[東京 8日 ロイター] - 日銀は8日、政策の現状維持を決めたが、マーケットでは追加緩和を見込んだトレード、いわゆる「日銀プレー」は終わらなかった。市場の一部で4月30日の日銀会合での追加緩和に期待が残っているためだ。

ただ、実体経済に与える効果には疑問を示す声も少なくない。潜在成長率が下がり低金利下が続くなかでは、マネーは国債など市場内にとどまり、実体経済や物価を押し上げる力は乏しいとの見方もある。

<高齢化による成長率低下>

投信系シンクタンクで社会保障や年金が専門のあるアナリストは最近、韓国や中国に呼ばれることが多いという。実は韓国や中国は、日本よりも高齢化のスピードが速い。「高齢化社会の『先輩』である日本の事情や取り組みを教えてほしい、というニーズがものすごく強い」という。

高齢化は日本だけではなく、今や世界的な現象だ。国連のデータによれば、65歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合である高齢化率は、2010年の7.6%から2060年には18.3%となる見込み。その間に、世界人口は20億人以上、増加するにもかかわらずだ。

国際通貨基金(IMF)は7日、「Lower Potential Growth : A New Reality」と題するリポートを公表した。近年、先進国だけでなく、新興国でも潜在成長率が低下していると指摘。その理由は高齢化だとしている。高齢化により、生産性の伸びが鈍化。財政の持続可能性など新たな政策課題が浮上すると警告している。

<長引く低金利予想>

潜在成長率が低下するということは、市場では低金利がしばらく続くとの予測を強めることにつながる。市場が低金利が続くとみれば、いくら金融緩和をしても、その緩和マネーは国債に戻ってしまう。低金利の背景である低成長は、投資先が乏しいということであり、貸し出しは伸びにくい。

「潜在成長率が低いままでは、金融緩和をいくらやってもその資金は長期金利、長期国債購入に向かう。金利は低位で保たれるものの、企業の資金需要とは関係ないところでおカネがグルグルと回り続ける今の状態が続くと、容易に想像できる」と、りそな銀行・総合資金部チーフストラテジストの高梨彰氏は指摘する。

実質金利が低下しても、投資先がなければ、経営者は投資には資金を振り向けにくい。今年1月のロイター企業調査では、15年度の国内設備投資計画を立てるにあたり、最も重視するとされたのは、国内需要の動向(製造業の47%・非製造業の73%)だった。一方、実質金利の低下を挙げたのは製造業、非製造業ともに1%にとどまっている。

<2度の「バズーカ」でも上がらぬ物価>

市場では、日銀の追加緩和観測が強まっている。日銀は8日の決定会合で、政策を維持したが、日経平均<.N225>は年初来高値を更新。証券や不動産など金融緩和でメリットを受けるとみられている金融株もあまり下げなかった。「海外勢が日銀決定会合に合わせて日本株買いや円売りを行う日銀プレーは、30日の日銀会合まで続くのではないか」(外資系証券トレーダー)との見方も出ている。

しかし、最初の異次元緩和から2年。消費者物価(CPI)は、むしろマイナスに近づいている。2月は消費税の影響を除けば、コアCPIが0.0%、エネルギーを除くコアコアCPIでも0.3%だ。コアコアにも石油関連製品が含まれるので、原油安の影響があるとの見方もあるが、物価の基調は強いとは言いにくい。

国債だけでなく株式(ETF)さえも買う日銀の量的・質的金融緩和は、金利を押し下げ株価を上昇させる効果を見せており、マーケットへの「威力」は絶大だ。しかし肝心の物価は目標の2%に遠く、実体経済の足取りも弱い。

日銀の追加緩和は、材料に飢えた市場(金融相場)には歓迎されるかもしれない。しかし、少なくともいまの政策の枠組みのままでは、実体経済への効果は疑問視されそうだ。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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