プロフェッショナルの本からは学びがある
【Vol.6】崔真淑「ビジネス書は『教養』には効くが『専門分野』には不十分」
2015/5/2
自分のビジネスに役立てるため、知識や教養を身につけるため……。人がビジネス書を読む理由はそれぞれだろう。実際のところ、ビジネス書は本当にビジネスの役に立つのか? NewsPicks編集部は読書家として知られる各分野のプロフェッショナルにインタビューを実施。ビジネスへの役立て方、良書、悪書をわけるもの、座右の書などビジネス書について語り尽くしてもらった。
ビジネス書大賞発表。経営者、書店員、ピッカーに支持された作品は?
私は、自分自身が極めたいと思っている専門分野については、いわゆるビジネス書ではなくて、専門書や論文をきちんと読むべきだと思います。何十年、何百年かけて積み上げられてきたアカデミックな理論によって、現場の経験が整理されるからです。
そこに関しては、ビジネス書だけでは不十分です。私自身も以前はビジネス書をよく読んでいましたが、大学院に進学してからは、専門書を読むことのほうが多くなりましたね。
「教養」にはビジネス書が一番効く
ただ、それ以外の分野を「教養」として学ぶ際には、ビジネス書が一番効きやすいのではないかと思っています。学者が一般向けに書いた本も、文章は柔らかいのに本質が書かれていたものが多く、有益ですね。
たとえば、経済学の教養としておすすめの本を挙げると、岩田規久男先生の『経済学を学ぶ』です。経済学が何のためにあるのか、という根本的なところを書いています。岩田先生は「リフレ派」のイメージが強いかもしれませんが、読み手の立場にかかわらず読んでほしい本です。
また、経済指標に関心をもっている一般の方が読むビジネス書としては、『投資家のための金融マーケット予測ハンドブック』が非常に良いですね。日本、アメリカ、中国、欧州各国などの情報が、すべて記載されています。
国際比較はもちろん、マクロ経済や資本市場を分析するうえで、指標の意義や、普段は注目されていない指標、たとえば「耐久財受注」などを確認する際にも便利です。
また、国によっては同じ指標でも意味が異なることがあるので、そこでも重宝します。「経済指標の読み方」に関する本は多数出版されていますけれど、これが一番ですね。
私が日々仕事をするうえで参照している本としては、日本銀行の白川方明前総裁による『現代の金融政策―理論と実際』です。これは、金融政策の問題や資本市場への影響について考えるときに、過去の実証分析など歴史的な事例が載っているのでよく読み直します。見た目は分厚いですけれど、比較的読みやすいと思います。
他にも、学者に限らず「何かをひとつ突き詰めた人」が書いた本を読むことが好きですね。「一体どんな考え方をしているのだろう」と興味関心があります。
たとえば、元阪神タイガースの金本知憲さんの自伝は面白かったですね。「昭和の男の根性論」という感じですけれど、鉄人・金本として野球を追究している姿勢とリンクしているんですよね。彼のようなプロフェッショナルの本からは学びがあります。
ビジネス書は「伝え方」の参考になる
また、私は自分の活動によって「日本のマクロ経済リテラシーを向上させたい」という思いをもっているので、常にどういう伝え方をすれば、読者の方と経済学をつなげられるか考えています。その点では、ビジネス書のかみ砕き方は非常に参考になります。
私はNewsPicksのようなWeb業界の話はまだ詳しくないのですが、ビジネス書を読むと「なるほどな」と理解できますしね。
その意味で、最近出版された『日経ビジネス 日本経済入門』は良かったです。「こういう伝え方をすれば一般の人がわかるのか」と、勉強になりました。専門用語に対して慣れすぎている自分に対して、一般常識ではなかったのだなと気づきを与えてくれた本ですね。
最後に、私にとっての一冊を挙げるとすれば、一橋大学経済学部の先生たちによる『教養としての経済学――生き抜く力を培うために』です。この本は、経済学への愛が本当に詰まっている、すごく良い本です。文章をかみ砕きながら、経済学の良さを何とかして伝えたいという思いが伝わってきます。
身近な問題をテーマにしていて、他の入門書に比べても非常にわかりやすいので、経済学部の学生さん以外にもおすすめです。平易ですが、きちんと一つ軸をもって研究しないと書けない本です。私もこういう本を書きたいなと思いましたね。
ビジネス書を「役に立てる」ためには
今回のように「ビジネス書がビジネスの役に立つのか」と問われれば、「役に立つものもあれば、役に立たないものもある」という結論になります。それは良いビジネス書と悪いビジネス書がある、という意味だけでなく、目的によって、ビジネス書を読むシーンとそうではないシーンがある、ということです。その点を意識してもらえると、非常に有益になると思います。