2023/12/27
「人」「組織カルチャー」を変えないと、パーパス経営は実現しない
NewsPicks Brand Design Creative Editor
「パーパス」という言葉をメディアなどで目にする機会が増えている。パーパス経営とは、自社の存在意義や志、社会にどう貢献していくのかといった「目的(パーパス)」を掲げ、それを軸に事業を進める経営モデルのことだ。
市場や社会の変化によって今までのビジネスモデルが通用しないといった危機に直面した時、「自分たちの存在価値」に立ち返って中長期的な成長ビジョンを描くことにつながる。
近年、企業には利益中心の活動だけでなく、環境や社会に貢献する活動が求められるようになった。
こうした社会背景から注目されているパーパス経営だが、「どう策定したらよいかわからない」「策定したものの社内に浸透していかない」と悩んでいる経営者も多いのではないだろうか。
パーパスを単なるお飾りにせず、組織全体に根付かせ、そこから新たな付加価値を生み出す。そんな変革を実現させるのが、アルファドライブのCX(コーポレート・トランスフォーメーション)事業部が提供する「PurposeDrive」だ。
組織変革のプロは、パーパスをどのように策定させ、組織に浸透させているのか。アルファドライブ CX事業部の責任者である鳥海裕乃氏に聞いた。
パーパスが分断する、経営者と現場人材
──パーパス経営に舵を切る企業はどんどん増えています。そんななかで「現場に浸透していない」という事態も起こっています。
鳥海 現場社員にとってパーパスは、自身に課せられている目標や役割を劣後せざるを得ない内容であるからと考えています。
多くの現場社員は、既存事業を伸ばしていくことをミッションとしています。中期経営計画や事業計画に基づいた短期的KPI、主に売上や利益といった財務目標をいかに達成するかが、自分たちの評価に直結しているんです。
一方で、パーパスとは企業の普遍的な社会的存在意義を示すものです。
短期的な事業運営の視点にとどまらない中長期な成長サイクルを描き、株主や機関投資家のみならず、広く社会全体のステークホルダーを包含しながら、企業価値をサステナブルに向上させることを目指しています。
中長期的な成長を果たし、また社会全体の持続性に貢献するために、時には現状の業務プロセスを変革したり、購買基準や品質基準を見直したりするなどの必要性に迫られます。
そういった取り組みが、短期的な利益創出と相反する考え方にもなり得ます。これは現場の社員にとっては、ジレンマをもたらす考え方ですよね。
──たしかに。その結果として利益率が下がってしまうこともありそうです。
多くの企業では、パーパスを策定した後、社員研修やワークショップなどを通して現場社員の行動をすぐに変えようとしますが、それだと現場社員は「やらされているだけ」になってしまう。
そうならないために、戦略も組織もパーパスに従わせていく。つまり、パーパスを最上位概念として、経営・事業・人事戦略、ガバナンスやオペレーション、人材の採用・育成・配置を設計していくことが重要です。
こうした、パーパスを起点とした企業変革(コーポレート・トランスフォーメーション)を推進することによって、「人・企業風土・カルチャーが変わり、そこから新たな事業や付加価値が生まれ、新たなステークホルダーとの関係が育まれることによって、企業価値が高まる」という中長期成長のサイクルをつくり出すことができます。
策定は、全社の意志統一から始まる
──パーパスを浸透させ、組織を変革していくために、「PurposeDrive」はどのような支援を行っているのでしょうか。
私たちは「パーパス策定」「実装戦略」「組織実装」「文化醸成」「インパクト創出」の5つのステップで支援しています。
私たちが策定のステップで大事にしていることは、「経営から現場まで、すべての景色を見にいく」ことです。
アルファドライブが支援しているのは、日本の伝統的な大企業が多いのですが、基本的に大企業では事業部門ごとに責任者がおり、それぞれが部門ごとのKPIで動いています。
そして、特に人事や総務といった機能部門と現場の事業部門は、全く異なる思想や力学で動いているケースが多い。さらに、経営層と部門長クラス、課長・所長クラス・現場といったそれぞれの層でも、見えているものが違います。
こうした縦と横の分断構造が起きやすい組織の中で、パーパスを策定・実装していくには、それぞれの社員の目線を揃える、いわゆる「アラインメント」が非常に重要になります。
そのため、まずはそれぞれの部門がどのような力学で営まれているか、課題は何か、どこを目指しているのかを徹底的に棚卸しします。
その上で、パーパス経営を推進するための社内事務局を組成し、組織内外からの声を分析し、「なぜパーパスが自分たちにとって必要なのか」「パーパスを通して、どのようなインパクトを生み出したいのか」を言語化するところから始めます。
場合によっては会社の顧客、さらにその顧客の顧客まで話を聞きに行くこともありますし、定年退職者のもとに伺い、歴史をたどることもあります。
