進撃の中国IT

スピードからエコサイクルへ、シャオミの製品パレードは何を目指すのか

「ブランド価値」を削り続けるシャオミのこれから

2015/4/14
先週この欄で配信した「シャオミ、新製品5機種を発表。怒涛の勢いで周囲を圧倒」では、Pickerコメントが真っ二つにわかれた。一つは、シャオミの勢いと目の付け所が「ユーザー視線」という点への賞賛、そしてもう一つは、スマートフォンという革新事業を離れてきた製品ラインアップへの疑問。実は、同様の声は中国IT業界でも起こっている。ここで、シャオミを見つめてきた、業界ウォッチャーの劉学文氏の視点をご紹介する。

製品「大閲兵」、年々増え続けるラインアップがもたらすものは?

2010年カスタムAndroid OS「MIUI」

2011年スマホ「小米(シャオミ)1」

2012年「小米2」、そしてセットトップボックス「小米ボックス」

2013年「MIUI Ver5」、廉価版スマホ「紅米」「小米3」、テレビ

2014年廉価版タブレット「紅米Note」、ルーター、ミニルーター、タブレット、テレビ、スマホ「小米4」、ウェアラブルデバイス「シャオミリング」、廉価スマホ「紅米2」、小蟻スマートカメラ、スマートコンセント、Yeelightスマート電球、空気清浄機…。

2015年タブレット「小米NOTE」、ミニボックス、スマホ「小米NOTE女神版」、体重計、スマホ「紅米2A」、コンセントタップ、40インチ版および55インチ版のテレビ…。

これらが記憶をたどって探りだした、これまでに発表されたシャオミ製品の数々だ。このほかにもマイナーバージョンアップ、シャオミバッテリーやキーボード、血圧計、イヤホンなどの製品もあった。

こうやって並べてみると、シャオミおよびその提携企業が発表した製品数が急激に増えているということがよくわかる。とりわけ、この4月のシャオミのファンフェスティバル「米粉節」では、一気に5製品が発表された。

雷軍CEOが製品発表会で漂わせた「疲れ」

今年初めの「小米NOTE」発表会の雷軍最高経営責任者(CEO)は、いつもの彼と違っていた。視線は定まらずプロンプターを繰り返し確認し、言葉も練れていなかった。新製品発表会なのに、製品説明書をひたすら読み上げているようだった。

それも不思議ではない。シャオミは2014年後半から爆発的な勢いで新製品をリリースし続けている。製品のエコサイクルが拡大するなか、さまつな製品の発表会でも雷CEOが舞台に立つ。

同氏のウェイボアカウントは、まるで新製品のモデルルームだ。地方なまりの中国語を操るこの中年男性は、SNSで自撮りと自嘲のつぶやきを連発する。どれもこれも、BAT[訳注:百度、アリババ、テンセント、中国IT企業のビッグ3]の経営者とは違う親しみやすさを演出するためだ。

雷CEOは押し寄せるメディアの取材や発表会、サプライヤーとのコミュニケーションを次々とこなしていく。広告代理店5社に匹敵するほどの働きをし、ビジネス界のアイドルとして忙しく働くなか、製品ラインアップ拡充の責任が、雷CEOに覆いかぶさっている。

スピードアップと影響力を求め続ける雷CEO

シャオミと雷CEOに関して、中国誌『人物』に昨年掲載された「雷軍の豹変」や、先日掲載されたばかりの「シャオミの真実」はなかなかの内容だった。後者は少し宣伝臭すぎたけれど、それでもこれらの記事では同CEOをこう描いていた。

「外向きの顔は控えめで友好的、他人ともめることはない。内向きには、株主として、あるいは権力者として、さらには決定権を持つ者として、すべてにおいて絶対的な核心である。何よりも、スピードを求める雷軍はいつもじりじりしている。シャオミの成功はそのスピード感にあり、そこから雷CEOは自分自身にさらなるスピードアップを課しているのだ」

シャオミは、対外的にも内部でも雷CEOに大きく依存する。その拡張で彼にかかるプレッシャーは計り知れない。さらに残念なことに、シャオミ創業者の一人であり、雷の右腕だった黎万強副総裁が昨年10月に第一線を離れてシリコンバレーに移住した。[訳注:黎副総裁は従来担当していた職務を後任に託してシリコンバレーに移住した。シャオミを離れたわけではなく、新製品開発のためだと説明]

シャオミはこれまでに中国ネット黎明(れいめい)期の起業家、元マイクロソフトでグーグル幹部、大学の重鎮など新たな人材を次々と採用してきたが、黎副総裁を超えるほど知られ、影響力を持つ人間はまだいない。

シャオミはラインアップにおいて、自身はいくつかの核心的製品開発に専念し、エコサイクル関連製品は、直系の別会社に任せると再三強調している。ラインアップを拡大するにはうまいやり方だが、製品プロモーションという面からすれば、やはりシャオミのブランドに依存するしかない。

そして、さらには明に暗にシャオミのリソースを使い、シャオミの管理スキームを利用し、何よりも雷CEOの精力を消費する。

人々の支持を得られたからこそ、シャオミは成功できた。そしてその支持獲得は、雷CEO自らのプロモーションが大きな効果を上げる。だから、政界、ビジネス界だけではなく、あらゆる表舞台で雷軍は精力的に振る舞わなければならないのだ。

君はシャオミの製品の何を覚えているか?

