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国勢調査が明らかにした予想人口とのマイナス差、宗教人口にも影響か

仏教国ミャンマー、人口比例の変化で噂される宗教問題の勃発

2015/4/27
ミャンマーは国民の89%が仏教徒であり、キリスト教とイスラム教が約4%ずつ、といわれる。国民の9割近くが仏教徒という国で、その信仰心の厚さを感じる場面も多い。たとえば、外国人におなじみの観光名所も、ミャンマー人の仏教徒にとっては聖地とされる仏教施設だったり、仏教絡みの祝日も多く存在する。同じ仏教国とはいえ、日本では日々の生活で仏教を感じることは滅多にないが、敬虔(けいけん)な仏教国であるミャンマーで今もなお続く仏教に根ざした生活事情をお伝えしたい。

通りかかる人が思わず手を合わせる、聖地「シュエダゴン・パゴダ」

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ヤンゴンの観光名所として有名な黄金の仏塔「シュエダゴン・パゴダ」。そこに入場する外国人は、一人あたり8000チャット(約890円)を払う。観光客から見れば、観光地のひとつにしかみえないだろう。

しかし、そこは多くのミャンマー人仏教徒が押し寄せる、重要な仏教施設だ。ミャンマー人は入場料無料。足を踏み入れると、かなりの数の仏教徒が熱心に祈りを捧げているのを目にする。とりわけ、仏教イベントの日には、動くのも困難なほどの人たちが押し寄せる、仏教徒の聖地だ。

タクシーで同パゴダが見える場所を通りかかると、運転手が念仏を唱えることもある。運転しながら手を合わせ、祈りを捧げる運転手に出くわしたことすらある。

バスでも乗客の何人かが手を合わせて祈りを捧げる。日常でたびたびこうした姿を目にして、今では筆者自身もシュエダゴン・パゴダをみかけると手を合わせるようになった。

また、落ちそうで落ちない黄金の岩(ゴールデン・ロック)で知られる「チャイティーヨー・パゴダ」も仏教徒の聖地のひとつだ。
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黄金の岩自体がパゴダ(仏塔)になっており、そんな岩の上の仏塔にお釈迦様の髪の毛が納められていてその力で支えられていると言われる。

黄金の岩は昔は浮いており、岩と岩の間を鳥が飛ぶ様子を描いた絵も残っている。このチャイティーヨーにも、多くのミャンマー人の仏教徒が祈りを捧げようと押し寄せる。

世界的な観光地として知られる「バガン」もまた、世界遺産のカンボジアのアンコールワット、インドネシアのボルブドゥールと並ぶ世界3大仏教遺跡のひとつに数えられる。世界遺産ではないが、無数の仏塔が建ち並ぶ風景は壮観で、ミャンマーにおける仏教の歴史を感じる、趣のある土地だ。

ミャンマーの祝日は仏事中心

ミャンマーの祝日は年間25日。日本のような振替休日はないために実日数としてはもう少し少ないが、よく見るとこの国が仏教国であることがよくわかる。2015年の祝日は以下のとおりだ。
 図_ミャンマーの休日

4月の「ティンジャン」は水掛け祭りとしても有名だ。タイやラオスでもソンクラーンとして水を掛け合うので、ご存知の方も多いだろう。ミャンマー暦の新年をお祝いする祝日であり、10連休と非常に長い。

「水掛け」の名のとおり、街中の至るところで水を掛け合うが、それには新年を迎えるにあたって心の汚れや悪事を水に流す、という意味がある。だが、それもミャンマー暦新年の前日まで。この時期に功徳を積もうと、ティンジャンの休みにあわせ、短期間ながら出家をする人も少なくない。

一方で、ヤンゴン市内のあらゆる場所に特設ステージが設けられ、有名アーティストのライブが実施されるなど、イベント的な要素も強い。

ここにたびたび出てくる「満月の日」は月の満ち欠けで定められ、毎年その日が変わる。3、5、7、10、11月に、いずれもミャンマー暦の各月の名称(例えば5月がカソン、7月がワゾーなど)が加えられて祝日名となっている。もともとミャンマー暦は月の満ち欠けをベースにした太陰太陽暦で、今も月の満ち欠けは仏教徒にとって重要な意味を持つ。

