記者クラブの外から見る

花巻東リポート 第3回

花巻東の野球は、ダーティーか創造的か?

2015/4/10
雪国から好選手が生まれないという野球界の常識は、もはや過去のものになろうとしている。花巻東高校から菊池雄星(西武)や大谷翔平(日本ハム)が現われ、後輩たちがそれに続こうとしている。その立役者が同校野球部の佐々木洋監督だ。佐々木が起こしたみちのくの野球革命とは──。
花巻東高校野球部の佐々木洋監督は、受験で訪れた中学生に「一般的に本を読みなさいと言われますが、そもそもなんで読まないといけないと思いますか?」と質問する。大事なのは、「なぜ本を読む必要があるのか、考えること」(写真:中島大輔)

花巻東高校野球部の佐々木洋監督は、受験で訪れた中学生に「一般的に本を読みなさいと言われますが、そもそもなんで読まないといけないと思いますか?」と質問する。大事なのは、「なぜ本を読む必要があるのか、考えること」(写真:中島大輔)

カット打法が生まれた背景

菊池雄星や大谷翔平という大物選手を輩出してきた花巻東高校野球部は、2013年夏、「ダーティー」なイメージで世間の注目を集めた。

「甲子園でお騒がせした、千葉翔太という小さい選手がいます」

同校野球部監督の佐々木洋にインタビューしていると、少々聞きづらい話題を自ら切り出してきた。千葉は2013年夏の甲子園で、狙ってファウルを打ち続ける「カット打法」が論議を呼んだ選手だ。準々決勝の鳴門高校戦では相手投手に5打席で計41球投げさせ、ファウルで粘って全打席で出塁している。

ところが高校野球連盟は「高校野球特別規則・17」に引っかかるとし、千葉にカット打法の自主規制を求めた。「高校野球特別規則・17」を簡単に説明すると、「故意にファウルを打ち続けた場合、審判の判断でバントと判断する場合もある」という趣旨だ。一般的なプレーでは、2ストライクからバントでファウルとなった場合、三振扱いでアウトになる。

個人的には、「高校野球特別規則・17」のようなくだらないルールはそもそもなくすべきだと思うが、今回考えたいのは、千葉はなぜカット打法を行ったのだろうか、ということ。その背景にあるのは、花巻東の教育方針だ。佐々木が説明する。

「千葉にウエイトトレーニングを頑張り、ホームラン打者になるようなことは求めていません。それよりバントでも何でもいいから、出塁してほしい。うちでは『外野手はこのメニューをやりなさい』とみんなに同じ練習をさせるのではなく、『このメニューはこの子の個性を伸ばす内容になっているのか』と考えます。なぜなら193cmの大谷も伸ばさなければいけないし、156cmの千葉も生かしてあげなければいけない」

自分はどうすれば、成長していくことができるか。佐々木は選手に自問自答させるべく、「自ら考える環境」をグラウンド内外で用意している。

「ゼロ時間授業」で考え方を習得

そのひとつが、冬のある時期に行う「ゼロ時間授業」だ。朝7時半から8時20分まですべての野球部員が出席し、「花巻東の知恵」と題した授業を実施する。その目的について、佐々木が説明する。

「学校は答えを教えるところではなく、考え方を教える場所。野球の打ち方や投げ方を教えるところではなく、野球を通して考え方、取り組み方を教えるところだと思う」

第1章は、「原理原則を知る」。物事を結果で判断するのではなく、原因を追求するよう徹底させる。

「世の中の物事にはすべて原因があり、結果があります。運がいい、悪いということではない、と。『人生はブーメランだから、投げたものはそのまま返ってくる』『いい種をまくと、いい花が咲く。種まきをするのは学生の頃で、その実を刈り取るのが社会人の頃だから、今はすごく大事な時期』という話をしています」

第2章は「自分を変える」。あらゆるタイプの成功を目指すうえで、根幹に持っておくべき考え方だ。

「とにかく自分自身を変えないと、『外』は変わらない。だけど、みんな外を変えようとする。指導者であったり、環境であったり。でも自分自身が変わらないと、何も変わらない。全部原因が内にあることを分かりなさい、ということをずっと話しています」

さらに、「お金のリターンの話」が興味深い。お金の使い方を学ぶことで、時間の使い方も有効になる。

「お金の使い方には、投資と消費があります。投資は後からリターンで返ってくるもの。消費はそのままなくなるもの。『投資で返ってくるものに対して、お金を使いなさい』という話をします。時間も同じだと思いますね。投資と浪費がありますよね? 例えばゲームを一生懸命やっても、何も返ってきません」

なぜ勉強しなければいけないのか?

かつて名門と言われる高校や大学では、野球部員は野球さえすればいいとされてきた。今やそうした風潮はなくなりつつあるが、では果たして、本気で勉強に取り組んでいる野球部員はどれだけいるだろうか。

学生は、なぜ学校で勉強しなければいけないのか、本当の意味で理解している者はそう多くない。だから佐々木は、花巻東の選手たちにこう話している。

「勉強しなければいけない理由は、リターンがあるから。それは仕事も勉強も野球も、全部一緒だと思う。たとえるなら、全部、テクノロジーのようなもの。それを効果的に行うには、考え方として頭のソフトを正しく持たないといけない」

野球さえ練習していれば、野球が強くなるという考え方はもはや古臭い。勉強から何を得て、野球に生かすのか。他分野からいかに学びを得ていくかが重要なのは、野球でもビジネスでも同じである。

それができるようになるには、子どもの頃から考え方を学ぶことが重要だ。佐々木は言う。

「子どもたちは『打てない』と悩み、『なぜ打てないのか』と考えません。期末テストで点数がとれなくても、『点数が悪かった』で終わってしまう。だから、因数分解ができなかったのか、ルートの計算ができなかったのか、具体的に教えてあげないといけない。技術を上げるためにも、そもそも考え方が非常に大事なのではと思っています」

花巻東から、なぜ優秀な選手が続々と台頭してくるのか──。その答えは「ダーティー」と言われるまでに選手が考え抜き、世間の常識にはとらわれず、自分たちの最適解を求めていくからだろう。

野球もクリエイティブに行えば、強くなる。(文中敬称略)

※本連載は隔週金曜日に掲載する予定です。