プッチーニ「トスカ」で見える日欧の死生観
大阪フェスティバルホールで、イタリアから来訪したボローニャ歌劇場の「トスカ」を鑑賞した。
ご存じイタリアの巨匠プッチーニの作品だ。本場イタリアの名門歌劇場の来訪とあって劇場に足を踏み入れる前から興奮気味であった。
時代は、ナポレオンが欧州を席巻していた時代。政治犯をかくまったことから警視総監に拷問をかけられるトスカの恋人カヴァラドッシ。トスカは恋人を助けようと動くが、そこには罠があり…。最後は、トスカの自殺で終わる。
私がこれまで見たオペラの中でも、ストーリー展開の面白さ、時代的背景の反映、登場人物の心理描写のいずれをとっても、5本の指に入る名作だと思う。
私が「トスカ」に注目する理由の一つが、自殺という結末だ。
日本の文学作品や演劇では切腹を含む自殺が多く登場する。「忠臣蔵」が長く人気を得てきたのも、最後に大石内蔵助が切腹するシーンに感動するからではないか。
しかし、西洋の作品では、自殺は多くはない。すぐ思いつくのでは、「トスカ」とゲーテ「若きウェルルの悩み」である。その他も自殺が描かれる作品自体は多数あるものの、主たるテーマとして扱うものは多くない。
その理由は、キリスト教価値観では、自殺が否定的に見られることが、日本的価値観よりも大きいからだ。
西洋の映画では、自殺者の葬儀には、近い親族以外は誰も参列しないと言ったシーンもある。自殺者への忌避が強いのだ。
その中で、主人公の自殺とそこへの感情移入をメインにしている「トスカ」の特異性は目立っている。
日欧の死生観の違いを改めて考える契機になる。
「蝶々夫人」(長崎が舞台)や「トゥーランドット」(中国が舞台)など、アジアへの関心も高かったプッチーニ。様々な価値観を取り入れるプッチーニの真骨頂が「トスカ」に体現されていると言えるかもしれない。
※写真は、Unsplashからのオペラ劇場