日本製エリートvsグローバルエリート

塩野誠とMr. サスペンダー、エリートを語る

【Vol.1】エリートとは、恵まれてしまったがゆえに、みんなのために貢献する人

2015/4/10
3月、新丸ビルのEGG JAPANにて「日本型エリートは、どうすればグローバルエリートに勝てるのか?」と題した、NewsPicksの特別セミナーを開催。経営共創基盤(IGPI)のパートーナーでIGPIシンガポールCEOの塩野誠氏と、NewsPicksでMr. サスペンダーは見た!を連載するグローバル・メディア・クリエイターのMr. サスペンダーが、日本と世界のエリートについて語り尽くした。セミナーの模様を9回連続で掲載。第1回、第2回は、塩野氏による講演をお届けるする(モデレーター:佐々木紀彦NewsPicks編集長)。

日本ではエリートが安い

佐々木:本日は「日本型エリートはどうすればグローバル型エリートに勝てるのか」というテーマで、塩野誠さん、Mr. サスペンダーさんと議論したいと思います。

最初に塩野さんに新刊『世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか?』(KADOKAWA)の内容を紹介してもらった後、Mr. サスペンダーさんと対談してもらいます。そして最後に、会場のみなさんとQ&Aを行う流れです。

それでは、塩野さん、講演よろしくお願いいたします。

塩野:皆さん、こんにちは。ただいまご紹介にあずかりました塩野でございます。本日は、大変お忙しい中、よくこんなに大勢の方に来ていただき、本当にありがとうございます。

最初に謝らないといけないのは、私は全然エリートじゃないのに、こんなテーマで話していいのかっていうことですね。

編集長の佐々木さんがつけちゃったんですよ、このタイトル。今度の本のタイトル(『世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか?』)も私がつけたんじゃないんですけど。

この本は今回参加費を払ってくださった皆さまにお配りさせていただいております。この本だけでなく、本日は必ず何かしらバリューを持ち帰っていただきたいと思います。

まず先ほど申し上げたように、私自身は全くエリートじゃないんです。むしろチキンなチンピラなんで(笑)、本当にごめんなさいって感じです。

でも日本ではエリートという言葉が安易に使われすぎていると思います。日本はエリートが安い。

日本って、ちょっとおカネがあるとセレブになって、ちょっと良い学校出てるとエリートになってしまう。僕はエリートというのは、頭脳とか境遇が人より恵まれてしまったから、世のため人のために何かせずにはいられない人だと思っているんですね。

突然お金持ちになった人の行動パターン

私は以前、外資系コンサルにいたのですが、その時の先輩に、「自分はもう頭が良過ぎてしまって、これは世間のために何かしないとやばいと思った」と言う人がいました。なにそれ、って感じですよね。元経産省の人だったんですけれども。

その人は、「俺、なんにもしないのに、超勉強できちゃうんだよ」とか言って、「これは世のために何かしないといけないと思って経産省に行ったら、あまりにも世の中からあることないこと批判されるので、もうつらくなっちゃってね」ということでコンサルに来たそうです。

でも、その人は本当に人間としても素晴らしい人で、その後、公的機関に戻られました。私はこういう恵まれてしまった人が本当のエリートだと思っているんです。

そんなわけで私の定義では、「エリートとは、恵まれてしまったがゆえに、みんなのために貢献する人」だと思っています。逆に言えば、私のように学も無い運だけがいいような人間は、全くもってエリートではありません。

私は今までM&Aをやったり、ベンチャーかいわいを見てきたりしたのですが、そうすると、急にお金持ちになる人を見るんですね。自分の会社をいいタイミングで売ったりすると、突然うだつの上がらないおじさんに50億円ぐらい入っちゃったりするんです。

そうすると、人間の行動パターンはだいたい決まっていて、まず腕時計が大きくなる(笑)。そのうち電話に出なくなって、いつもゴルフ場にいるようになって、彼女が増えていくんです。決まってこの道をたどるので、人間って、特に男は想像力がないなあと思いますね。そういうのを20代の時から見てきました。

だからそういうことを考えていくと、おカネとか出世というものは、人間にとっていい試金石だなと思います。内村鑑三という方が書いた『後世への最大遺物』という本があります。内村鑑三はその本の中で読者に問うんですよね。自分が世に残せるのは何なのかと。

