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信用金庫から始まった起業家人生

【予告】メガネ界のヒット連発男、JINS田中仁の「破壊的創造」

2015/5/9
各界にパラダイムシフトを起こしてきたイノベーターたちは、どのような人生を送ってきたのか? その深部に迫る連載「イノベーターズ・ライフ」の7人目は、ジェイアイエヌの田中仁社長が登場。メガネにイノベーションを起こし、ヒット商品を連発している。その商才の秘密と事業拡大の軌跡をたどる。全10話を毎日連続で公開。

経営を学ぶため、信用金庫に就職

高校卒業後、地元の信用金庫に就職した。金融機関にいれば経営の現実が一番よくわかるはずだと思ったからである。

しかしそこで学んだのは、「ビジネスをするのは命がけだ」という事実だった。今から30年ほど前のことだが、当時は事業に失敗した人の末路は夜逃げか自殺しかなかった。

商売を始めるのはやめて、このまま勤め続けようかなと思っていた矢先、ある事件が起きる。

資産家のご主人が、預金をお願いする私にこう言った。

「貴様は乞食か」──。

エプロンで「勝ちパターン」をつかむ

1980円のエプロンが大ヒットして、会社は息を吹き返した。

勝負に出るときは、思い切らなければ意味がない。ここぞというときは材料を大量に仕入れ、原価を下げる。今のJINSのメガネにも通じる「勝ちパターン」を、私はこのときつかんだのである──。

エプロンの次にポーチも当てた。二度当たれば、まぐれではなく実力だと思う。だがこんな状態は長くは続かなかった。

スタッフは真面目にやっていたが、私は見て見ぬふりをしている。だが倉庫を見れば売れ行きはすぐわかる。そこにはエプロンとポーチの在庫が山をなしていた──。

社員との対話

私は従業員と「対話」を始めることにした。社員たちは飲み歩いてばかりの社長にあきれて、何も言わなくなっていたからである。

社員たちと膝を突き合わせて会議を開いた。すると現場の情報が次々に出てくる。

「エプロンはもう売れなくなりました。それよりバッグのほうが売れます」

「特に中国製の低価格のバッグが人気です」

自分が思っている以上に、社員一人ひとりはいろいろなことを考えていて、いいアイデアもたくさん持っている。みんな自分にない能力を持っているのだと気づいた──。

次のヒットの芽

いろいろな人が、「お前、ヘタしたら痛い目に遭うぞ」と忠告してくる。

私は作りたいバッグのサンプルを持って、ワンさんと中国の工場を回った。15社ぐらい回って、ついに希望通りの製品を作ることができた。

これを売り出したところ、またヒット。V字回復である。もう今度は毎晩飲み歩くような真似はしない。商売がうまくいく時期はそんなに長続きしないということを経験から学んだからである。

このバッグだっていずれ売れなくなる。今のうちに何か次のヒットの芽を見つけなければいけないのだ──。

韓国の格安メガネを見てひらめく

メガネという商材に出合ったのは、友人と二人で韓国旅行に行ったときのことである。

南大門市場を歩いていたら、「メガネ1本3000円、15分でできます」という日本語のポスターがあった。

私は近視ではなく、そもそもメガネを買ったこともないから気にもとめなかったが、友人はそれを見てすごいすごいと興奮し、その場で2本もメガネを買い込んでいる。

「この値段なら何本も買って、その日の気分で違うメガネをかけることができるよ」

それを聞いたとき、ピンときた。これは商売になるのではないか。ユニクロのようなSPAをメガネでやれば、メガネ業界に革命が起きるかもしれない──。

柳井さんに課題の本質を突かれて

柳井正さんのオフィスを訪れた。初対面の挨拶もそこそこに、私に矢継ぎ早に質問してくる。

「どんなお仕事をされているんですか」

「メガネの事業をやっています」

しどろもどろになる私を見て柳井さんは、「こいつにはビジョンがない」と見抜いたのだろう。特に刺さったのは、次のような言葉である──。

情けない話だが、そのあと私は具合が悪くなってしまった。自分の抱えている課題の本質を突かれたからだ。

ビジョンに合わせてすべてを変えていった結果、私たちは5つの戦略にまとめた──。

採用で見るのは「正直・誠実」かどうか

メガネ事業が拡大していくにつれ、人材の採用も積極的に行っていった。

私は人を採るときに一番重要なのは、Honest(正直・誠実)かどうかだと思っている。他人に迷惑をかけないとか、責任感があるとか、そういうことだ。

どんなに能力があっても、誠実でない人と一緒に仕事をするのはつらい。またそういう人はチームにもなじめず、いずれ離れていく──。

連載「イノベーターズ・ライフ」をお楽しみに。本日、第1話を公開します(有料)。

*目次

【第1話】「貴様は乞食か」信用金庫の営業先で起業を決意
 【第2話】「1980円エプロン」でつかんだ勝ちパターン
 【第3話】ツテがない中国で大勝負。成功は長く続かない
 【第4話】「メガネは商売になる」近視じゃないからピンときた
 【第5話】1号店の“3カ月天下”、それでも店舗拡大したワケ
 【第6話】祝・上場が招いた「オンリーワン」という逃げ
 【第7話】柳井さんの質問攻めで気づいた最も重要なこと
 【第8話】常識破りのサービス「追加料金ゼロ」に勝算あり
 【第9話】5つの戦略ぶつけた原宿店、「Airframe」大ヒット
 【最終話】類似品は去れ。JINSは研究開発型SPAへ進化

(予告編構成:上田真緒、本編聞き手:上田真緒、構成:長山清子、撮影:今 祥雄)

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