テスラやBYDなど成長企業に共通するコーポレートミッション
「世界の自動車メーカーで起こっていること」トピックオーナーの前田謙一郎です。
先日アップしたサイバートラックデリバリーイベントの記事は沢山の方に読まれていたようで、ここ日本においてもEVやテスラへの関心が非常に高いことがわかりました。有難うございます。
そのデリバリーイベントを見て、ゼロエミッションでありながら優れた牽引能力と加速性能、近未来的でユニークなデザインのサイバートラックに興奮した人は私だけではないと思います。特にアメリカではファイナンス、テック、ニュースメディアが特集を組みとても盛り上がっていました。
そんな中、世界の自動車マーケットを見渡してみると、EVシフトが進む中、成長していく企業となんとか挽回していこうというメーカーの二分化がますます顕著になってきたように思えます。
改めて、私が新旧自動車メーカーで働くことで、ずっと感じていた「ミッション」の重要性について考えさせられる機会となったので、今回はこれまでの経験も交えながら、纏めてみたいと思います。
強力なミッションは企業成長とイノベーションに不可欠
結論から言うと、昨今の成長を続ける会社に共通しているのは、誰もが共感するとても強い会社のミッションやブランドパーパスがあり、多くの場合、それらは地球規模であると同時に時勢に合っていると言うことです。例えば、テスラでは創業時より「持続可能なエネルギーへ世界の移行を加速する」という壮大なミッションを掲げています。
そのミッションを達成するために車だけではなく、産業用及び家庭用蓄電池、太陽光発電、そしてAIまでを統合的に事業としており、その中で電気自動車はミッションを達成するための一事業分野でしかありません。
車メーカー以外においても、例えばGoogleは「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」を掲げていますし、パタゴニアはよりわかりやすくて、「We are in business to save our home planet」というダイレクトなステートメントを行なっています。
躍進するBYDとテスラのミッションは似ていた
もう一つ、このコーポレートミッションの重要さについて思い出させてくれたのが、先日BYDジャパン劉学亮社長の講演を聞く機会でした。BYDは現在、中国市場の販売台数においてトヨタを抜き2番手に躍り出ており、2023年末には完全にそれまでの販売トップであったフォルクスワーゲンを抜き去るのではと予測されています。
日本でも今年から乗用車販売を開始し、先日のジャパンモビリティーショー(旧東京モーターショー)で大きなブースを出して注目を集めていました。
以下のグラフ、先月のCNBCの販売台数予測にあるように中国市場ではドイツ・日系メーカーが右肩下がりになる中、BYDは販売台数を急激に伸ばしています。
彼らも自動車分野だけでなく、元々バッテリーの製造から始まった企業であり、事業分野は乗用車、商用車、バッテリー、エレクトロニクスと多岐にわたります。そして、テスラと同じように大きなミッションを掲げる会社であるということです。
彼らのグローバルサイトには以下のようにBYDミッション「Cool the Earth by One Degree」「地球の温度を1度下げる」ということがビジュアル化されており、これもとても分かりやすいミッションであると思います。
車の製造だけでなく、その先で地球に貢献できること
現在、アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイでCOP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)が開催されています。よく報道されるように、地球環境が後戻りできなくなるティッピングポイントは産業革命後、平均気温が1.5度上昇する時点と言われており、世界の平均気温は既に1.1度も上昇、残りは0.4度しかないと言われている状況です。
アメリカにおいてはバイデン大統領が就任後、パリ協定に復帰、石油由来の燃料の使用を減らし、脱炭素化を目指すことが各首脳の中で確認されています。COP28においても岸田首相が日本の脱炭素化、そして世界への貢献を強調していたのは記憶に新しいでしょう。
世界の環境意識はこれまで以上に高まっており、車メーカーも積極的に地球温暖化や環境問題について関わっていく姿勢を見せなければなりません。