──定年退職者の方にまで話を聞くんですか。
多くの情報は可視化されておらず、人の中に眠っています。それを掘り起こすことで、昔から続いている組織の思想や哲学を浮き彫りにできるんです。
自社が何者で、どこから来て、どこに向かおうとしているのか。人の思い、事業の数字、戦略の言葉、組織の形態…企業を構成するあらゆる要素に、そのヒントがあります。
この分析・議論のプロセスにかなりの時間をかけ、事務局とともに企業のアイデンティティを浮かび上がらせていきます。
──そうした分析で見つけたアイデンティティを全社員に共有していくんですね。
導き出された結果だけを示すのではなく、「なぜパーパス策定が必要なのか」「それはどのように事業・組織課題につながっているのか」「自社のアイデンティティはどのように醸成されていったものなのか」ということも含めて、社内に共有します。
そこから対話が生まれることで、社員ひとりひとりと「自分たちだからこそ生み出せる価値は何か?」「不確実性の高い社会の中で、自社はどこに存在意義を見出すべきか?」ということを一緒に考える関係を築くことができるんです。
パーパスの策定は、企業変革に向けた合意形成プロセスでもあります。
全社員が「会社のあるべき姿」と「自分はそこでどうありたいか」という問いに向き合える状態にすることが実装の第一歩なんです。
パーパス経営で力を発揮する“変革人材”を見つけ出す
──実際に策定したあとには、どうやって浸透させていくのでしょうか。
組織変革の主要テーマとしては、「戦略」「事業」「組織構造」「組織カルチャー」「人材」「経営インフラ」などがありますが、私たちはその中でも特に、「人材」と「組織カルチャー」を最重要ファクターと捉えています。
「人材」「組織」には、それぞれハード面とソフト面があります。
戦略や制度を変えていくことは、トップが意志を持って推進すれば短期間で一定の成果は生み出せます。
ただ、戦略や仕組み、制度、システムを永続的に機能させるためには、人材のマインドや組織カルチャーといったソフト面の変革が必要不可欠です。
しかし、こうしたソフト面を急激に変化させることは難しく、「戦略を描いても人が動かない」「仕組みや制度があっても活用されずに形骸化する」といったことが発生します。
このような事例は山ほどあるはずです。私たちは、数多くの企業様に対して変革のご支援を行ってきましたが、人と組織カルチャーの醸成なしに、真の変革は成し得ないと感じています。
──具体的に、どんな支援を行うのでしょう。
人材に関しては、まず「望ましい人材要件」の定義を見直します。
既存事業を安定的に運用する「平時」と異なり、中長期的な成長のための変革や新たな挑戦を生み出すことは「有事」です。
今までの慣例にとらわれず、顧客や社会など組織の外側の変化に目を向けて、答えのない世界で考え続けなくてはならない。
私たちは、そんな有事で活躍できる人材を「変革人材」と呼んでいます。
そうした変革人材の素養を持つ人は、既存事業の中では埋もれてしまっていたり、正しくパフォーマンスを発揮できていなかったりすることが多い。
なぜなら、既存事業を安定的に運用できる人材と、新たな挑戦ができる人材は、全く異なる思考・行動特性を持っているからです。
──そういった変革人材を社内から見つけるのは、なかなか簡単ではなさそうですね。
弊社では、人と組織の変革に関する研究開発機関「
POT Institute」を持っており、独自開発による変革人材の可視化・アセスメントツール「POT Assessment」をご提供しています。
変革人材の特徴に当てはまる19の特性を可視化する「POT Assessment」
また、変革への想いやポテンシャルを持つ社員を発掘し、部門を横断して学び合い、対話と行動を生み出すラーニングプラットフォーム「
NewsPicks Enterprise」などを活用して、変革人材になるためのスキル・マインド・カルチャーを醸成するご支援を行っています。
それだけではなく、変革人材を正しく評価するために人事考課・評価制度の見直しを支援したり、場合によっては、望ましい人材の採用や、適性に合わせた配置を考えていくためのタレントマネジメントを行ったりすることもあります。
──新たな可能性を持つ人材を発掘し、評価する土壌をつくると。組織のカルチャーは、どうやって変えていくのでしょう。
組織カルチャーは、「価値観」によって変えることができます。
価値観は、その組織に属する人が「何を大事にすべきか」「何を良しとすべきか」を判断する尺度となるもので、パーパスに合わせてアップデートしていくことが求められます。
具体的には、バリュー(行動指針)を策定し、バリューに基づいた人事制度の更新、育成施策、採用方針への反映などを行います。
新たな価値観を定め、組織に実装していくまでのトータルなプロセスを描き、点の施策で終わらせないことが重要です。
バリューの好事例として最も有名なものの1つに、サントリーホールディングスの「やってみなはれ」文化があります。
創業者・鳥井信治郎氏の口癖であった「やってみなはれ」が、現代においてもサントリーの中で価値観として受け継がれています。
