AIで体外受精時の胚移植を助ける、韓国の不妊治療スタートアップなど
🇰🇷この記事でわかること
・韓国の女性ヘルスケアを取り巻く背景
・韓国のフェムテックプレーヤー
・韓国と日本のフェムテック市場の違い
前回の記事はこちら⇨世界最低水準の出生率0.78。韓国で今起きていること
1.韓国の女性ヘルスケアを取り巻く背景
日本では、厚生労働省が、更年期障害など女性に多い病気や不妊症の研究、治療法の活用などの司令塔を担う組織を創設する動きが進んでいる。
韓国の女性ヘルスケアに関する政策をみると、「母子の健康」に限定されてきた。その背景には、1970年代からの「韓国版一人っ子政策」を推し進めた結果、2000年代に出生率が低下し、出産や育児を支援する政策を実施しているからである。
さらに、女性の健康に特化した健康統計や指標(例:日本だと以下の図)が不足しており、女性の健康状態について、体系的に把握できておらず、課題が顕在化していないのが現状である。
また、日本では経済産業省がフェムテック事業者向け補助金支援を実施しているが、韓国ではフェムテックに特化した国レベルの支援は見られない。
しかし、ソウル市がフェムテックに特化したアクセラレーターを立ち上げたり、女性起業家が立ち上げた、または女性を対象とする事業を行うスタートアップを支援する団体に対し、資金提供を行なっている。
シンガポールやイスラエル、ヨーロッパの小国は、スタートアップ支援が盛んである。
人口5,000万人の韓国全体より、まずは地方自治体レベル(ソウル市で約1,000万人)で、フェムテックのスタートアップ支援に取り組んでいく。その後、徐々に国単位に広めていくのは、ひとつの得策かもしれない。
日本はフェムテックに関する取り組みが、国→地方自治体の流れが多い。トップダウンかボトムアップか、国の考え方やジェンダーギャップに対する危機感が異なるからだと推測している。
2.🇰🇷注目企業①:Lunit(乳がん検診)
乳がん検出のためのAIソリューション「Lunit INSIGHT DBT」を提供。3D乳房トモシンセシス(DBT)とAIにより、スクリーニングの制度と可視性を向上させている。
従来の乳がん検出は、超音波検査やマンモグラフィだが、DBTは乳房を複数方向から撮影して薄いスライス画像を構成する技術である。マンモグラフィより早く正確な診断が提供できる。
さらにAIを活用し、DBT画像を分析。疑わしい病変ごとに悪性腫瘍の可能性を定量化し、医療専門家に情報提供する。
2023年3月に欧州でCEマークの承認を取得していたが、2023年11月に米FDA(アメリカ食品医薬品局) 510(k)の承認を取得。これにより、米国の乳がん検診市場に参入することが可能となり、年間4,000件を超える米国のマンモグラフィ検診が変わると推測されている。
3.🇰🇷注目企業②:MotionLabs(婦人科疾患テレヘルス)
婦人科疾患の女性が、医師に相談することをサポートしたり、専門病院の検索や予約を支援する「Dr.Bella」を2020年から提供。若い世代の利用者が多く、10代が30%、20代が50%である。
さらに2023年から、心理相談サービスも開始。女性のうつ病患者数は、男性の患者数に比べて約2倍多い。
生理・妊娠・出産・更年期など、女性のライフスタイルの特性に合わせた相談を提供しており、女性カウンセラーのみで構成されている。
累計4万人以上の女性加入者を獲得しており、全国85の産婦人科・女性専門医、30人程度の女性心理相談専門家提携ネットワークを備えている。(2023年1月現在)
4.🇰🇷注目企業③:Kai Health(不妊治療)
AIベースのパーソナライズされた不妊治療ソリューションを提供しており、費用対効果の高い非侵襲的な形で、臨床医が各患者の意思決定が行えるよう、データの収集・統合・分析を行なっている。
具体的には、体外受精(IVF)した良好な胚を子宮に戻すことを胚移植というが、何千もの胚の画像と臨床データを分析し、移植に最適な胚を選択できるようにする「Eve」を提供している。
2023年8月にはGoogle for Startups Women Founders Fund(アジア太平洋地域の女性が立ち上げたスタートアップを支援するファンド)から、10万ドル(1,480万円)を調達しており、今後の成長に期待している。
5.まとめ
韓国のフェムテック市場は、生理や妊娠など若い女性向けの分野で成長が期待されている。しかし、日本と同様に社会的・文化的にタブー視されがちな更年期などは普及が難しいと推測される。
韓国フェムテック市場は、年平均成長率19.9%で成長し、2033年までに1億770万ドル(160億円)と予想されている。
少子化が日本以上に進む中、妊娠・妊活ソリューション分野の成長はもちろんだが、若年層の女性ヘルスケアへの意識・関心を高めることが、日本以上に求められている。
6.イベント:Femtech×医療従事者の共創カンファレンス(11/22(水)渋谷)
11月22日に、フェムテックと医療者をつなぐパネルセッションを渋谷で開催。
婦人科系医療者として著名な先生、沖縄OIST発のフェムテックスタートアップ、多数の政府フェムテック施策に関わる有識者のみなさんの豪華パネルセッションです。
当日、会場でお会いしましょう。お申し込みはこちら⇩
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<参考>
・令和4年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2022FY/000307.pdf
トップ画像:Unsplashのibmoon Kimが撮影した写真
コメント
注目のコメント
今回は、韓国のフェムテックスタートアップエコシステムについて書きました。
韓国という国単位では、フェムテックに特化した国家レベルの研究開発支援はほとんどみられませんが、ソウル市がフェムテックに特化したアクセラレータープログラムを立ち上げました。
さらに、ソウル市は、女性起業家が立ち上げた、もしくは女性と対象する事業を行う100社のスタートアップ企業を受け入れるコワーキングスペースに対し、資金調達を行っています。
シンガポールやイスラエル、ヨーロッパの小国で、スタートアップ支援が盛んです。
そのため、人口5,000万人の韓国全体よりも、まずは地方自治体レベル(ソウル市で約1,000万人)で、フェムテックのスタートアップ支援に取り組んでいく。その後、徐々に国単位に広めていくのは、ひとつの得策なのかもしれません。
ただし、日本では国単位→地方自治体レベルの取り組みが、フェムテックについては多いと感じます。トップダウンかボトムアップか、国の考え方やジェンダーギャップに対する危機感が異なるからだと推測しています。女性の健康サポート系は、もっと便利になると嬉しいですね。基本的に何かの不調とともに生きている人が多いので。
そこそこ細分化されていて細やかなソリューションが必要そうなので、スタートアップがやるのがいいかは分かりませんが。韓国のフェムテック注目企業
- Lunit(乳がん検診)
- MotionLabs(婦人科疾患テレヘルス)
- Kai Health(不妊治療)