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【後編】声優・大塚明夫独占インタビュー

『攻殻機動隊』との出会いが、大塚明夫を目覚めさせた

「声優だけはやめておけ」──代表作に『メタルギア』のソリッド・スネーク役、『攻殻機動隊』のバトー役などで知られる、声優・大塚明夫の思いが込められた新著『声優魂』(星海社新書)が大きな反響を呼んでいる。声優を目指す若者に徹頭徹尾「No」を突き付けた本書は、自らの道を歩もうと考えている職業人すべてに対する強烈なメッセージだ。今回、彼の仕事・人生・演技論を聞いた。
前編:職業ではなく、生き方の選択をする覚悟はあるか

「声優」として評価されることに葛藤があった

──今回、大塚さんの役者としてのキャリア、仕事観について改めてお聞きしたいと思います。演劇の舞台俳優からスタートして、次第に声優のお仕事がメインになられていきましたね。

大塚:僕は役者としてはセリフだけが秀でていたんだと思います。ビジュアルで勝負するタイプではなく、演技をしても体がイメージ通りには動かない。気が付くと、声だけが商売として転がり始めた。

でも、それに対して非常に納得がいかない時期がありました。元々は演劇出身なのに、芝居をやっても「声優さんだよね」と言われ、評価されるのは「いい声」という点ばかり。「何でなんだ」と悔しくてしょうがなかった。

──自己評価と他者評価の間で、葛藤していた時期があったんですね。

大塚:はい。でも、周囲の評価と自分の評価が違うことなんて、どんな人でも当たり前のことなんですよね。

若い頃は、一人でもがいていました。「声優じゃない、俳優だ」「自分の演技で度肝を抜いてやろう」と考えたこともあります。でも、結果としてそこに答えはなかったんです。

──なぜ、それが吹っ切れたのでしょうか。

大塚:やっぱり、作品のおかげですよね。キャラクターや共演者、監督をはじめとするスタッフとの出会いの中で、役を演じることが純粋に楽しくなり、肩の力が抜けるようになったんです。

『攻殻機動隊』バトー役との出会い

──そのきっかけになった作品はありますか。

大塚:本当の意味で、楽しさに目覚めるようになったのは『攻殻機動隊』ですね。バトー役を初めて演じたのは1995年。

その後も2002年のテレビシリーズを皮切りに、15年以上の付き合いがあるキャラクターです。その長期間にわたって、バトーの核となるものを熟成させていきました。

──バトー役は大塚さんの代表作のひとつですね。どのような役づくりだったのでしょうか。

大塚:攻殻機動隊の難解な世界観の中でバトーという人物をつくりこんでいくことは、簡単ではありませんでしたね。

作品にとって何がベストかを常に考え、一歩でも近づけるのが僕らの職人仕事。そこにオリジナリティが加わることで、深みが増すんです。

そのため、神山(健治)監督をはじめとする皆さんと何度も議論し、繰り返しシナリオを読み込んでいきました。すると、バトーと他の登場キャラクターとの心理関係や位置関係を考えることが面白くなっていったんです。

作品全体を考えることで、役を演じることそのものが楽しくなるという、大きなきっかけでした。

──『攻殻機動隊』は、ファンの間でもストーリーに関して多様な解釈があります。大塚さんもそれを考え続けていたんでしょうか。

大塚:そうですね。たとえば、主人公の草薙素子やバトーが所属する公安9課のメンバーは、一人ひとりがプロフェッショナルで実力のあるワンマンアーミーである一方、強いチームワークで結ばれています。僕はそれがコアではないかと考えました。

すると、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』というテレビシリーズのタイトルともつながるのでは……とかね。みんなで作品の世界観をつかむことに試行錯誤しながらつくり上げた経験は得難いものでした。

大塚 明夫(おおつか・あきお) 声優/役者。1959年生まれ。東京都出身。代表作に、『メタルギア』シリーズのソリッド・スネーク役、『機動戦士ガンダム0083』のアナベル・ガトー役、『攻殻機動隊』シリーズのバトー役、『Fate/Zero』のライダー役、『ONE PIECE』の黒ひげ役。洋画吹き替えでは、スティーヴン・セガール、ニコラス・ケイジ、デンゼル・ワシントンなどを幾度となく演じる

大塚 明夫(おおつか・あきお)
声優/役者。1959年生まれ。東京都出身。代表作に、『メタルギア』シリーズのソリッド・スネーク役、『機動戦士ガンダム0083』のアナベル・ガトー役、『攻殻機動隊』シリーズのバトー役、『Fate/Zero』のライダー役、『ONE PIECE』の黒ひげ役。洋画吹き替えでは、スティーヴン・セガール、ニコラス・ケイジ、デンゼル・ワシントンなどを幾度となく演じる

「自分だけの物差し」がモチベーションになる

──作品との出会いや年月を重ねる中で見えてきたことが多いのですね。

大塚:はい。ただ、それが形として見えてきたのは50歳くらいです。40代はちゃんと認識できていませんでした。

──ご自身に対する評価や、声優と役者の区別も気にならなくなったのでしょうか。

大塚:そうですね。役者としての評価ってなんだろうと考えたとき、全くの他人を気にしたって面白くないですから。何が自分にとって一番大切なのかが見えてくると、声優か役者かというこだわりもなくなりました。今は声優と呼ばれても全然、嫌ではないです。

──大塚さんにとっての評価の物差しや、仕事へのモチベーションが変わったんですね。

大塚:はい。ファンの方はもちろんですが、個人的に尊敬する人に評価されることが、大きなモチベーションになるんですよ。それは、僕自身が持っているミクロな物差しです。

押井(守)監督が「バトーの声を変えるなら、僕はやりません」って言ってくれたことがあります。『ブラックジャック』の出﨑(統)監督も「ブラックジャック役を変えるなら俺はやらない」と同じように言ってくれました。

僕にとって、そういう言葉が力になり、誇りになって、お札のように心を守ってくれるんですよ。「僕は間違っていない」ってね。

──それでは最後に、今後はどんなお仕事をしていきたいですか。

大塚:「いい本、いい役者、いい役、いいスタッフ、いいオーディエンス」が揃うことが理想ですけれど、楽しかったらそれでいい。

これからも声をかけてもらった役に関して、スケジュールが空いているかそうでないかで決めるだけです。最近は舞台の稽古もしていますが、今までにないくらい自由に演じられるようになっています。

これからもっと力が抜けて自由になれるはずです。僕は50歳を過ぎた今が、声優として俳優として、一番楽しいですよ。

(聞き手・構成:菅原聖司、写真:福田俊介)