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「先人の教え」を理解し実践することが大切

【Vol.4】慎泰俊「読み直す価値のある『古典』も読むべき」

2015/4/30
自分のビジネスに役立てるため、知識や教養を身につけるため……。人がビジネス書を読む理由はそれぞれだろう。実際のところ、ビジネス書は本当にビジネスの役に立つのか? NewsPicks編集部は読書家として知られる各分野のプロフェッショナルにインタビューを実施。ビジネスへの役立て方、良書、悪書をわけるもの、座右の書などビジネス書について語り尽くしてもらった。
ビジネス書大賞発表。経営者、書店員、ピッカーに支持された作品は?

ビジネス書には「2種類」ある

私が2014年に読んだビジネス書は少ないのですが、面白かったものとしては『Jony Ive: The Genius Behind Apple’s Greatest Products』(邦訳『ジョナサン・アイブ』)や、『起業のエクイティ・ファイナンス』がありますね。前者はすべてのモノづくりをしている人、後者はすべてのスタートアップ経営者が読むべき本だと思います。

今回の『ビジネス書大賞』の最終選考にノミネートされた『第五の権力──Googleには見えている未来』は原著を読んだのですが、チャプター1だけで1冊分の価値があると思います。その後の章は微妙ですが。

ビジネス書には、「実用書」と「娯楽本」の2種類があると思います。先に言及した本で言えば、Jony Iveは娯楽本、起業のエクイティ・ファイナンスは実用書です。私自身、実用書は比較的読んでいて、実際に仕事をするうえで役に立っている部分があります。

一方の娯楽本に関しては、ある意味で小説や漫画を「面白いな」と思って読むことと同じだと考えています。それは、娯楽本だから役に立たない、という意味ではありません。『ONE PIECE』や『バガボンド』を読んだって仕事に生きる学びがあるように、参考になることもあります。ただ、常に机に置いて参照する本ではないということです。

そもそも私の本棚にはいわゆるビジネス書がほとんど存在せず、哲学や文学の古典、芸術に関する本、その他さまざまな分野の学術書、仕事用の専門書が本棚のかなりの部分を占めています。あえてビジネス書の中で手元に置いてよく使っているものを挙げるとすると、三枝匡さんの企業再生に関する三部作(『戦略プロフェッショナル―シェア逆転の企業変革ドラマ』『経営パワーの危機―会社再建の企業変革ドラマ』『V字回復の経営―2年で会社を変えられますか』)や、『マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー』ですね。

それと合わせて、大学院時代に使っていた、教科書的に使う金融の専門書として、池田昌幸先生の『金融経済学の基礎』、Jean Tiroleの『The Theory of Corporate Finance』、ロバート・ギボンズの『経済学のためのゲーム理論入門』などもよく読み直しています。単に現実を記述するだけの本はすぐ陳腐化しますが、骨太の理論書は10年経っても色褪せません。

他にお勧めのビジネス書を挙げるとすれば、昭和時代に書かれた『私の履歴書』は面白いですよ。今も昔も人によっては多少の自慢や自意識が入り込んでいますが、戦争を経験し、焼け野原から事業を成長させた経営者たちの「気合い」は、レベルが違うなと感じさせられます。

これまで書籍化されている中では、『私の履歴書 経済人』というシリーズがお勧めですね。ヤマハ発動機の創業者・川上源一氏の『私の履歴書―狼子虚に吠ゆ』も印象に残っています。

「人間関係」に関しては古典を読むべき

また、私の机には、『論語』をはじめとする古典や宗教書が並んでいます。ビジネス書よりも、こちらを読むことのほうが圧倒的に多いです。

私は、人間が社会生活をするうえで必要な知恵は決して多くないし、かつ変わることもないと考えています。テクノロジーなどに関しては最新の本を読まなければいけませんが、こと人間関係の問題については、結論はもう2000年前に出ていると思います。今さら新しく発見する必要がないのです。人間は、当時からそんなに本質的に変わっていないので。

そのため、先人が考えた「これが答えだ」というものを、きちんとそしゃくして理解し実践することのほうが大切だと考えています。

たとえば、今回のインタビュー中に編集部の方からデール・カーネギーの『道は開ける』について言及がありました。こちらも良い本ですが、新しいことは全く言っていません。少し前に戻れば、誰かが言っていたことを彼の仕事にひもづけて上手くまとめたもので、出版のタイミングなどもあってベストセラーになったということだと思います。

最近、私は本を整理し始めているのですが、何回も読み返すべき本は本当に少ないです。さまざまな本を読むことも良いですが、2000年間生き残ってきた価値のある本を10回読み直すことの方が大事なのではないかと考えています。

慎 泰俊(しん・てじゅん)
1981年生まれ。朝鮮大学校、早稲田大学大学院卒業後、2006年からモルガン・スタンレー・キャピタルなどを経て2014年に五常・アンド・カンパニーを創業。仕事の傍ら、2007年にNPO法人Living in Peaceを設立し、マイクロファイナンスファンドの企画や、国内で実親と暮らすことのできない子どもの支援などを行っている。
慎氏の推薦書 (左から)『V字回復の経営―2年で会社を変えられますか』『マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー』『私の履歴書 経済人』

慎氏の推薦書 (左から)『V字回復の経営―2年で会社を変えられますか』『マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー』『私の履歴書 経済人』