就活「後ろ倒し」で広がる「7つの大格差」とは?
2015/4/20
2015年から、就活の時期が3カ月後ろ倒しになった。これに伴い、日本の伝統的大企業の採用活動に変化が起きている。その変容がもたらすものとは、「就活・大格差」だ。大手企業は、上位校の「ハイエンド就活生」をインターンなどで早期に囲い込む一方で、そうではない学生には説明会さえ開かない……そんな現象が実際に起きている。就活後ろ倒し時代が生む、格差の中身とは?
本特集では、その全容についてリポートするとともに、各界で活躍する著名社長やアナリスト、そして豊富な海外の事例などから「就活の今後」について占っていく。
拡大する「学歴格差」の真実
特集前半では、いま広がりつつある就活生間の格差や、彼ら彼女らを採用する企業間の格差について迫る。その格差とは、大別すると以下の7つだ。
(1)学歴格差
(2)情報格差
(3)インターン格差
(4)ナビ格差
(5)文理格差
(6)入社ランク格差
(7)企業間格差
これらの中身について順を追って説明しよう。まずは(1)の学歴格差から。「就活後ろ倒し」の影響で、ここ数年広がりつつある「学内会社説明会」の“ブランド大学偏重”に拍車がかかりつつある。
選考期間が大幅にカットされたことで、企業は以前ほど、「合同説明会」を開けなくなった。そこで、採用したい上位校に自ら出向き、校内で説明会を開く傾向が強まった。だが、2015年は冒頭で述べた通り選考期間が短く、その結果、企業の採用担当者の間で「学内説明会を絞り込む」(銀行人事)傾向が多々見受けられる。
すると当然、学内説明会は上位校に限定されやすい。事実、商社の現場マネージャーは、「今年(2015年)、わが社は学内説明会に行く大学を思い切り絞った」と言う。これに対し、上位校の学生は、まるで困った様子がない。東京大学の学生の就職活動に関係する企画を主催する東京大学学生経友会代表の河井龍太郎氏は、「キャンパスセミナーの引き合いは、例年より多い印象」だと語る。
ちなみに、経友会は「会の幹部で、お呼びする会社を決める」運営方針(河井氏)だが、「5大総合商社による共同商社セミナーは360人が参加した」(同)というほど活況だ。一方で、一時期人気があったメガベンチャーのセミナー(説明会)には「7〜8人しか集まらなかった」(東京大学4年生女子)と言う。
それでも、「ベンチャーの採用担当者は、学生が数人しか集まらなくても『行くから』と積極的」(同女子学生)なんだとか(このあたり人気企業、不人気企業の趨勢〈すうせい〉については後述するので、そちらを参考にしてほしい)。
つまり、大手を中心とする企業は上位校の学生には自ら積極的に出向いてアプローチする一方で、G-MARCH(学習院大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、明治大学、法政大学)以下の大学の「学内説明会」の数はぐっと減らす。
従って、ターゲット校(重点的にその大学の学生を採用する)以外の学生はナビサイトなどを使うか、入社を希望する企業に直接アクセスするしかなく、エントリーシート提出の段階で足切りされるケースも多い。こうして、学歴格差は企業と学生の最初の出会いから始まる。
リクルーター完全復活が学歴格差を拡大する
また、企業がターゲット校の学生にアクセスする手段として2014年から急増しているのが「リクルーター(同じ学校を卒業した先輩が、優秀な後輩を探し出し、勧誘する制度)」だ。「日本の人事白書2014」によると、「ターゲット校の学生を採用するために行う施策」として「リクルーターの活用」を掲げた企業は36.0%。
特に、大手でその傾向は顕著だ。トヨタ自動車はもとより、三菱商事や伊藤忠商事などの商社、三井住友銀行などの銀行、日本生命や第一生命などの生保会社でも、1980年代、1990年代にさかんだったリクルーター制を復活。「選抜組はこちらから迎えにいくのが常識」(銀行人事)だと言う。先の東大女子大生も、「東大生の場合、大企業の選考が進む段階で一人ひとりにリクルーターが付くことが多い」と証言する。
リクルーターによる採用枠が増えるということは、過去に採用実績のある大学の学生から内定枠が埋まっていくことと同義だ。こうした傾向から、学生人気の高い大手企業の内定者の高学歴化はますます進む。
この「就活の学歴格差」現象について、リクルートワークス研究所の主幹研究員豊田義博氏は、「2015年は、3月まで採用活動を表立っては行えなかったため、“先食いアプローチ”としてリクルーターを送り込む会社も多い。若干の“準指定校制”っぽさも感じられ、旧来の“就職協定時代”の水面下での学歴偏重傾向に向かっている印象もある」と指摘する。
大手をはじめとする採用力のある企業は短い選考期間内で、学歴フィルタという合理性を追求したということか。
83.8%が応募するインターンにも大格差の動き
ハイエンド就活生の中には、既に内定を得ている人もいる。ディスコの調査によると、2016年卒業予定者のうち3月5日の時点で、内定を持っている人は3.8%。おそらく、このうちの大半が採用直結型インターンによるものではないか。
2015年度にインターンシップを実施予定の企業は58.3%、2014年度よりも2.8ポイント増加する見込みだ(リクルートキャリア「就職白書2015」より)。2016年卒業予定の全国の大学3年生(理系は大学院修士課程1年生含む)の83.8%が(2月時点)インターンシップに応募、参加した学生も73.7%にものぼる(ディスコの調査より)。
わけても、上位校の学生ほど、インターンシップ参加意欲は高い。
「質の高い就活友達ができる、就活意識の高い人が集まる、ともすれば内定に近づくなどの理由から、インターンシップの人気が高い。東大経済学部は、夏は“インターン学部”と呼ばれるほど」(前出・東京大学学生経友会代表の河井氏)
就活塾など学生向けのキャリア支援を行うアルファ・アカデミーの代表取締役・入住壽彦氏も「ハイエンド大学生の中には、2014年中に外資系金融、外資系コンサル、外資系メーカーのインターンを経て、2015年早々には内定を得ている人がかなりいる」と言う。
インターンシップと言えば、2〜3年前までは、大型会議室のような“箱”に学生を閉じ込め、外部から講師を呼ぶ、あるいは現場の社員数名を読んで「わが社で働く魅力」を語らせる、簡単なグループディスカッションを行うなど、1〜2日で行われる「会社説明会」のむきがあった。
だが、最近では学生に特定の課題を与え、それに対する解をグループワークにより導き、結果をフィードバックするなどの課題解決型インターンが増えた。さらに、進んだ実務型も増加の兆しで、「日数が長く、ジョブシャドウィング(影になって先輩についていき、仕事のノウハウを学ぶ)などのスタイルもみられる」(ワークス研究所豊田氏)と言う。
また、情報感度の高いハイエンド就活生に、こうした実務能力が身に付く“お得なインターン”の情報は、ゼミやサークル、SNSなどを介してあっという間に広がる。ある国立大学生は、「たとえばSMBCのインターンが実践的でためになるなんて情報は、同級生の多くが知っている」と言う。
こうして、企業人事と接触頻度の高い学歴の高い学生には、有効な情報がどんどんと集まり、そうではない学生は置いていけぼりを食らう──。そして、新たな「情報格差」が生まれる図式が成立してしまう。この情報格差により生じる「雲泥の差」については、次回リポートする。