その背景には、その鳥井氏の思想を「現場主義」や「任せる文化」など事業推進の精神に落とし込み、これらを実践する人の育成を行うなど、あらゆる企業活動を通じて組織マネジメントに実装する営みを連綿と続けてきた歴史があると思います。
「やってみなはれ」文化がサントリーらしい挑戦と成長を支えてきたように、パーパスに基づいたバリューが現場の行動に落とし込まれ、その組織らしい成長につながるための実装支援を私たちは目指しています。
──アルファドライブとしては、実装のゴールをどこに定めているのでしょうか。
パーパス実装とは、持続的な企業の営みによって担保されるものであるため、明確なゴールというものはありません。
ですが、「パーパスが実践され続け、新たな価値や事業が生み出され、成長し続けるサイクルが生み出される」ことが1つのマイルストーンになると考えています。
私たちのご支援は、総合的な企業変革につながる活動のため、事業や組織活動との接続を図りながら段階的に進めていくやり方です。
そのため、策定からこのマイルストーンに到達するまで、少なくとも2〜3年程度の時間をかけて伴走させていただいています。
掲げる言葉や制度を変えるだけでは、人と組織は変わらない
──今後「PurposeDrive」を通して、どんな未来を実現したいですか。
弊社のパーパスとして、「人の可能性をひらく」ことを掲げています。
パーパスを策定すること自体を目的にせず、それらを通してあらゆる組織で働く人の可能性、創造性がひらかれ、社員が生き生きと働き、自己効力感と組織効力感が連動する企業を増やしていきたい。
どんな事業であっても、どれだけ技術が高度化しようとも、企業の成長の源泉を突き詰めると「人」「カルチャー」に行き着くと思っています。
事業や技術ドリブンなアプローチももちろん重要です。
しかし事業や物事の力学が強くなりすぎてしまい、そこで働く人がパーツのように扱われ、創造性が妨げられてしまっては本末転倒だと考えます。
人と組織と事業が相互に成長のドライバーになっていくためには、総合的な企業変革支援の視点と手法が必要だと考えています。
──そのノウハウが、アルファドライブには貯まっていると。
アルファドライブには、「人」と「カルチャー」と「事業」を総合的に変革する手段が揃っています。
コンサルティング支援に加え、同じユーザベースグループの「NewsPicks」のコンテンツの力、インハウスのデザインスタジオ「
knots creative」によるデザインアプローチ、編集チームによるインターナルコミュニケーション強化、「
AlphaDrive AXL」による事業グロース支援など、あらゆる手段を駆使して組織改革をご支援できる点は、ほかにはないユニークさです。
一般的なコンサルティング会社に忌避感のある会社も、我々とならば今までにない新しいアプローチをともに推進できそう、一緒にワクワクできる変革ストーリーをつくれそう、という期待感を持ってくださっています。
──「PurposeDrive」の課題をあえて挙げるとしたら、どんなところがあると思いますか。
もっと多くの企業のパーパス経営を支援していきたいと思う一方で、圧倒的に人が足りていません。実際にご支援を必要としてくださる企業は何社もいらっしゃるのですが、手が足りていないことに歯がゆさを感じています。
しかし、実装の支援は難易度が高いので、簡単にお願いすることもできないんです。
──具体的に、どういったところが難しいのでしょう。
パーパス経営のご支援は、一定のセオリーはありつつも、最後はやはり各企業様の中に深く入り込んで変革の複雑性に向き合っていく泥臭さが求められます。
企業によって最適な変革プロセスや必要な打ち手は変わってくるため、必要であれば自らの手で新たなソリューションを開発することもいといません。
現在、各企業を担当しているメンバーも、企業様の伴走者としての顔と、ソリューション企画・開発を行う顔の2つを持っています。
弊社では自らの起案をもとに、新たな事業を立ち上げたり、新たな組織を組成したりすることも珍しくはありません。
──まさに先ほど挙げられたような「変革人材」を求めているんですね。
「パーパスや戦略の策定のみにとどまらず、実際に人や組織や事業が変わるところまでご支援したい」「持続的な組織変革プロセスに携わりたい」「型にはまらず、顧客が求めるソリューションを自由に提供したい、生み出したい」といった想いを持つ方はきっといらっしゃるかと思います。
弊社には前述のように、既存の手段にとらわれることなく、常に新たな方法を生み出し続けることができる環境と、それらに職位、所属、社歴など関係なくチャレンジできるカルチャーがあります。
また、コンサルタントとしての深く伴走する経験に加え、事業企画・事業開発の経験も得られることが、弊社で働く醍醐味の1つです。
人材と組織に想いがある方、新たな価値を自ら生み出していきたい方、ぜひ一緒にアルファドライブで企業変革を推進していきましょう。
執筆:崎谷実穂
撮影:吉田和生
デザイン:月森恭助
編集:福田啄也