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Weekly Briefing(デザイン編)

ネット×デザイン選挙。ヒラリー先行の2016年米大統領選

2015/4/17
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、注目ニュースをピックアップ。金曜日は、デザインに関わるニュースをコメントとともに紹介します。

アメリカ大統領選への出馬表明が相次ぐ中、ヒラリー・クリントンの選挙キャンペーンロゴが多少の批判とともに話題になっています。そのロゴを見て、ヒラリーはオバマかそれ以上にネットを選挙で活用しようとしていると感じました。今週のWeekly Briefingでは、アメリカ大統領選をテーマに記事をピックしていきます。

Pick 1:オバマはインフォグラフィックを採用

Breaking down the numbers” barackobama.com

barackobama.com(2012年の投稿)
 pick1-1

選挙戦におけるネット活用では、ビッグデータやソーシャルメディアの駆使に加えて、以下の理由からビジュアルコンテンツ(動画やインフォグラフィック)の採用が適しています。

(1)関心を集める
幅広い層の興味をひくきっかけになります。

(2)メッセージをしっかり伝えられる
断片的なメッセージではなく、ストーリー立ててメッセージを伝えられます。加えて、部分的な引用ではなく、画像全体、動画全体でシェアされます。

(3)アクションにつなげやすい
ソーシャルメディアでの拡散の敷居が低いことに加え、ビジュアルの工夫(たとえばヒラリーのロゴのように矢印で動線をつくるなど)によって、寄付やフォローといったアクションを導けます。

オバマは凝ったインフォグラフィックに限定しないで、グラフ、写真とキャッチコピーを組み合わせた画像を織り交ぜて、ビジュアルコンテンツを量産しています。

グラフ

グラフの後につづく文章後半には「Share this jobs chart」のテキストリンクがあり、Facebook投稿を促進

グラフの後につづく文章後半には「Share this jobs chart」のテキストリンクがあり、Facebook投稿を促進

Twitterタイムライン

目立つ画像投稿

目立つ画像投稿

ネット選挙は、デザインと合わせ技にすることで、効果が上がります。オバマは、「O」のイニシャルをベースにしたロゴのイメージを、公式サイトのナビゲーションにも展開し、ブランドイメージをつくり上げています。

barackobama.comのナビゲーション

ロゴの曲線が活かされている

ロゴの曲線が活かされている

つづいて、ここからヒラリー・クリントンを中心に、2016年大統領選に話題を移します。

Pick 2:立候補者のロゴ比較。ヒラリーに軍配

Hillary for America” hillaryclinton.com

立候補者4名のロゴ
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同じ「炎」のモチーフを選んでしまったランド・ポール(左上)とテッド・クルーズ(右上)。マルコ・ルビオ(左下)は、アメリカ地図を「i」の点部分に置いたロゴ。ヒラリー・クリントン(右下)はイニシャル「H」に矢印です。この中で、ソーシャルメディアを意識したデザインは、ヒラリーだけです。

ランド・ポールとテッド・クルーズは、「炎」のモチーフが重なってしまったため、「Rand」「Ted Cruz」の名前表記を常に必要とします。そうなると、ソーシャルメディアの四角アイコンサイズで用いることが難しく、両人のFacebook、Twitterのプロフィール画像は、本人写真になっています。

ランド・ポールのSNSプロフィール
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テッド・クルーズのSNSプロフィール
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つぎに、マルコ・ルビオですが、「アメリカ地図」は国への想いを伝えているのかもしれませんが、小さいためごちゃごちゃしてしまっています。地図をデフォルメもしていないため、そこだけ切り出してもオリジナリティがなく、アイコン化もできません。

マルコ・ルビオのSNSプロフィール
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3人とも、ソーシャルメディアではカバー画像の中に、ロゴを入れています。彼らと大きく異なるのが、ヒラリー・クリントンで、唯一、プロフィール画像にすることを意識したロゴになっています。自身の写真よりも、ロゴを中心にイメージを構築する戦略は、オバマと同じです。ブランドイメージがロゴに集約されれば、本人写真を載せづらい箇所(たとえばインフォグラフィックをはじめビジュアルコンテンツのフッターなど)にもそのロゴを使ってブランドを付与できます。

ヒラリー・クリントンのSNSプロフィール
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オバマのSNSプロフィール
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ヒラリーのロゴは、2008年時と比べると考え方の違いが明確です。

左:2008年、右:2016年
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しかし、この新しいヒラリーのロゴはTwitterで批判を受けたり、それをもとにWired、 Fast Company、Gizmodo、Quartz、Voxなどが、その反応を記事にしています。最後は、ロゴへの反応をピックします。

Pick 3:ヒラリーロゴへの反応

The Internet Freaks Out Over Hillary’s Campaign Logo
Fast Company

病院の場所を示す標識のようだ
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標識のようだとする声は、このロゴの成功を示していると感じました。標識は、小さいスペースで注意を喚起し、情報を正確に伝え、正しい行動に導くものです。いずれも、大統領選で必要なことです。

ロゴはそもそも標識に近い概念です。標識と異なるのは、ロゴにはアイデンティティが求められる点。ヒラリーのロゴは、青と赤の色、それから矢印が少し「H」を右に飛び出しているのが特徴となっています。さりげないですが、これくらいにとどめてシンプルな状態を保つことによって、力強い印象を与えます。

FedEXのロゴみたいだ
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似た反応で、WikiLeaksのロゴを上げる声もあるようです。この2つに限らず矢印を要素として使うロゴはたくさんあるので、重要な指摘ではありません。

矢印の向きがおかしい
民主党(左寄り)なのに、矢印が右向きになっているという指摘もあるようです。どれくらいの人が気にするのかわかりませんが、サイトではこの矢印を効果的に用いてアクションにつなげようとしています。
 pick3-3

面白いのは、ヒラリーロゴをもとに、フォントをつくり始める人、パロディ作品をつくる人が現れていることです。色、構成要素がシンプルであることから、こうした行動も生まれやすくなっています。

<参考>
How graphic designers would revamp the Hillary logo
Rejected Hillary logos

ここまでは意図していなかったと思いますが、結果としてヒラリーを取り上げる記事が増えました。ヒラリーのロゴで欠点を感じるのは、オバマのロゴのような完全な白抜きが使えない点です。ヒラリー・ロゴは、完全な白抜きの代わりに「H」と矢印の透明度を変えています。これが印刷物などに展開したときに足かせにならないかが気になりました。

左:ヒラリーロゴ、右:オバマロゴ
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とはいえ、他の立候補者と比べて、格段に練られたロゴです。オバマのネット戦略を参考にしていると考えられるため、今後、インフォグラフィックをはじめとするビジュアルコンテンツの展開も想定され、表現の進化に期待しています。(文中敬称略)

※Weekly Briefing(デザイン編)は、毎週金曜日に掲載する予定です。