日本製エリートvsグローバルエリート

塩野誠とMr. サスペンダー、エリートを語る

【Vol.2】日本人は「意識高い系」ですら、全然努力していない

2015/4/11
3月、新丸ビルのEGG JAPANにて「日本型エリートは、どうすればグローバルエリートに勝てるのか?」と題した、NewsPicksの特別セミナーを開催。経営共創基盤(IGPI)のパートーナーでIGPIシンガポールCEOの塩野誠氏と、NewsPicksでMr.サスペンダーは見た!を連載するグローバル・メディア・クリエイターのMr. サスペンダーが、日本と世界のエリートについて語り尽くした。セミナーの模様を9回連続で掲載。第1回、第2回は、塩野氏による講演をお届けるする(モデレーター:佐々木紀彦NewsPicks編集長)。
【Vol.1】:エリートとは、恵まれてしまったがゆえに、みんなのために貢献する人

仕組みをつくれる人間が少ない

塩野:日本はアイデアとか目に見えないものでもうけるのが不得意だと言いましたが、現在では目に見える製造業だって、ITなど目に見えないものと結びついていきます。

特に今、IoT(Internet of Things)といわれるインターネットとモノを結びつけるサービスが出てきていますよね。そうやって、ネットとモノが接続されちゃうと、あらゆるものがサービス化されていくんですよね。

つまり「携帯はタダであげるけど、使用料を月々払ってね」という携帯電話モデル、サブスクリプションモデルになってくる。

皆さんの家にも、ソフトバンクのロボットのPepperさんか、Pepperくんが近いうちにやってくると思います。男か女か分からないそうですけど、“あの人”は、センサーの塊です。センサーを家に置くということは、生活をモニタリングされることを許諾するということです。

こんなふうに、今まで一回買って終わりだったモノが、これから毎月のサービスになっていくという大変革の時に、皆さんのようなプロフェッショナルの方々は、ビジネスの仕組みを考えないといけないじゃないですか。

例えば「日本のA社とイスラエルのB社をくっつけてみて、このハードは台湾のC社に作らせて、後ろのアルゴリズムは西海岸のD社から持ってきて」みたいなことを考えなければいけない。それなのに、そういう仕組みをつくれる人間がすごく少ないんですよ。

異なる専門分野や文化をグローバルな仕組みとして融合できる人が日本には少ない。

プログラムマネージャーという“つなぎ屋”

アメリカに「DARPA(ダーパ、国防高等研究計画局)」というインターネットの元祖を作った組織があるんですが、この前、ダーパの人の話を聞いていて、思ったことがあります。ダーパは基本的に「(敵国による)技術的サプライズを防げるもの」という基準で投資をしていくそうです。

例えば、皆さんご存知の通り、東大のSCHAFT(シャフト)っていうロボットベンチャーがありましたが、ダーパが援助したら、グーグルに買われてしまったということがありました。関係者の間では「シャフトショック」と言われ、後から「なぜ日本企業が買えなかったんだ、なぜ守れなかったのだ」という話になった。

もちろん日本企業や日本の投資家にも投資するチャンスはあったと思います。

ダーパにはプログラムマネジャーという人がいて、彼らの役目は、国防における技術と投資をつなぐこと。この人たちの質が異常に高いんです。みんなドクター(博士)で、彼らが研究と投資をつなげていく。

ダーパは、国防要素が強いので日本には馴染みません。しかし、日本はここもすごく不得意。ハイレベルな技術研究とビジネスをつなげる部分、やっぱり見えない系です。そういうつなぎをどんどんやっていかないと、気付いたら、頭脳がとられてガワだけ作っている人になりかねない。

ご存知だと思うんですけど、例えば、「Android OS」ってグーグルがたった50億円ぐらいで買ってきたんですよね。グーグルは作ってないんですよ。ソフトウェアハウスを買ったんですよね。気付いたら、スマホの半分以上は、Androidになってしまった。

今の時代の日本にはつなぐ人が必要ですし、皆さんには見えないものをつくり出す人になってもらいたいと思います。

CPUが良くても、努力が止まっている人

ところで、私がよく質問を受けるのが、「プロとして生きていくためには、何をどれくらい知っていたらいいか?」ということです。こういうとき、私はいつもこう言います。

「一人で海外に行って、業務・資本提携して帰ってこられるぐらいだったら、まぁいいんじゃないですか」と。

これは事業、財務・会計、ファイナンス、法務、交渉、語学、社内根回しとか、全部入るんですよね。業務・資本提携って、かなり短期間での実行で、しかも「全部のせ」なんです。

例えば、弁護士をコントロールしたりとか、現地の調査会社をコントロールしたりとか、社内の偉い人を現地の偉い人に会わせたりとか、交渉で「それはのめないよ、フン」とか言ってみたりとか。それを日本語でやったり外国語でやったりしないといけない。だから答えとしては、まずはそれくらいできるようになろうということですね。