今回の米粉節の新製品ラッシュは、かつてのサムスンほどではないとはいえ、中国では異例の5製品同時発表となった。しかし、女性向けスマホ以外の製品は、体重計やコンセントタップなどの関連製品で、ヒット間違いなしという製品は見当たらない。一部はまだ早過ぎたり、とんがり過ぎだとも言えるが、スマホ並の大成功を収めるようなシャオミ製品はまだ生まれていない。

シャオミのエコサイクルに連なる企業は、「シャオミのブランドが巨大な宣伝になる。価格を安く抑えられても得なのだ」と考えている。

しかし、シャオミのブランド効果は製品ラインアップの急増に伴って漸減している。どのような宣伝活動であれリソースと時間が必要だし、ブランドを中心としたプロモーションは、それを消費することで効果が薄れるという法則があるからだ。

スマホには数カ月のプロモーションをするシャオミだが、たった1、2日しか宣伝しないバッテリー、コンセントタップ、ウェアラブルリング、テレビ、セットトップボックス、ルーター、体重計がどれだけ人々の記憶に残るだろう?

宣伝リソースが不足しているのと同時に、類似の問題も存在する。販売ルートのリソースだ。代理店とECサイトに依存するサムスンとは違い、自社サイトによる直販を主力としているシャオミ。だが、製品ラインナップの増大でサイト内が大混雑しているのだ。

重点は「集中、精緻、口コミ、スピード」から「エコサイクル」へ

昨年のシャオミルーターは大きな教訓を残したはずだ。それまでのシャオミ製品は売り切れ必須、プレミア価格で取引されてきたが、その常識が覆され、すべての製品が大ヒットに結びつくわけではないことが明らかになったからだ。

IoT(Internet of Things)やスマートホームというジャンルにおいて、シャオミはいち早く製品を取り揃え、先駆者のイメージを確立した。しかし、シャオミには「ユーザーを教育する強大な能力」はあるが、「目下の需要がないスマート設備販売能力」に限界があった。ヒットしないのも無理はない。

シャオミの時価総額がパソコンやスマホ、サーバー大手のレノボを上回っていることは象徴的だ。これはつまり、ハードウェアメーカーより新世代の産業であるIT企業に高い時価がつくことを意味している。

シャオミは中国モバイルインターネット業界の最大の受益者だが、それに飽き足らず次のトレンドでもリーダーを目指すようになった。

雷CEOの豹変(ひょうへん)は、すでに始まっていたシャオミの構造転換が裏にあった。シャオミスマホを絶対的中心においていた時代の秘訣「集中、精緻、口コミ、スピード」が、それとはまったく違う「エコサイクル」にすり替わった。

毎年剣を磨いてきたのに、今は機関銃1丁で銃撃戦を仕掛けている。驚くばかりの変化だが、剣法のテクニックで機関銃を扱っているようなちぐはぐさも拭えない。
 Military uniform soldier row

どこかサムスンに似てきたシャオミ、何を目指すのか?

「アップルは全身全霊を込めて最高の携帯電話を作り上げる。だがサムスンは次から次に新製品を作っては放り投げてくる。ホイホイホイ、てね。これが気に入らない、じゃ次はこれだ、ホイホイホイ、って具合にね」

これはソウルの建築家、徐乙昊氏の言葉だ。今のシャオミはどこかサムスンに似ている。手品のように帽子の中から次々と変わった製品を取り出してくるからだ。

今のシャオミが目指しているのはライフスタイルの構築だ。ユーザーのありとあらゆる分野に入り込もうとしている。その細やかさは毛細血管クラス。ユーザーをMacbookやiPad、iPhoneといった3点セットに絞り込もうとしているアップルよりも、またソニーやサムスンの家電セットよりもさらに細かいレベルだ。

今の「教育」期間を経てユーザーが新たなライフスタイルを受け入れるようになれば、シャオミはハードウェアにおいてサムスン、ソニーに比肩する成功を収めることができるだろう(とはいえ、設計や技術の面では別だ)。ただしこの戦略にはリスクがあって、2つの疑問が浮かぶ。

「昨年スマートコンセントをリリースしたのに、なぜ今スマート機能のないコンセントタップを発表するのか?」

「米粉節でコンセントタップ発表に費やされた時間は、シャオミテレビ以上だったが、さっぱり盛り上がらないのはなぜなのか?」

あるいはコンセントタップにこそ雷CEOの野心が込められているのかもしれない。昨年、雷CEOはこの製品についてこう語ったことがある。

「すごいことをやっちゃいましたよ。ベッドサイドやテレビ台、オフィスで使うコンセントタップを芸術品のような素晴らしいものにしたんです。3つのコンセント口に加えてUSB急速充電口を3つ付けた。コンセントタップはいつもケーブルがごちゃごちゃしてるけれど、シャオミのコンセントタップはそれを解決。それもたった39元で。中国では年に4億個のケーブルタップが販売されていますが、誰もこの問題に真剣に取り組もうとしてこなかったですしね」(進撃的中国IT「シャオミ流IoT、まずはコンセントタップから」)

スマートフォン業界をひっくり返したシャオミ、次にひっくり返そうとしているのは中国のコンセントタップ、モバイルバッテリー、体重計といったニッチな市場なのだろうか。今回の米粉節で演じられた大パレードはそうした野心にぴったりのショーだった。

(執筆:劉学文/ifanr.com 翻訳:高口康太 写真:@iStock.com/ia_64)

※本連載は毎週火曜日に掲載する予定です。

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