BYDはすでにガソリン車の製造をやめています。乗用車と商用車両方においてPHEVやEVなどの新エネルギー車にフォーカスすることにより、炭素排出を低減するだけでなく、蓄電池の製造を通して脱炭素化へのエコシステムを作っていることが従来の自動車メーカーにはない強みです。
先日の講演においても、劉社長がパッションとユーモアも交えながらBYDという会社の現状とその自動車を超えたミッションを説明されていたことにはとても好感を持てました。
というのも、私もテスラでマーケティングやPRを行なっていた時には、日本においてテスラブランドをよりよく理解してもらうために、同じようにミッションの説明に重点を置いていたからです。
車のスペックなどを説明をする前に、まずは今日の地球環境から始まり、なぜテスラが車事業をしているのか、なぜEVが必要なのか、そして蓄電池や太陽光発電との連携について、自分達の「世界をより良く変えたいという」ミッションを沢山の人に理解して欲しいと考えていました。
社会での自動車の役割は変化し続けている
第二次世界大戦後、多くの車メーカーが大衆が乗ることのできる車を安価かつ高品質に作ることに鎬を削り、人々の移動や社会生活、工業化に貢献してきました。80年代になると、スーパーカーブームが起き、人々はより早く走ることに熱狂し、90年代には環境意識の高まりによりハイブリッド技術でトヨタプリウスが市場を席巻しました。
その後、2000年代には環境規制により、低燃費を追求する戦いになり、フォルクスワーゲングループのディーゼルゲート問題に繋がったことは記憶に新しいでしょう。そして2010年以降、省エネではなく持続可能なエネルギーへの移行のため電動化が促進されている状況です。もちろん、新しい市場ルールの背景にはそれぞれの国策や政治的な駆け引きなど多くの要因が絡んでいるのも事実です。
しかしながら、2020年代になり、高品質・高性能・低燃費、運転が楽しい車を作ることだけでは、大手自動車メーカーはその社会的責任を果たすことはできなくなりました。今後はカーボーンニュートラルを基本にAIや自動運転を活用することでモビリティー全体の安全性と利便性を高めることが必要になってきます。
もちろん全ての自動車メーカーがエネルギー会社や自動運転を行うテックカンパニーに転身することはできませんが、少なくとも車製造より一つ高い目線でミッションを作り、人々を巻き込んでいかなければならないことに間違いはありません。
熱いミッションを持った会社は人々を惹きつける
テスラのような会社は、従業員やユーザーを含む熱狂的なイーロン信者に支えられていることも事実です笑。でもこれは、スティーブ・ジョブズ時代のAppleにも同じことが言えました。今回のサイバートラックのデリバリーイベントに、以前のようなAppleの新製品発表イベントと同じワクワク感を得られた人も多かったのではないでしょうか。
テスラ在籍当時、カリフォルニアのフリーモント工場に出張中にAll hands meeting(全従業員ミーティング)があり、イーロンの話を聞く機会がありましたが、そのミーティングがとてもポジティブな雰囲気で熱意が溢れていたのを覚えています。イノベーティブな会社に共通するのは社員全員が会社のミッションに賛同し、強烈に「技術で世界をより良く変えたい」と信じていることです。
多くの会社ではオールハンズミーティングは結構マネジメントからの一方通行で四半期に一回の儀式的なことが多いのではないでしょうか。
また、私たち日本人は勤勉で実直である一方、このようなミッションの作り方や人々を鼓舞するプレゼンテーションやコミュニケーションがあまり上手ではありません。真面目であることは確かなのですが、CSRの延長線上で「社会的責任を果たす」だけのミッションでは今後、熱意に溢れ、イノベーションマインドある社員を集めることは難しくなるでしょう。
今回、テスラのデリバリーイベントのアメリカでの興奮と熱狂を見ながら、今後、私たち日本経済が成長する上で重要なヒントの一つでないかと思い、今回の記事にまとめました。記事作成にあたり、全ての国内および外資自動車メーカーのミッションやヴィジョンを調べてみましたが、たくさんの発見がありました。
ぜひ、皆さんもご自身の会社のミッションを改めて眺めてみてはいかがでしょうか。それが毎日の原動力になるようなワクワクしたものであると願っています。