私、今回の本(『世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか?』)に、「この本は対象を選びます」って書いてます。「なぜなら『Amazon』で変なレビューを書かれたくないから」って。

そうすると「意識高い系だ」とか悪口を言われるんですが、私からすると特に高くないんですよね。だって採用面接していても、みんな全然努力してないですから。CPUが良くても、努力が止まっている人が多いなって思うんです。

そういう人は、学校の成績はいいですよ。その人が四谷大塚や日能研に通っていた10歳ぐらいの時は、私のほうが偏差値が50ぐらい低かったと思います。でもそのあと有名大学に行って、有名な会社とか入ってから止まっちゃってる人がすごく多い。

そこから20年、30年あるんだから、真面目にコツコツやると追い抜けるのに、なんで止まっちゃったんだろうな、と。

さっきの「海外で一人で提携してくる」みたいなハードスキルは、たいていの人が持てるんです。ファイナンスや会計の知識はコモディティだし。むしろ人間力やアイデアのほうが、ずっと手に入れるのは難しい。

だから地道に努力すればいいと思うんです。人間は死亡率が100%でしょう。皆さん、いつか必ず死んじゃうじゃないですか。私も、最近実感するのが、体力の衰え。それに年を取るとライフイベントが多い。

35歳や40歳になるときつい

だからよく考えると、一生懸命に仕事できる時間はすごく短い。地味に努力できる時間はすごく短いんです。

財界人と話していると、「いや、俺なんてね、昔頑張った余韻で30歳からずっとメシ食ってんだよ」なんて言う人がいます。「あなたもう70歳でしょ、40年間、余韻かよ」って思いますが、そういう感じは、何となく、分かり始めてきました。

やっぱり35歳とか40歳になると、いろいろな点できついなと思うんですよね。私、今、シンガポールオフィスのマネジメントをしているんですが、シンガポールで採用すると、応募してくるのはシンガポール人に限らないんですよ。

マレーシア人とかインドネシア人で、シンガポールの永住権を持っていて、MBAとか、弁護士とか、会計士とかで、中国語と英語を完璧に話して、勃興する母国語の言語を話す。

しかも、まだ20代。もし今、自分が20代だったら、こういう人たちと戦わなければいけないんだから、きついですよね。私にあるのは、流暢な日本語ぐらいですから。

アジアでビジネスの交渉をしていると、向こうのCEOって40代なんですよね。この前、伊藤忠商事の筆頭株主になったタイの大手財閥ジャルーン・ポーカパンというところがあります。あそこは巨大な財閥で、いろいろな部門というか事業があるんです。

そこの某事業カンパニーには、社長で学者でテレビの司会者で、そのテレビ番組には息子も出しているというような人たちがいます。

そういう人たちと交渉して、「今ここで決めて」と言われたときに、交渉者の決裁権限がなくて「持ち帰ります」って言うと、「もう終了」みたいなことが本当にあります。今はそういうアジアの人たちと渡り合っていかないといけない。

「Know How 」より「Know Who」

今はリーダーシップをとる国がいない。G7ならぬG0(ジーゼロ)だと言われていますけど、これから相対的に日本の国際的地位が下がっていって、日本人はかなり優秀なアジアの人間たちと対峙していかなければなりません。そうした時に何ができるか、今から考えておかないといけない。ぐずぐずしていたら、すぐ時間が経ってしまいます。

私自身が若い人に言うのは、プロフェッショナルとして、20代に必要な能力は、先ほど申し上げたように、事業、財務、法務うんぬんというハードスキルです。

でも30歳を超えたぐらいから、「Know How」じゃなくて、「Know Who」つまり「誰を知ってるか」のほうが重要になってくる「誰に電話できるか?」です。

そして次に大事なのが、誰かと対峙した時に「人としてどうなの?」みたいな話です。人間力、教養、あとは覚悟ですよね。

例えば、皆さんご存知の会社でも「あの時にあの事業を売っていれば絶対こういうふうにならなかったのに」ってケースがいっぱいあるじゃないですか。そういうときに明暗をわけるのは、覚悟があるかないかです。「誰に嫌われても会社のためにこのビジネスをやめます」というのは覚悟の問題。

その覚悟がなかった会社は、かなりきついことになっている。逆に、会社を守るために「もう俺はここで死ぬつもり、私はここで死ぬつもりだから」という覚悟を持ったところが、今はかなり上昇基調に入ってきていると思います。

Mr.サスペンダーさんと話していきたいのは、ダイバーシティですね。日本企業の取締役会には、日本人男性しかいないという時点でけっこうつらいな、と。ここは大きな論点だと考えています。

私自身も毎日迷いながら、どうしていこうかと思ってますが、元気に働ける時間は短い気がします。

では、今からMr.サスペンダーさんを呼んで、私もいろいろ教えてもらおうと思います。

※続きは明日、掲載予定です。

(構成:長山清子)
塩ペンダー_プロフ