ダイソン日本法人・麻野信弘社長が語る
「マーケティングはしない」ダイソン、驚きの製品開発の裏側
2015/4/22
4月17日に世界初となる旗艦店をオープンした英国家電メーカー、ダイソン。市場を席巻したのは吸引力の衰えない掃除機や羽根のない扇風機など革新的な製品の数々。ダイソンの開発力の源泉は? ダイソン社の「イノベーティブな製品開発」について話を聞いた。
前編:ダイソン日本法人社長が語る「世界初の旗艦店を日本に開いた理由」
──紙パックのない掃除機や羽根のない扇風機など、消費者を驚かす製品を開発できる理由は。
その秘訣は「マーケティング」をしないことでしょう。消費者のニーズだけを探っていても驚くべきものはできません。徹底的なプロダクト重視。ダイソン社内では「マーケティング」という言葉は一切使いません。
消費者の自宅で「じっと見る」リサーチ手法
──では消費者の声は、開発にどのように反映されるのか。
ジェームズ・ダイソン直属のエンジニアチームがいます。彼らが日本を訪れて、消費者のところを回ります。
──消費者のところ。
消費者の自宅です。大阪や東京、郊外や大都市、マンションや一軒家などさまざまな家庭にお邪魔して、掃除をしているところを、ひたすらみます。これこそネットに頼ったリサーチではなく、本物のリサーチだと思います。さまざまなシチュエーションでダイソンの製品がどう使われているのか、じっと観察することで意外な発見が生まれます。
空気清浄機がいい例です。自宅を訪問していくうちにある傾向がみえてきました。それは、日本の家庭には「掃除機は一台、扇風機も一台、ところがエアコンは複数台、空気清浄機にいたっては各部屋に一台ずつ」という家庭が多かったことです。
これは英国のエンジニアからすると大きな驚きだったようです。「空気」に対する清潔観の高さはアジア、特に日本が圧倒的に高い。空気清浄機というのはアジアだけで独特に発展してきた家電だということがわかりました。
欧米の量販店に行くと、そもそも空気清浄機が置いていないということもあります。だからこそ、欧米で市場をイチからつくることができると思っています。
ダイソンの投入する「ロボット掃除機」とは?
──他に注目している領域は。
やはりロボットでしょう。アイロボットが「ルンバ」でロボット掃除機市場を広げましたが、各メーカー、ロボット型掃除機は10年以上前から開発をしてきました。われわれも開発の最終段階にきています。
──「ルンバ」とはどういう点で差別化するのか。
ダイソンが得意とするサイクロン機能を搭載している点です。これによってパフォーマンスの高いロボット掃除機を投入します。今までロボット型が人気だったのは「利便性」です。
一方で、「パフォーマンス」については妥協していたのではないでしょうか。「自動でやってくれるから多少ホコリが残っていてもしょうがないか……」というのが本音だったと思います。
ですが、われわれの製品は「ロボット型が一台あれば、普通掃除機は一切不要」というレベルまでの技術を目指しています。
ただ、その技術的なハードルは高い。サイクロン式の吸引は多くの電力を割くためにバッテリーの持続力を上げなくてはいけない。
また、無駄なく走行するために、自動で部屋の広さを認識し、走行ルートを算定する「360 Eye ロボット掃除機」というカメラシステムの開発も行わなければなりませんでした。
研究開発投資は週に5億6000万円
──こうした新しい技術に向けての開発体制はどのようになっているのか。
現在、研究開発投資だけで週に5億6000万円を充てています。今後、総額2800億円を投資して、エンジニアの数を倍増します(現在は約2000人)。2013年の売上が約2300億円だったことからすれば、大規模の投資額です。先日もバッテリーのベンチャー企業に18億円の投資を発表したばかりです。
「製品にとって重要な部分はすべて内製化したい」というのがダイソンの思いなのです。それは開発部門だけに限った話ではありません。
ダイソンは日本の売上上位150店舗の家電量販店に販売スタッフを派遣しています。彼らもダイソンの人間です。消費者と接点をもつ最前線で、最も大切な場所ですから外注することはしません。
──店舗のつくりも独自の世界観を感じる。
店舗の中の売場づくりも家電量販店任せではなく、専門のクリエイティブチームを設置し英国のメンバーと連動しつつ、すべてにコミットします。
大切にしているのは「私たちのメッセージがきちんと伝わるのか」ということ。
ですから、商品のコピーの打ち方から使用する什器(じゅうき)の高さや大きさまで、一点一点カスタマイズしてつくります。それに一般的に家電量販店で行われているようなプライスカードをベタベタ貼るのもなるべく避けています。
本来、私たちが伝えたいものが伝わらなくなってしまいますから。お客さんにプレゼントするボールペン一本、Tシャツ一枚も自分たちでデザインしていきます。
──これからの課題はどういうところにあるか。
日本の家電メーカーはITと家電の連動が進んでいます。スマホと家電がつながっている商品を多く出している。ここはまだダイソンが手薄なところ。これからIT面での強化は必要になるでしょう。
(撮影:福田 俊介)