そのうち、5月の「カソンの満月」は、お釈迦様が菩提樹の下で悟りを開いたとされる。お釈迦様が生まれたのも、涅槃に入ったのも、同じカソンの満月の日なのだそうだ。

10月の「ダディンジュの満月」は、1年に1回お釈迦様が地上に戻ってくる日だ。人々はお釈迦様に通り道を示すべく大小のかがり火を灯し、家庭はきれいに飾り付けられ、明かりをつけてお釈迦様を出迎える。この日、シュエダゴン・パゴダには多くの人が押し寄せ、多くのロウソクの火で神秘的な雰囲気に包まれる。
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ミャンマー東北部の地方都市タウンジーでは、この「ダディンジュの満月」には、バルーンに火を付け飛ばすバルーン祭りという大規模なお祭りが催される。これもお釈迦様を迎えるための催しだが、この日は雨期が終わり乾期に入る境の日でもある。

オフィスには仏壇、手を合わせるスタッフの敬虔さ

日本では見かけることがほとんどない光景がミャンマーの企業にある。それは、仏壇の存在だ。
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筆者の務める事務所にも仏壇があり、スタッフが毎朝花や供え物を入れ替えている。供え物を下げる前に手を合わせ、念仏を唱える。新しい供え物を上げる際にも手を合わせ、念仏を唱えている。毎日オフィスにある小さな仏壇で手を合わせている様子を眺めると、人々の信仰心の厚さに心打たれるほどだ。

さらに、前述したようにティンジャン休暇に出家する人がいるが、仏教徒の男性は必ず出家するというのも、「ミャンマーならでは」の習慣である。

19歳までに必ず1度、20歳以降にもさらに1度、一生のうちに2回出家するのが仏教徒の決まりだ。筆者の事務所で働く、20歳から25歳のミャンマー人男性スタッフに尋ねても、5人中例外なく1度は出家を経験している。敬虔な仏教徒の側面は日々の生活でも垣間見ているが、「一生」という軸でも仏教が根付いているのである。

人口比例に大きな変化、仏教徒と異教徒の共存が注目点に

だが、ミャンマーにはイスラム教徒やキリスト教徒がそれぞれ4%ずつ、またヒンドゥー教徒も存在する。実際には過去、仏教徒とイスラム教徒の衝突により死者が出たこともあり、宗教が共存しているというよりも住み分けている印象が強い。

2014年3〜4月にかけて、1983年以来31年ぶりに国勢調査が行われた結果、ミャンマーの人口は約5141万人であることがわかった。これは、1983年の調査をもとに国連などから発表されていた推計値から、900万人ほど少ないと大きなニュースになった。

この国勢調査にはまだ公表されていない興味深いデータがある。

というのも、実は調査項目のひとつとして「宗教」についてのアンケートも含まれていた。その結果は現時点ではまだ公表されていないが、正式に発表されることになれば、30年以上前のデータに比べて仏教徒の割合が低くなり、イスラム教徒の割合が高くなるのではないかと言われている。もしそうなれば、新たな宗教問題が勃発する可能性もある。

今年末には、5年に1度の大統領選が控えている。民政移管後のミャンマーが今後いかに発展するかをにらむ選挙だと、国際社会は論じている。一方で、現政権が実施する選挙のボイコットの動きがメディアでも取り上げられ、民主化を主張し続けたアウンサン・スーチー氏の動向も注目される。

この大統領選に合わせて、国勢調査の影響に揺れる「宗教」問題からも目が離せない。筆者としては、日常生活のあらゆる場面で仏教が深く根付いたミャンマーで、おかしな宗教闘争が起きないことを祈るばかりだ。

※本連載は毎週月曜日に掲載予定です。