進撃の中国IT

かつて銀行を慌てさせたネット投資ブームにとうとう陰りか?

大ブームを呼んだアリペイファンドから一部ファンドが撤退

2015/4/21
2013年6月、アリババ傘下の第3者決済サービス「アリペイ」(支付宝)が始め、爆発的な投資ブームを生んだ投資サービス「余額宝」。中国のネットユーザーにとってすでにインフラともいえるサービスになったアリペイを窓口に、ファンド会社が提供する債券やMMFへの手軽な投資が受けた。当時平均利率6%をうたったこともあり、低利が続く国有銀行から全財産を引き出して投資するユーザーが相次いだ。現在までに登録アカウント数は約5000万、合計2500億元(約4兆8700億円)が取引されるという規模になった「余額宝」だが、その傘下から一部ファンドが撤退するという情報が流れ始めた。

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アリババ令嬢とファンド・イケメンの恋

それはまさに、アリババの創業者ジャック・マー一族の令嬢と、落ちぶれた「背が高く、お金持ちのイケメン」のラブストーリーのような話である。

物語は、ファンド会社の天弘基金管理有限公司とアリペイの出会いから始まった。当時、天弘基金はどこにでも転がっているような、ありふれたファンド会社にすぎなかった。その天弘基金のウリは、旗下にMMFを持っていたことだ。

中国ではあまり普及していないMMFだが、公的な債券に投資することで元本割れリスクが少なく、また即日の購入・解約が可能で、海外では一般的に普通預金に変わる投資手段として用いられている。

中国では一般に流通する投資知識が十分ではなく、財テクはそれを学ぶにはコストが高く、また運用自体が非常に面倒くさいという欠点がある。この弱点をアリペイが突いた。彼らが天弘基金と組んで、「余額宝」というサービス名でMMFを取り扱い始めたのだ。すると銀行よりも利回りがよいと大反響を呼んだ。

赤字の最下位企業から業界トップに躍進した天弘基金

当時の上海総合指数は2000ポイント前後。2009年から続いていた下落の波の底であえいでいた。株式市場が低迷するなか、そんな新たな投資商品の誕生が大きな反響を呼んだ。その後の天弘基金の急成長ぶりを中国紙「21世紀経済報道」がこんなふうに伝えている。

「2012年、天弘基金はファンド業界で50位、つまり下から数えたほうが早い位置にあった。管理資産高も100億元(当時のレートで約1300億円)に満たず、1535万元あまり(同約2億円)の赤字を計上していた。

その天弘基金が2013年末には余額宝と手を取り合って設立した、天弘増利宝という通貨ファンドはあれよあれよと1853億元(約3兆2000億円)を集めた。天弘基金全体の管理資産高は1944億元(同約3兆3500億円)に達し、企業規模は前年の50位から業界2位へと大躍進した。

天弘基金の4大株主のひとつ、内蒙古君正エネルギー化工有限責任公司の年度報告書によると、天弘基金の2013年売り上げは3億5400万元(同約60億円)、純利益は1092万7600元(約1億9000万円)となり、長年の赤字からついに脱却したのである」

天弘基金のサクセスストーリーは、他の落ちぶれた「イケメン」たちにも伝わった。余額宝という名の若く美しい令嬢の微笑みを見るや、落ちぶれた若者たちの情熱は燃えさかり、初恋のようなときめきを覚えたのだ。

一目惚れはすぐに恋愛へと発展し、アリペイは数十ものファンドと提携を交わし、ファンド業界共通の恋人になったのだ。

大盤振る舞いが続く、投資サービス「余額宝」

多くのファンドと提携したといえども、アリペイの操作画面にファンドの名前が表示されることはない。ほとんどの場合、その提携は「アリペイファンド専用口座」というかたちになっている。ユーザーはファンド側のサイトでアカウントを開設すると同時に、「アリペイファンド専用口座」を開く。

これによってファンド側はアリペイが持っている基礎となる、そして優れた操作性に慣れた顧客を呼び込むことができる。提携先のアリペイといえば何もすることなく、座ったままでファンド側が引き起こす資金の流れが落としてくれる利益を味わうことができるという仕組みだ。

2014年にはアリババ旗下の金融サービス「アント・フィナンシャル」が天弘基金を買収した。天弘基金はこれによってアリババの正式な「婿」となり、アリペイとともにその成果を分け合う立場となった。

