Netflix Inc. Illustrations Ahead Of Earnings Figures

アマゾンに追随する他の電子書籍

電子書籍を1冊ずつ購入するのではなく、定額で読み放題が当たり前になる時代がいずれ来る──。ニューヨークを拠点とするオイスターが、2013年9月に電子書籍の定額読み放題サービス(月額9.95ドル)を開始してから1年半が経った。

しかし彼らは、人々が今後も本を買うだろうと判断したようだ。4月8日からは電子書籍の販売も開始。読み放題のライブラリーにない書籍を単体で購入できるようになった。

ある意味で、今回の決断は敗北を認めたとも言える。

「Oyster(オイスター)」や「Scribd(スクリブド)」(月額8.99ドル)、アマゾンの「Kindle Unlimited」(月額9.99ドル)など電子書籍の定額読み放題サービスは、提供するタイトル数を着実に増やしてきた。Oysterは、今年1月に「ハリー・ポッター」シリーズを追加している。

ただし、出版社は定額サービスに良い作品を供給したがらない。オイスターのライブラリーには現在、『The New York Times』のベストセラーリストから、フィクション部門は上位10冊のうちゼロ、ノンフィクション部門は上位10冊から2冊のみとなっている。競合他社も似たようなものだ。

人気のあるタイトルを提供できないことは、書籍版「Netflix(ネットフリックス)」を目指す足かせになるだろう。主流の読者を取り込むためには、主流のタイトルが必要だ。

デジタル版の独立系書店

生まれて間もない業界ゆえに、定額サービスの会員数の明確な指標はなく、「1カ月に読まれた総ページ数」など意味のない数字が引き合いに出されている。それでもオイスターとスクリブドは、正しい軌道に乗っているとベンチャーキャピタリストを説得することはできたようだ。

これまでにオイスターは1400万ドル、スクリプトは2200万ドルの資金を調達している。

もっとも、アマゾンに比べれば軍資金は微々たるものだ。アマゾンの昨年の全売上高は1日あたり2億4400万ドル。電子書籍は、通常の販売と定額読み放題サービスの両方を提供している。

ジェフ・ベゾスが掌握する電子書籍出版の世界に、オイスターはどのように食い込むつもりなのか。

変化は起きている。従来の「Kindle」のユーザーは、アマゾンのストアしか利用できなかった。Kindleの端末では、ほかの電子書籍店のコンテンツを読めなかったからだ。

しかし、スマートフォンやタブレット端末で読書をする人が増え、アマゾンは端末にストアへのアクセスをビルトインする強みが薄れてきた。さらに、電子書籍でアマゾンに低価格を強いられていた出版社は、自分たちが販売価格を決めるエージェンシーモデルに回帰しつつある。

オイスターやスクリブドなどのスタートアップは、アプリやサイトのデザインで対抗できると考えている。オイスターのエリック・ストロンバーグ最高経営責任者(CEO)は、自社のサービスをデジタル版の独立系書店にたとえる。

「倉庫と書店が違うことは誰でもわかる。でも、説明しようとすると、どちらも『本がたくさんあって、そこに行けば本が手に入る』となる。実際に中を歩けば、違いは一目瞭然なのに」

大手出版社との関係

とはいえ、アマゾンの電子書籍帝国に大きな打撃を与えられる見込みは、誰にせよ当分なさそうだ。電子書籍業界の市場シェアに関する基本情報は公開されていないが、アマゾンが独占していることは明らかだ。

出版社としてはアマゾンに拮抗(きっこう)する勢力を育てたいが、まだ実現していない。アップルやバーンズ&ノーブルなどさまざまな規模の競合相手はいるが、実店舗の独立系書店に匹敵する影響力をもつデジタル版は現れていない。

スクリブドは数年前から定額サービスと販売の両方を提供しているが、読者を意図的に導いている。

「どちらも体験版を提供しており、ユーザーは明らかに定額サービスを好む」と、スクリブドのトリップ・アドラーCEOは取材にメールで答えた。

一方で、スクリブドは、大手出版社アシェットの書籍販売にこぎつけていないが、オイスターは、大手5社とそれに続く5社の書籍をすべて揃えると語る。スクリブドと違って、オイスターは販売も積極的に宣伝している。

革命は混沌としている

販売にも力を入れることは、最大手のランダムハウスとアシェットとの関係構築にもつながるだろう。両社とも、オイスターの読み放題サービスに自社が刊行するタイトルをすべて提供することには抵抗がある。

そして両社とも、これが最初の一歩という印象は与えたくないようだ。「多くの起業家からビジネスモデルの提案を受けているが、広範囲のコンテンツを網羅した定額サービスに、今すぐ参加する計画も、期待するところもない」と、ランダムハウスのスチュアート・アップルボーム広報担当は言う。

オイスターは、それでかまわないと考えている。ウィレム・ファン・ランカー共同創業者兼最高製品責任者(CPO)は、オンラインのビデオ配信サービスを引き合いに出す。

すなわち、Netflixのアカウントをもつユーザーの多くは、「iTunes」からも有料で映画をダウンロードする。メディア業界がインターネットに向かう道に、唯一の正解はない。

「利害関係者やプレーヤーがたくさんいる。アーティストがいて、レーベルや出版社がいて、小売り網があって消費者がいる。革命は混沌としているものだ」(文中敬称略)

(執筆:Joshua Brustein、翻訳:矢羽野薫、写真:Bloomberg)

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