進撃の中国IT

すべては「ユーザーの関心ごと」だから

シャオミ、テレビでも無名から26億円売り上げビッグメーカーに

2015/4/28
4月8日の米粉節[訳注:シャオミのファン・フェスティバル]において、シャオミはテレビ2シリーズを3万8600台販売し、1億3700万元(約26億5000万円)を売り上げた。テレビ開発に着手した2012年にはシャオミテレビへの注目度は今ほどではなかった。当時スマートフォン・メーカーとして知名度を得たばかりのシャオミは、業界の枠組みを超えてテレビ事業に参入することを決め、傘下の子会社「多看」にその開発を命じた。

3つの武器:ストーリーを語り、理念を伝え、サンプルを見せる

シャオミ多看の戴青松副総裁は2012年5月にシャオミ多看に正式に入社し、テレビ製品のサプライチェーン構築を担当した。シャオミ入社前は、家電メーカー「スカイワース」のテレビ業務研究開発常務副総経理、スカイワース「酷開テレビ」ブランド最高技術責任者(CTO)、家電メーカー「TCL」中国ブロック研究開発責任者を歴任し、インターネットテレビ開発の先頭を走ってきた人物だ。

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シャオミ多看入りしてから戴副総裁はゼロからサプライチェーンを構築した。伝統的なテレビブランドのサプライチェーンは、供給が追いつかない時代に構築されたもので、そんなシステムの中にいたサプライヤーは、「まぁまぁ」な部品さえつくればいくらでも売れた。戴氏はこうした「まぁまぁ」なサプライヤーを相手にせず、アップルやサムスンに鍛えられた、世界一流のサプライヤーだけを集めようとした。

今では世界的な知名度をもつシャオミだが、当時はまだまだ無名の一企業。しかもテレビ業界での知名度はゼロに等しかった。スカイワース、TCL、康佳、ハイアール、ハイセンス、長虹という中国6大テレビブランドが市場に分立する中、一流のサプライヤーたちは異業種からやってきたシャオミという新兵に疑わしげな目を向けた。「この激烈な競争の中で何を武器に生き残るつもりだ? どうやって成長するのだ?」と。

「私たちにとってもっともつらかったのは、まだまったく業績がない状況で、いかに世界一流のサプライヤーのサポートを取り付けることができるかという点でした」と、戴副総裁は語る。実績がなければサプライヤーには相手にしてもらえず、部品の供給を受けられなければ製品がつくれない。

この「タマゴが先か、ニワトリが先か」という問題を、シャオミは「ストーリーを語り、理念を伝え、サンプルをみせる」という3つの武器で突破した。

輸入ブランドの高品質+国産ブランドの低価格=シャオミテレビ

シャオミの雷軍最高経営責任者(CEO)が自ら調達マネジャーとなった。スマホ分野におけるシャオミのサクセスストーリーをすべてのサプライヤーに語りかけた。

その自信を支えたのは、携帯電話を700万台以上売ったという実績だった。総数としてはそれほど多くないが、急激な成長曲線は明らかだった。雷CEOはシャオミテレビがシャオミのスマホ同様の成功を収める、両者は異なる製品とはいえ、製品開発の思考は同じだと熱弁を振るった。

雷CEOが語った携帯サクセスストーリーは、ただの引き込みだ。大事なのはその背後にある理念だった。戴副総裁は言う。

「シャオミテレビが登場する前、中国市場のテレビは2つのカテゴリにわかれていた。高品質高価格の輸入ブランドと低品質低価格の国産ブランド。シャオミの参入は、輸入ブランド並の高品質と国産ブランド並の低価格という第3のカテゴリを生み出した」

これこそまさにシャオミが製品開発と価格決定において一貫してもち続けている理念である。先進的なハードウェアと庶民的な価格の組み合わせで、コストパフォーマンスの優位性を主軸とする。スマホもテレビも同じ理念で一貫させた。

アップル御用達のバックライトメーカーも動かしたシャオミスタイル

だが、ストーリーも理念も素晴らしいとはいえ、口だけではただの虚構だ。どれだけ語ってもそれは虚構にすぎない。甘い言葉を費やしても、サプライヤーの心はそれほど簡単には動かない。テレビメーカーでの経歴が長い戴副総裁は、このことをよく知っていた。

「家電製品業界は極めて保守的。『ウサギがいないのに鷹は放たない』[訳注:確かでないことには手を出さない]ということわざ通りだ」

そこでシャオミ多看では、まずサンプルをつくることに決めた。手に触れることのできる「ウサギ」を使ってサプライヤーを説得しようとしたのである。

2012年末、シャオミテレビ・プロジェクトは正式に開発が始められた。テレビをコンピュータにみなして開発した。基礎構造の再設計からデザイン、そしてカスタム「Android OS」のMIUIテレビ版の開発を進め、ついに試作機を完成させた。

この試作機はもち運ぶことができなかったため、サムスン、LG、シャープといったサプライヤーの関係者を北京に招いて、シャオミテレビが伝統的なテレビとは違うことを理解してもらったのである。

