい部位を意識しながら丁寧にほぐすと、いろいろな刺激を楽しむことができます。
いつもからだを支え、靴に押し込められ、地面を踏みしめてくれている足です。気持ち良さを味わい、楽になってもらいたいのです。
顔をしかめるような、痛い思いをさせるなどもってのほかです。
※本連載は毎週月曜日と木曜日に掲載予定です。