カネなのか、事業なのか、思想なのか。本当に冊子みたいな薄い本なので読んでいただければと思うんですけれども、答えを言ってしまうと、「人間が世の中に残せるのは生き方ですよ」という話です。勇ましい高尚なる生涯、真面目なる生涯、それ自体に価値がある、みたいな話です。

人間には際限なく欲望がある

人間は自分の器より大きいおカネが入ってくると、器が壊れちゃうんですよ。昔の投資銀行時代の上司がこんなことを言ってました。

「おカネにはそれ自体にすごい力があるから、おカネのことをちゃんと分かってない人に、ものすごいおカネが入ると、まずね、家族が病気するんだよ」。

なんてオカルトチックな、と思ったんですけど、最近は私もそういうこともあるんじゃないかと思うようになりました。今日この会場にいる皆さんは、これから巨万の富を築かれる方々ですから、今からちゃんとシミュレーションしておいたほうがいいと思います。

あとはいろいろな経営者の方々、素晴らしい方もそうでない方もたくさんお会いしてきましたが、人間の欲望にはキリがないと思うんですよ。みんなから「エリートだ」「素晴らしい経営者だ」って言われて、巨万の富を持っても、まだプロ野球球団やサッカークラブを買っちゃったりするじゃないですか。

多分どんなにおカネを稼いでも、そのビジネスが世の中からまだエスタブリッシュメントとして認められていないと思うと、自分のプライド的に、「これで終わっていいのか?」みたいな気持ちになるんでしょうね。だからおカネを手にしたら、今度は名誉とか尊敬がほしくなる。もう人間って際限なく欲望があると思います。

なので、この本でも触れましたけど、自分のライフスタイル、日々の日常生活そのものをどういうふうにつくっていくのかが一番大切だと思います。

アイデアにこそ価値がある

この本のコンセプトは、「トッピング全部のせ」なんですよ。「会食の時、床の間の前は上座?」みたいな話から、「提携契約の表明保証」みたいなことまで書いてある。

特に強調したかったのは、アイデアの価値です。アイデアというものに、今すごく価値がある。例えば今日ここにもプライベート・エクイティ(PE)の方とか、機関投資家の方とかいらっしゃるかもしれませんが、PEとか投資家の方の投資委員会資料って、最初にインベストメント・ハイライトとか投資機会って書いてある。

この投資はなんでもうかるのかって話が非常に端的に書いてあるんですよね。「この投資アイデアいいね」みたいな話です。そのアイデア自体にすごく価値がある。

例えば投資家同士で何らかの投資戦略について話していて、一方が「その投資戦略、絶対いけるね。そのトレンド、絶対ベット(賭ける)したほうがいいよ」とアドバイスしたとします。

「じゃ、やってみるね」といって本当に稼いじゃった人が、クリスマスに突然、そのアイデアを教えてくれた人の口座におカネを振り込んだり、プレゼントを贈ったりする。「このおカネ何?」と聞くと、「いや、この前教えてもらったアイデアのお礼だよ」というようなことが本当にあるんです。

でも日本人はアイデアのように目に見えないものにあまり価値を認めたがらない。今日のテーマである日本型云々の話をすると、日本人って目に見えないものでもうけるのがすごく不得意だなと思ってるんです。

例えば金融、IT、ゲノム。ITならソフトウェア。途中まではけっこういい線いってたはずなのに、今は負けこんでる。

最近私、人工知能(AI)の本も出しました(「東大准教授に教わる、『人工知能って、そんなことまでできるんですか?』」)。AIのトップを走る東大准教授の松尾豊先生との共著なんですが、日本は1980年代に通産省(現・経済産業省)がAIにめちゃくちゃおカネをかけたので、いい線いってる人たちがいっぱいいたんですよね。いたんですけど、また負けている。

松尾先生いわく、「世界の人口知能研究者のトップ50人は、ほとんどフェイスブックとグーグルの社員になりました」だそうです。

(突然、客席からグーグルマップの案内の音声が流れる)「その先、目的地は」

塩野:そう、そうなんですよ。今の「その先、目的地は」みたいなナビゲーションのシステムも、うしろでアルゴリズムが動いていると思うんです。そのアルゴリズムの一部はAIです。

日本人はiPhoneのSiriだって、余裕で作れたんですよ。作れたのに、Appleが出してしまった。だから見えないもの系はけっこう苦戦していると感じています。

※続きは明日、掲載予定です。

(構成:長山清子)

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