サンプルをみたサプライヤーが動いた。そして、シャオミとの商談が始まった。

もちろん「3つの武器」では心を動かさず、なお成り行きを見守っているメーカーもいた。台湾のバックライト・モジュール・メーカー「瑞儀光電」がそうだった。

戴副総裁によると、シャオミは半年間にわたり瑞儀光電の説得を続けたが、「3つの武器」はまったく通用せず、それどころか会いたくもないという態度だった。瑞儀光電がこうした態度をとるのも無理はなかった。

同社のバックライトモジュールは、「iMac」「MacBook」そして「iPad」の80%で採用されている。一般にアップルの部品サプライヤーの粗利は5%を超えることはないが、瑞儀光電は10%超という高水準を保持していたのだ。

それでもシャオミは諦めず、全力を投じて北京で開催された2013年第2回米粉節に、瑞儀光電の王本然董事長を招待することに成功した。雷CEOはその講演で理念を語り、また米粉たちの熱意とシャオミ・スマホの急成長が最終的に王董事長の心を動かした。こうしてシャオミは中国本土で唯一の瑞儀光電の提携パートナーとなったのだ。

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伝統ブランドがインターネットテレビに進出、さてシャオミは?

40インチ、55インチと新ラインアップを発表し、シャオミテレビの製品ラインは充実しつつある。だが、同時に従来のテレビメーカーの多くが独自のインターネットテレビブランドをリリース、インターネットでの販売を始めている。

従来のテレビメーカーは中高年世代に高い認知度を有する。彼らがインターネットテレビに進出すれば、シャオミの優位性はどこにあるのか? 従来のテレビメーカーでの経歴が長い戴副総裁は、シャオミテレビとそれらのメーカーの手法はまったく異なっており、その違いにこそシャオミの優位性があると指摘する。

たとえば、スカイワースは400人の開発スタッフで、100以上の製品をリリースしている。一方、シャオミ多看は約300人の開発スタッフがわずか1つの製品の3バージョンに全精力を傾ける。従来のテレビメーカーは製品をつくった後に、コストの引き下げと利益の向上を考えるが、シャオミは製品そのものの魅力を高めることに傾倒している。

「雷CEOはシャオミ多看のテレビ開発チームにKPI(重要業績評価指標)などの数値目標を示したことはない。必要なのは、ユーザーの予想をどれだけ上回れるか、ユーザーにとがった製品だと思わせられるかどうかだという」

戴副総裁もシャオミの極致を追求する精神を認めている。製品の魅力の追求に加え、シャオミはサプライチェーン、販売ルートでも優位性をもっていると語る。

前述のとおり、シャオミは世界一流のサプライヤーと提携しているが、従来のテレビメーカーのサプライチェーンは供給が追いつかない時代に構築され、「まぁまぁ」の部品をつくって満足している企業が少なくない。

販売ルートの優位は主に、シャオミの公式サイトと大手ECサイト「Tモール」に開いた旗艦店にある。今年の米粉節では、公式サイト経由のスマホ販売台数はわずか24時間で211万台に達し、ギネス記録を打ち立てた。

公式サイトは、今や極めて強力なECプラットフォームへと成長している。従来のテレビメーカーのサプライチェーンは「国美」「蘇寧」といった実店舗をもつ家電量販店での販売に依存しており、価格に占める販売経費が25%を超えている。

テレビがシャオミの核心業務のひとつに、その理由は「ユーザーの関心ごとだから」

シャオミの共同創始者にしてシャオミテレビ業務の責任者である、シャオミ多看の王川CEOは、初代シャオミテレビは不合格だったと語る。ハードウェアのすべてを一流のもので構成できなかったこと、コンテンツが不足していたこと、物流とアフターサービスが追いつかなかったことが理由だ。

しかし、現在のシャオミテレビ2は合格点に達したばかりか、シャオミの戦略的核心業務のひとつと位置づけられるにいたった。「なぜシャオミはこれほどまでにテレビを重視するのか?」という問いかけに戴副総裁は次のように答えている。

「ユーザーの関心を集める製品はすべて戦略的なものだから」

ソファに寝そべったユーザーがリモコンを取り上げて映画やスポーツを観る。そのまま2〜3時間が経つ。これこそが関心なのだ。

「ユーザーは自らの命をそこで削っている」と、戴副総裁はいたずらっぽく言った。「これほど多くの生命をテレビの前で費やす。しかもテレビから喜びを得ている。こんな重要な責任を引き受けるのだから、製品を立派なものに作り上げる必要がある」

インタビューの最後に話題はシャオミテレビ3に及んだ。戴副総裁はシャオミテレビ2発表後、ただちに次世代機の研究開発が始まったことを認めたが、いつリリースされるかについては、まだ明確なタイムスケジュールはないと述べた。

(執筆:欧狄/ifanr.com、翻訳:高口康太)

※本連載は毎週火曜日に掲載予定です。

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