この時、上海総合指数は3800ポイントと余額宝が誕生した時の1.9倍にまで上昇し、大波にもまれ、苦しみぬいた状況から抜け出していた。ファンド各社はこの時、落ちぶれた「イケメン」から一転、やり手のモテ男へと姿を変えた。それがどれほどの飛躍だったのか、当時の報道を読めばよくわかる。

「債券・株式がともに高値を続けるなか、甘みをたっぷり吸い込んだ市場公募債公募ファンドは大盤振る舞いし、投資家への配当を倍増させた。統計によると、第1四半期の配当は計446回、金額は計337億3800万元(約5600億円)に達している。前年同期の223回の145億4700万元(当時レートで約2270億円)から回数が倍増しており、今年さらにその数は倍となり、金額でいえば131.9%増という急成長となっている」

アリペイは搾取を否定、「ファンド側のコストは減ったはず」と声明

だが、すべての恋愛が成就したわけではない。今年4月3日、広州市の新聞「南方都市報」がアリペイと一部恋人たちが別れたらしいとスクープした。

噂によると、その理由はアリペイが強すぎて、あまりにも高い利用手数料を求められたためとされる。同日午前の中国メディアは「捨てられたアリペイ」のゴシップで埋め尽くされたが、午後になってアリペイはSNSの公式アカウントで事情説明の声明を発表した。

(1)アリペイが「無理矢理に高額な」手数料を請求したり、ファンド会社から「むしり取る」などという事実はない。2015年初めに、アリペイはファンドの決済技術サービス料の基準を改定した。

ファンドとの話し合いの下、提携ファンドから徴収する技術サービス料を資金移動量に応じた一律基準とすることを決めた。

改定前に比べ、アリペイ側が権利型投資に提供する技術支援サービス料金の基準は半減し、業界平均をはるかに下回っている。MMF、債券ファンドなどの手数料は従来の残高に応じて算出する方式から資金移動量に応じて算出する方式に改められた。

(2)この改定は手数料算出モデルをよりシンプルにし、透明性を高めるものだった。従来の残高に応じた計算モデルでは統計は複雑で、正確な料金算出が難しく、そのために決済技術サービス料がコストを下回ることがたびたびあった。

これはまた、銀行支払コスト、ファンド業界の現状を総合的に評価した上でのことであり、実質的にはファンド側のコスト負担を引き下げた。

(3)ファンド各社とアリペイの提携はなおも継続している。一部のファンドは契約満了に伴ってMMFと債権ファンドにおける提携を中止したが、証券ファンドでの提携は続いている。

(4)決済技術サービス料は決済企業がファンドにサービスを提供して引き替えに受け取る正規のコストである。われわれは一般ユーザーからは費用を徴収していない。この点についてユーザーが不安に思う必要はない。

ファンド側はアリペイの手数料が高いと言い、アリペイは新たな費用徴収モデルがファンドのコスト負担を引き下げたと反論。まるで痴話げんかだ。

ともあれ、恋人のうち何人かが姿を消したものの、アリペイはまだまだ多くの恋人を魅了し続けている。手数料うんぬんの影響はそのうち真実が明らかになるはずだ。

ただの痴話話か、それとも離縁なのか

思えば、天弘基金がアリペイと提携した当時にも、「規模ばかり膨れ上がるだろうが、利益は出ない」と言われたこともあった。かつての純真な時代にはもう戻れないのだろうか? あの時のすべてを分かち合った愛はもう消えてしまったのか?

その心の中はわからないが、やり手のモテ男に変わったファンド業界はアリババ令嬢の陰で生きる生活に別れを告げ、自力で羽ばたこうというのだろう。

まるで財神が街に現金をばらまいているかのような上げ相場が続くなか、一般投資家が続々と市場に参入している。ファンド会社は宣伝せずとも十分な注目を集めており、以前のようにアリペイに頼る必要はないのだろう。

一部ファンドがアリペイとの別れは、はたしてたんなる口げんかなのか、それとも完全な離縁なのか?

今後の推移に注目したい。

(執筆:呉垠/ifanr.com 翻訳:高口康太 写真:iStock.com/FMNG)

※本連載は毎週火曜日に掲載予定です。

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