30年後に備える資産運用

退職者向けに無料アドバイスも

英国は実践する投資教育、日本は義務教育にすべきか否か

2015/4/9
日本で長らく必要性が叫ばれる投資に関する教育。ついに英国では“入り口”と“出口”でケアが始まりました。2014年から義務教育に金銭教育が導入され、2015年4月からは退職者向けに無料の投資アドバイスもスタートしています。健全な投資の流れをどのように根付かせればいいのか、今回は英国の事例を参考に考えてみましょう。

義務教育としての金銭教育

英国の投資教育は、教育省が主導になって2014年9月に始まりました。日本でいえば公民にあたるCitizenship programmes of studyで、投資に関する教育を行います。また、カリキュラムの内容も年齢によって異なります。

例えば、11−14歳のカリキュラムであれば、お金の使い方と機能、計画を立てることの重要性と実践、リスク管理の仕方が教えられます。年次を経て、14-16歳では収入と支出、クレジットと負債、保険、貯蓄(投資)と年金、金融商品とサービス、そして政府の歳入と支出が盛り込まれています。

なかなか難しい課題に取り込んでいると思いますが、投資教育というよりは金銭教育を念頭に置いている点が注目です。

携帯電話の料金プランを考える

ところで、私はこの3月まで2年間にわたって、テレビ九州で投資教育のテレビ番組を担当してきました。特に、直近の1年間は海外のお金に関連する話を紹介してきましたが、その中でも、この金銭教育の場面を説明しています。

「実践的な子どもたちの金融教育」と題して、12歳の子どもたちの実際の授業を紹介していますが、その中身は興味深いものです。

収録の際の授業のテーマは、携帯電話の利用プランや保険プランでしたが、グループごとに自分たちに見合った利用プランをともだちと議論して決める方法は、子どもたちが笑顔でディスカッションしていることもあって、とても羨ましいと思いました。子どもたちにとって身近で、実践的なので興味を持って参加していますし、それが将来の投資教育にもつながるように思います。

参照:【大人のための世界マネーの旅】第49話 イギリス篇・暮らしとお金 実践的な子ども達の金融教育

投資教育は義務教育が担うべきか

「日本でも、投資教育を義務教育のなかで扱うべきだ」との意見があります。英国の事例は、投資教育につながる金銭教育を、学校教育のなかで実践している好例ですが、これをそのまま日本に持ち込めるのか、十分に考える必要があります。

投資教育の前段階にあたる金銭教育を、義務教育でもカバーすることは大切です。ですが、それが家庭で金銭に関する教育の放棄につながっては本末転倒でしょう。「おカネのことは、なかなか家庭では教えられない」という言葉で、義務教育に押し付けてはいけないと思います。

フィデリティ退職・投資教育研究所が行ったアンケートやインタビュー調査でも、投資と教育は関連性がある結果が得られています。例えば、「20代で資産を持っている人ほど、おカネの情報を家族との会話から得ている」ことや、投資している女性のインタビューでは、そのきっかけは「父親が投資していたから」という答えが意外に多くありました。

また、最近の確定拠出年金(DC)関連のインタビューでも「家族や仕事仲間とのおカネに関する会話が投資のキッカケになった」としている人が多くいました。実は家庭内でしっかりと話す必要があるものは、おカネなのかもしません。

退職者向けの投資教育もスタート

“入り口”である義務教育で金銭教育を行うイギリスですが、“出口”でも同様の施策を設けています。それが、退職者が無料で受けられる投資アドバイス。制度名は「Pension Wise」です。2015年4月にスタートしました。確定拠出年金の加入者は、1回だけですが、投資に関するアドバイスを無料で受けられるようになりました。

そうした施策を開始した理由は、DCの利用の自由度アップ(第18回「欧米では、資産形成同様に資産取り崩しの腕が問われる」参照)があるからです。一つは、引き出す際の金額制限が無くなったこと。もう一つは、引き出し可能年齢が55歳まで引き下げられたこと。退職する前にDC資産を引き出すことも可能になったのです。

こうした、金額や年齢の大幅な緩和によって、DC資産の使い道は一気に広がりました。だからこそ、アドバイスが必要になってきたと言えるでしょう。

このアドバイスには、具体的に、Face to Faceでの面談が含まれ、財務省がそのサービスの全体像を監督する権限を持つことなどが含まれています。費用は、金融行為監督機構(FCA)が業界から徴収して、それを原資にする案が進んでいます。

投資教育・アドバイスを行う非営利団体

実は、英国には投資教育を担当する非営利団体が多くあります。338の慈善団体の集合体であるCitizens Advice Bureauや労働年金省(DWP)の助成金を受けて設立されたThe Pension Advisory Serviceなど、投資教育を担う非営利団体が意外に多く存在しています。

今回の出張では、Money Advice Service(MAS)という団体を取材することができました。

MASは、「Financial Services Act 2010」という法律をもとに、2010年4月に設立された機関で、2011年4月から、ファイナンシャル・プランニングの重要性を訴える普及・啓蒙活動や教育ツールの提供などを手がけています。各種金融商品のメリット・デメリットを伝えるものの、実際の投資アドバイスは行わないことが特徴です。

MASはオンラインや電話、面談の各種方法で投資教育を無料で実施し、そのコストはFCA経由で金融業界が負担するかたちをとっています。年間で10万件の面談を実施しているとのことで、資産管理のメリットや税金対策、家計管理、負債の削減などの相談が寄せられているとのことです。

欠けている政府のコミットメント

以前にもこのコラムで書きましたが、日本は超高齢社会にもかかわらず、退職者に向けた資産管理の考え方が十分、広まっていません。

金融業界の中にも、退職後の資産管理と現役時代の資産形成を混同している人もいるくらいですから、仕方ないかもしれません。

だからこそ、政府が設立に関与した非営利団体を日本にも設置して、大きく育てていくべきでしょう。そこが中心となって、もっと投資教育を盛り立てていくことが求められていると思います。

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※本連載は毎週木曜日に掲載予定です。