[東京 1日 ロイター] - あらゆるモノをインターネットにつなぐIoT(インターネット・オブ・シングズ)を活用し、製造業の生産活動を効率化する取り組みが加速している。FA(ファクトリーオートメーション)機器の世界大手、三菱電機<6503.T>は2003年からネットワークを通じた製造工程の改善システムを提供しており、最近は通信、センサー、人工知能の技術の急速な進化を受けて、生産ラインだけでなく設計・開発から設備の保守までIoTの適用範囲を広げた。

同社の役員理事でFAシステム事業本部の山本雅之・副事業本部長は、ドイツがIoTの製造業版「インダストリー4.0」を提唱するはるか前から、同社が生産現場で実績を積み上げてきたとIoTの活用に自信を見せる。ただ、ドイツの国を挙げた取り組みに対して、日本は企業主導の「仲間づくり」の対応にとどまっているとも指摘。海外のIoTの規格化の動きを警戒し、技術で先行する日本メーカーが影響力を行使して意向を反映する必要があるとの考えを示した。

山本氏の発言要旨は以下の通り。

――IoTによる製造業の生産現場の効率化の動きをどうみるか。

「通信インフラ、センサー、人工知能をはじめとするソフトウエアの技術が進化してきている。モノ作りのプロセスは、市場情報の分析、開発・設計、試作・評価、試験・量産、それから梱包(こんぽう)・出荷の流れが基本で、そこにIoTの技術を使う発想だ。三菱電機は2003年から『eファクトリー』のコンセプトで、ネットワークを使って生産現場のデータを収集し、現場の効率化にフィードバックする取り組みで実績を重ねてきた」

――ドイツのインダストリー4.0をどうみるか。

「機械と機械が通信して自動的に色々な仕様のものを作っていくようにするのが基本的な考え方で、三菱電機の方向性と同じ。だが、インダストリー4.0は、具体的に何をやるかの肉付けは今からで、正直に言って名前とコンセプトが先行している印象だ。われわれは2003年から生産現場で実績を重ねてきた意味では先行している。ただ、インダストリー4.0の発信源は国家。こちらは三菱電機というひとつの企業が発信してモノ作りの現場から適用範囲を広げてきた。発信源のレベルが違い過ぎる」

――ドイツの動きに脅威は感じるか。

「日本メーカーは自動車メーカーでもどこでも、生産現場のIoT化は進めてノウハウを反映させていて、みな自信を持っているが、気を付けなければいけないのは標準化、規格化の動き。ドイツ政府の委託で電機、通信、機械などの業界団体が標準化・規格化の作業をしているが、彼ら単独で規格を制定して、日本で今までやってきたことと全く違うルールができると、それに合わせなくてはならなくなる。ドイツメーカーが主導して、日本メーカーが後追いという形になるとよくない。インダストリー4.0の規格化の動きに、日本メーカーが影響力を駆使して、意向を反映する必要はある。または、日本発の標準プラットフォームとして規格化を発信する必要もあるかもしれない」

――日本では国ぐるみの対応が遅れている。

「eファクトリーは三菱電機が提唱しているもので、この幅をさらに広げて日本発にしようとすると限界がある。そこを広げる手立てがあればいいとは思う。各社間を調整するのは利害関係のない政府しかできない。日本のFAメーカーでは、ネットワークの部分だけでも各社が違うやり方で進めている。企業間の調整をするのは簡単ではないと思う」

――eファクトリーの取り組みはどこまで進んでいるか。

「設計・開発から生産・保守にわたって全体のコストを削減し、生産を最適化する。あらかじめ作ったプラットフォームをベースに組み合わせれば、顧客は簡単に工場を効率化できる」

「このすべてを三菱電機だけではできないので、ソフトウエア、機器メーカー、センサーメーカー、SIer(システムインテグレーター)など各分野のパートナー企業と連合して『eファクトリーアライアンス』を構築している。参加企業は300社に近づいているが、日本だけの連合ではない。シスコシステムズ<CSCO.O>やIBM<IBM.N>の米国勢、SAP<SAPG.DE>やシェフラーなどドイツ企業も入っている」

「導入事例は、自動車、精密機器、食品など100社。案件は5000件ある。インテルが半導体の製造ラインに予防保全システムを導入し、年間コストを約9億円削減した。2003年から製造ラインを中心にした取り組みをやってきたが、ここ2―3年は設計に拡大し、後半工程の予防保全の領域にも範囲を広げている」

――生産プロセス全体にeファクトリーの適用範囲は広がるか。

「三菱電機が工場内のすべての面倒をみるという発想はない。工場のラインで色々なメーカーの機械が並んでいるとすれば、それぞれの保守は各メーカーがやっているのが実態。それをつないで全体のシステムを構築するのはSierだが、工場全体の効率化は顧客メーカーのノウハウの領域に入る」

「たとえば自動車メーカーでは、自分たちの生産ラインのノウハウは外部には出さない。すべてSierに公開すると、ノウハウの権利が誰のものになるかはグレーゾーンで、ルール化をきちんとしないとトラブルの元になる。ノウハウを吸い上げて1カ所に収集されて他の同業者に共有されると差別化も何もなくなる。クラウド化したり、公衆回線のインターネットに企業情報やノウハウが流れたとき、セキュリティの担保をどうするか。オープン化して外へ広がれば広がるほどこのリスクは高まる」

「部材調達では、サプライチェーンをどの範囲まで考えるかが難しい。日本では外注までネットワークで結んで、生産計画から発注システムまで落とすような取り組みは、自動車メーカーが始めている。それも広い意味で視野に入るが、今すぐにという話はない」

――IoTによる生産効率化の未来の姿を聞きたい。ビッグデータで自動的に生産計画を立てたり、顧客の受注で材料を自動的に発注するような仕組みは考えられるか。

「生産をできるだけ短時間で正確にやるために、色々な技術が使われる。たとえば、市場の動向で生産計画を立てる場合、精度を上げようとしたら過去から蓄積した情報を活用する。飲料メーカーなら天候や気温など色々なデータを集めると、精度よく生産計画を立てられる。こうしたところにビッグデータの処理技術の活用範囲が広がる流れはある」

「ただ、ビッグデータを勝手に計算して結果を出して、末端の材料メーカーまで飛んでいくのが正しいとは思わない。精度よく予測したデータに対しても、人の判断が介在しないといけないので、すべての自動化はあり得ない。これは、生産ラインの効率化も同じ。日本メーカーは、生産現場の改善作業を地道にやってきたが、それをすべてデジタル化してデータ化するわけにはいかない。やはり現場のノウハウは人が介在する。データの解析結果をどう適用するかは、人の判断が必要。完全な自動化は現実的ではない」

(インタビューは4月28日に行いました)

*既に配信した〔インタビュー:IoT革命〕は以下をご覧ください。

・日本に必要な「3つのD」、産業再編も=アクセンチュア・立花氏

・欧米とは対立より協調、製造業さらに効率化可能=富士通・永嶋氏

・マイナンバー導入で金融資産課税も俎上に=伊藤・東大院教授

(村井令二 編集 北松克朗)