David Goldberg, the chief executive of Survey Monkey, at the firm's headquarters in Palo Alto.

ゴールドバーグという男

デイブ・ゴールドバーグは高校生の時、女子生徒に自分の意見を主張するべきだと強く迫った。若くしてドットコム業界で成功し、女性には事欠かなかったが、シェリル・サンドバーグという意欲的な女性に出会って夢中になった。

数年越しの思いを実らせて結婚すると、会社と交渉してもっと高い報酬を勝ち取るべきだと妻の背中を押し、彼女が出張の際は自分が予定を調整して子どもたちと家にいられるようにした。

5月1日に47歳で事故死したゴールドバーグは温和な男性で、シリコンバレーの有力なシリアル起業家として知られていた。最後に最高経営責任者(CEO)を務めたサーベイモンキーでは、中堅のインターネット調査会社を企業評価20億ドルに育て上げた。

一方でゴールドバーグは、彼の年代で最も傑出した男性フェミニストでもあった。有力なCEOとして、妻がビジネスの世界で自分と同じくらい成功できるように後押ししてきた男性は、おそらくシリコンバレー史上初めてだっただろう。女性が社会で成功するための教科書となったサンドバーグの『LEAN IN(リーン・イン)』でも影の主役だった。

キャリア夫婦のロールモデル

彼の死に一般の人々も衝撃を受けた。まだ若かったからであり、ともに仕事でキャリアを積む夫婦の新しい哲学を体現していたからだ。

「(夫妻は)次の世代が目指す生き方のロールモデルそのものだった」と、コロンビア大学バーナード・カレッジのデボラ・L・スパー学長は言う。

2011年に同カレッジの学位授与式でスピーチをしたサンドバーグは、誰と結婚するかはキャリアデザインにとって最も大切なことだろうと、卒業生に語りかけた。

今春ブロードウェイで再演された『ハイジ・クロニクル』に、メディア企業の創業者である男性が、「家に帰ってまで評価を気にしたくない」と言う場面がある。仕事で野心を追いかけているのだから、配偶者と競争するのはまっぴらだ、と。

ゴールドバーグは、この台詞とは正反対の考え方を育んできた。彼が生まれ育ったミネアポリスの進歩的な社会は、「生活のあらゆる面に女性の影響力を感じた」と、幼なじみのジェフリー・ダチスは語っている。

ゴールドバーグの両親は、フェニミズムの古典『新しい女性の創造』(ベティ・フリーダン著)を夫婦で読んでいた。サンドバーグの著書によると、ゴールドバーグの父メルが、妻(ゴールドバーグの母親)のポーラにフリーダンの主張を教えたという。

1976年にポーラは障害をもつ子どもを支援する非営利団体の立ち上げに参加した。夫のメルは夜学の大学で法律を教え、家族の朝食を作った。

ゴールドバーグは高校時代に、プロムデート(訳注:卒業パーティーのダンスのパートナー)となったジル・チェッセンが、政治の授業中に発言しなかったと厳しく非難した。「声をあげるべきだ。君の意見を聞かせるべきだ」と迫られたと、チェッセンは語っている。

カリン・ギルバードは、ゴールドバーグが27歳の時に創業した音楽コンテンツの配信会社ローンチ・メディアで働いていた。彼女が出産すると、ゴールドバーグは以前と同じように重要な仕事を指示したが、一方で週1日の在宅勤務を認めた。2001年にローンチがヤフーに買収された後、彼はバレンタインデーにオフィスの女性全員にバラの花を贈った。

似た者同士

サンドバーグは、自分はいい意味で生意気だと好んで語る。1990年代半ばに知り合った彼女に、ゴールドバーグは夢中になった。「彼女がほかの人と婚約して結婚していた時期も熱をあげていた」と、チェッセンは語っている。

最初の結婚が終わった後、サンドバーグはほかの男性と付き合ったが、ゴールドバーグは2人の引っ越しまで手伝っていたと、友人でローンチの共同創業者のボブ・ロバックは振り返る。2004年にサンドバーグとついに結婚した時、友人たちは2人が似ていると感じた。怖じ気づく男性もいるサンドバーグの性格も、ゴールドバーグにとってはさらなる魅力だった。

それから10年間、ゴールドバーグとサンドバーグはオンラインの情報収集を変えるパイオニアとなり、息子と娘をもうけ、巨額の富を築き、夫婦の役割分担についてとことん話し合って解決してきた。

ゴールドバーグは、自宅があるベイエリアからロサンゼルスまでの通勤が負担になると、働く場所を変えた。「コイントスで負けたから」ベイエリアに住むことになったと笑いながら。

請求書の支払いや力仕事は夫、子どもの誕生パーティーの計画は妻が担当した。2人とも午後5時半にはオフィスを出て、子どもたちと一緒に夕食を食べてから仕事の続きをした。

夫妻の友人で投資会社の役員を務めるメロディ・ホブソンは、大学生向けに加筆編集した『LEAN IN for Graduates』で黒人女性に関する章を執筆した。原稿を読んだゴールドバーグの感想は、彼がサンドバーグの執筆に深く関与していたことをうかがわせる。彼はホブソンに、彼女の文章はサンドバーグと同じようにくどいが、それ以外はとても気に入ったと伝えた。

一緒に考えてくれるパートナー

その頃には、『LEAN IN』を読んで「私もこんな男性を見つけたい」と思った多くの女性にとって、ゴールドバーグは憧れの存在になっていた。サンドバーグの女性たちへの助言は、デイブ・ゴールドバーグと結婚したから可能なことが多すぎると嘆く人もいた。

自分の予定を妻に合わせてくれる謙虚な夫で、幼い娘にどの靴をはかせようかと悩む優しい父親で、家族がバランスの取れた生活を営むための費用を払える経済力がある男性と。

サンドバーグはビジネス界で最も有名な夫婦の1人から、おそらくビジネス界で最も有名なシングルマザーになった。そう考えると、彼女の言葉が喪失感を募らせる。

ある一瞬だけを取り出したら、私たちはけっして「半々」にはなっていないだろう。そもそも完全に対等な分担は、決めるのも維持するのもむずかしい。だから私たちは、二人のあいだで振り子が振れたり戻ったりすることでよしとしている。
 
この先は、バランスをとるのがもっとむずかしくなるのかもしれない……子供たちが大きくなったら、また考えなければならないだろう……どのライフステージにも固有のむずかしさがあるにちがいない……。

彼女は、ティーンエイジャーになった子どもを2人で育てる日々を楽しみにしていた。彼は子どものことを母親に任せるのではなく「一緒に考えてくれる」素晴らしいパートナーだから。

(文中敬称略。斜体部分は『LEAN IN』日本経済新聞出版社より引用)

(執筆:JODI KANTOR、翻訳:矢羽野薫、撮影:Jim Wilson/The New York Times)

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