[大阪 7日 ロイター] - キーエンス<6861.T>の2015年3月期連結決算は、営業利益が前年比34.5%増の1757億円となり、2期連続で過去最高を更新した。世界的な工場自動化(ファクトリーオートメーション=FA)需要で主力のセンサーなどが大きく伸びた。

トムソン・ロイターのスターマイン調査がまとめたアナリスト16人の営業利益予想の平均値は1734億円だった。

同社は業績予想を開示していないが、FA機器は生産の国内回帰や新興国の人件費高騰などにより、当面は堅調な需要が見込まれている。同社は今期、決算期の変更により6月までの変則決算となるが、スターマイン調査による2016年3月期の営業利益予想の平均値は2042億円となっており、3月期対比では3期連続で過去最高を更新する可能性が高い。

会見した山本晃則社長は業績予想について、変則決算の影響を除いた1年で見た場合、「売上高、利益ともに過去最高を目指していきたい」と語った。

<海外比率5割超に>

売上高は前年比26.0%増の3340億円と、3期連続で過去最高を更新した。売上高営業利益率は52.6%と、7年ぶりに50%を超えた。円安も追い風となり、海外売上高は前年比41.9%増、海外売上高比率は50.5%まで上昇した。

地域別では北米・中南米は前年比61%増、アジアは同31%増、欧州その他は同28%増で、いずれも過去最高となった。円安の影響を除いた現地通貨ベースでもすべての地域で過去最高を更新した。

山本社長は海外事業について「人件費の高騰が先進国と新興国で起こっており、人材を確保するのが難しくなっている。各社がそれに対して自動化で解決しようという流れの中で、販売チャンスがある」と先行きに自信を示した。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の小宮知希アナリストは決算について「コンセンサスを超える営業利益だった。海外比率が50%を超えてきているにもかかわらず、営業利益率が50%を超えているというのはかなりポジティブだ」と評価した。「一般的に海外が増えると利益率は悪化する傾向があるが、これは海外でも同社のビジネスモデルが通用しているということを意味する」と指摘した。

<人件費高騰が追い風>

国内外の設備投資拡大によりFA機器の需要は高まっており、キーエンスを取り巻く環境は良好だ。とりわけ中国では人件費の高騰により、低賃金をベースとした従来型の低コスト大量生産モデルは立ち行かなくなりつつあり、FA市場は高い伸びが期待されている。

李克強首相が3月の全国人民代表大会(全人代)で打ち出した「中国製造(メード・イン・チャイナ)2025」では、労働集約型のモノづくりから、高付加価値型モノづくりへの転換を促しており、「キーエンスのハイエンド機の需要は今後さらに高まる」(外資系アナリスト)との見方が目立つ。

山本社長は中国市場について「人件費が近年かなり高騰しており、少人化、省力化、自動化への要求が高まっている。今後この流れは加速するだろう」と語った。

<国内も楽観予想>

気がかりなのは、すでに成熟している国内市場の動向だ。海外比率が上がっているとはいえ、国内比率はまだ5割弱あり、国内が失速すれば業績への打撃は小さくない。足元では、アベノミクスにより古い設備の入れ替え需要が活発だが、デフレ脱却への道筋に暗雲が立ち込める中で、腰折れに対する不安もくすぶっている。

円安による生産拠点の国内回帰は同社にとって追い風ではあるものの、これが一部にとどまるのか、大きな流れになるかも不透明だ。日本電機工業会(JEMA)の中西宏明会長(日立製作所<6501.T>会長)は3月の会見で「そう簡単に戻せない面もある」と述べ、大きな流れにはならないとの見方を示した。

これに対して、山本社長は「為替の問題もあり、少し国内に戻っている感じがある。その流れを具体的に感じるところがあり、その意味では国内も海外同様に期待できる」と楽観的な見方を示した。

三菱UFJの小宮アナリストは「国内では生産回帰、海外では自動化の流れがあり、キーエンスの強みである自分で売り上げを作っていく力を存分に発揮できる環境にある。当面はこの動きが続くのではないか」との見通しを示した。

<安定配当を継続>

豊富な現預金などを抱える同社をめぐっては、株主との対話路線に大きく舵を切ったファナック<6954.T>の連想から、株主還元に対する期待も高まっている。ただ、山本社長は配当政策について「安定した配当を継続していくことが基本方針だ。配当性向がいくらという考え方は持っていない」と従来の説明に終始。株主との対話についても、個別に対応していくというこれまでの姿勢を維持する方針を示した。

同社は2015年6月期末に50円の配当を予定。年換算では前期同様200円の配当となる。

会見からは株主還元や投資家向け広報(IR)体制の強化に向けた新たな動きは見えず、第2のファナックへの期待は肩透かしとなった格好だ。

同社の株価は6万円を超えて、個人投資家は手が出しにくくなっている。山本社長は株式分割について「今後、株主の声を反映させながら、どういったことをすれば一番企業価値を高めることにつながるのか検討していきたい」と語った。

*内容を追加して再送します。

(志田義寧 編集:宮崎大 田中志保)