日本テニスレボリューション (1)

日本でテニスをもっと盛り上げるためにすること

日本でグランドスラム、マスターズは開催できるのか

2015/5/9
プロテニスプレーヤーの錦織圭は昨年、日本人として史上初の4大大会決勝に進出し、年間最終ランキングを5位とする快挙を成し遂げた。本連載では、錦織圭の留学時代の元トレーナーで、マリア・シャラポワの現トレーナーである中村豊氏にプロテニス界の現状、スポーツ教育、トレーナーの視点を生かした食生活や健康管理などについて聞く。8回目はオーストラリアと日本を例に自国でテニスを盛り上げるためにはどうするべきかを聞いた。
第1回:私と錦織圭をつないだ不思議な縁
第2回:錦織圭は、指導者を超える選手だ
第3回:シャラポワが圧倒的に他の選手と違う理由
第4回:ビジネスにも生かせるプロテニス選手の食生活
第5回:ミスをするにもどうミスをするかが大事だ
第6回:プロ選手の技をまねるときに大事なこと
第7回:テニスのプレースタイルはこの5年10年で変わる

デビスカップとは

──中村さんは、以前オーストラリアのデビスカップチーム(デビスカップは男子テニスの国別対抗団体戦)で仕事をされていたと伺いました。その頃のエピソードを聞かせてください。

中村デビスカップは国別対抗の団体戦、すなわち、国を背負ってのチームプレーが求められます。サッカーの代表と同じように相手国とは自国で対戦することもあるし、アウェーで対戦することもあります。

だからこそ、通常の個人戦のシングルスとは違ったプレッシャーがかかりますし、その分、やりがいがあるとも言えます。このオーストラリアチームのデビスカップに、私は2010〜2011年ごろフィジカルトレーニングのコンサルタントとして関わりました。

この時はラフター(グランドスラムで2回優勝しているオーストラリアテニス界のレジェンド)が監督で、メンバーにはベテランのヒューイット、若手のトミックなどがいました。

もちろん、彼らの勝利に対するモチベーションはすごく高かったです。デビスカップの団体戦(シングルス4試合、ダブルス1試合)は3日間で行いますが、その準備期間は約1週間です。

この時は練習や食事、宿泊まですべての行動をともにします。短期間なのですが、普段は個人個人で行動する選手の結束が一気に高まるので、これはまたテニスの違う魅力だと思います。

──オーストラリアのテニス界というと、以前は今、名前が出たようなラフターやヒューイットのようなグランドスラムの上位に毎回進出する選手がいましたが、ヒューイットもベテランになり以前ほどの存在感がなくなってきた印象をもちます。今のオーストラリアのテニス界をどう見られていますか。

中村これからまた上がってくると思います。若手にはトミックやキリオス、そしてコキナキスという勢いのある選手が出てきました。この3人が柱として、ここ1〜3年ほどでかなりしっかりしてくると見ています。また、オーストラリアという国にはグランドスラムがあるので、テニス協会としても財政的なバックアップが可能です。

そして、そういった選手を見て次の世代が刺激されていく。国全体でテニスが盛り上がれば、5〜7歳くらいの子どもや、その親もテニスに興味をもち始めるので、また良い流れで往年のオーストラリアの強さが復活する可能性は十分あると思います。

中村豊(なかむら・ゆたか)アスリート形成をモットーに、主要3項目(トレーニング、栄養、リカバリー)から成るフィジカルプロジェクトを提唱している。米国フロリダ州をベースに活動し、海外で幅広いネットワークを持つフィジカルトレーナー。米チャップマン大学卒業、(スポーツサイエンス専攻)。2001年、米沢徹の推薦でIMGニック・ボロテリー・テニスアカデミーにて盛田正明テニスファウンド(MMTF)へトレーナーとして参加、錦織圭を担当する。2005年、IMGニック・ボロテリー・テニスアカデミーのトレーニングディレクターに就任。フィジカルトレーニングの総括、300名のフルタイムの生徒、IMG ELITE(IMG契約選手)、マリア・シャラポワ、マリー・ピエルス、トミー・ハース、錦織圭等を担当する。現在はシャラポワのフィジカルトレーナーとして活動。そして今季から女子ゴルファーのジェシカコルダのフィジカルプロジェクトをスタートさせている。アスリートとしてのフィジカル/身体能力向上を主にプログラムを作成し遂行。公式サイト:yutakanakamura.com

中村豊(なかむら・ゆたか)
アスリート形成をモットーに、主要3項目(トレーニング、栄養、リカバリー)から成るフィジカルプロジェクトを提唱している。米国フロリダ州をベースに活動し、海外で幅広いネットワークを持つフィジカルトレーナー。米チャップマン大学卒業、(スポーツサイエンス専攻)。2001年、米沢徹の推薦でIMGニック・ボロテリー・テニスアカデミーにて盛田正明テニスファウンド(MMTF)へトレーナーとして参加、錦織圭を担当する。2005年、IMGニック・ボロテリー・テニスアカデミーのトレーニングディレクターに就任。フィジカルトレーニングの総括、300名のフルタイムの生徒、IMG ELITE(IMG契約選手)、マリア・シャラポワ、マリー・ピエルス、トミー・ハース、錦織圭等を担当する。現在はシャラポワのフィジカルトレーナーとして活動。そして今季から女子ゴルファーのジェシカコルダのフィジカルプロジェクトをスタートさせている。アスリートとしてのフィジカル/身体能力向上を主にプログラムを作成し遂行。
公式サイト:yutakanakamura.com

日本のテニス界はチャンス

──そうなると、やはり自国にグランドスラムのような大きなテニスの大会があるメリットは大きいと思います。日本には楽天ジャパンオープンがありますが、それより格上の大会、グランドスラムやマスターズを日本で開催するというのは難しいのでしょうか。

中村そうですね。すぐには難しいと思います。やはり、今まで各国、各都市で大会を開催してきたという歴史があり、どこもその大会をそのまま継続、進化させたいと思っています。年間52週間の中でテニスというスポーツはかなりタイトにスケジュールが組まれているので、それを動かすのはなかなかハードルが高いです。

ただ、錦織圭を筆頭にアジア勢はテニス界で影響力を増してきていますし、5年後はどうなっているかわかりません。日本やアジアでテニスが今以上に盛り上がれば、私は可能性はあると思っています。

──やっぱりそういった機運の高まりが大事なんですね。グランドスラムを放送しているのはWOWOWですが、NHKがその次の格の大会、マスターズを今年から放送しています。放送は錦織圭中心ですが、そういったことも盛り上がりに影響しそうですよね。

中村それは確かに大きいと思います。やっぱり、錦織圭という自国のスター選手がいれば、その周りの選手や対戦相手、そして彼がどういう大会に参加しているかなど、そういった情報がどんどん知られていきます。そうなると、世間の人が以前よりテニスに興味をもち、そして理解していきますよね。

テニスへの理解が深まれば、「じゃあ、錦織選手みたいにやってみよう」と挑戦する子がもっと出てくると思います。その好循環が競技のさらなる活性化につながるので、テニスへの理解を深めていくことはすごく大切なことだと思います。だから、今は本当に日本のテニス界はチャンスですよ。(文中敬称略)

*引き続き、中村氏への質問をコメント欄でお待ちしております。コメントは連載記事に使用させていただく場合があります。

(聞き手・構成:上田裕、写真提供:中村豊)